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クラウディブルー THE BLUE LOVE STORY

作者: 星河竜樹
掲載日:2026/03/01

この世界では、

一発逆転の人生を選択できる。

ただし、その対価は自らの命。

アモの種を食べると、10人に9人は死ぬ。

しかし生き延びたものには

体のどこかに数字が現れ、

その倍数分だけ身体能力が上昇する。

こうして神に選ばれし者のみが

帝国近衛師団に入団を許される。


さらに数字が10以上であれば、

特権階級の最高親衛隊に入隊となり、

非常にまれなゾロ目ならば、

騎士の称号を与えられ帝国軍の象徴となる。


僕らは、草木をかじり

泥水をすすりながら、

ここまで旅を続けてきた。


「‥私、自分の人生を変えたいの。」

ミホが静かにつぶやた。

彼女は美しい。

泥にまみれた顔であっても、

その美しさは突き抜けてくる。


ミホは僕の初恋の人だ。

僕が勇気を出して告白してたら、

付き合えただろうか?


‥ああ、本当に残念だけど、

僕は一度も女性と付き合うことがないまま、

死んでしまう可能性が高い。


「‥でもさ、

本当に命を賭ける価値ってあるのかなぁ?」

僕はつい言ってしまった。


「マサ、いまさら何だよ。

俺たち4人は、覚悟を決めてここまで来たんだろ。

嫌なら帰れよ。

俺は、ゾロ目を出して騎士になる。

そうだろ、テツ。」


「ああ、トシの言う通りだ。

あの村には、もう戻らない。

疫病で腐りながら死ぬか、

飢え死にするくらいなら、

俺は自らの意思で

自らの運命を切り開く道を選ぶ。」


今晩、僕らは帝国軍養成所の宿舎に泊まる。

他にも1000人ほどの志願者がいた。

明日が年に一度、

僕らにとっては一生に一度の選択の日となる。


「明日生き残ったら、

暖かい食事と風呂が用意されるってよ。

明日は、必ず4人全員で乾杯しようぜ!」

トシの明るさに僕らは救われた。


就寝時間が近づき、

僕らはそれぞれ

自分の割り当てられた部屋に戻った。

僕の泊まる棟では、

志願者の中で一人だけ、

僕だけが一階の部屋を割り当てられた。

それは宿舎の出入り口のすぐ横の部屋だった。


部屋はまるで狭い牢獄のようで、

窓の外には鉄格子がはめ込まれ、

部屋の入口の鉄の扉は、

内側ではなく外側から鍵をかけるように

なっていた。


死が間近に迫るほど、

僕は生きたいと強く願っていた。

そうだ、まだ少しだけ時間はある。

逃げはしない。

せめて最後に遮るものの無い夜空を見ようと、

そっと抜け出し外に出た。


‥先客がいた。

そこにはタバコをふかして佇んでいる

一人の幼なげな少女がいた。


今夜は満月、スーパームーン。

月の強い光の中、

僕は少女がとても綺麗な顔立ちをしているのに

気づいた。 


きっとこの幼なげな志願者の少女も、

無理して大人ぶって、

迫る死の恐怖を紛らわしているんだろう。


ちらっと目が合った瞬間、

僕は自然と微笑んでいた。


‥それから僕は部屋に戻り、

‥鉄格子からもう一度月を眺めた。

‥そして振り向くと、

‥さっきの少女が

‥そこにいた。


少女はこの狭い部屋の中、近づいてくる。

僕は突然のこの状態にひどく混乱した。


「なに‥?」


「あなた、さっき私の事見て笑ったでしょう?

バカにしてるの?」


「えっ?」


「大人ぶってるって思ったでしょう。

私は、もう19よ。あなたはいくつ?」


「僕は22だよ。ごめん。

嫌な思いをさせてしまったなら謝るよ。」


「いいわ、別に怒ってる訳じゃない。」

そう言うと、

彼女は断りもなく僕のベッドに腰掛け、

生まれ故郷はどことか、

そんなたわいのない話を始めた。


「横に座ったら」

彼女は言った。


童顔だが美しい彼女を前に、

僕は自分の胸の鼓動が

限界に近づいているのがわかる。


「いや、ちょともう

自分の部屋にもどりなよ。

就寝時間も過ぎてると思うし‥

さすがに僕も男だし、

君を襲っちゃうかも知れないよ。」


「いいわよ」


「いいって‥?」

僕は戸惑い動揺した。


「僕らは今、会ったばかりだし、

僕は何日も水浴びしてないし、

ひどく汚れているし‥」


「変に思わないで。

私、汗の匂いとか結構好きかも」

彼女はすっとベッドに横になった。


窓からあふれた月光に彼女は包まれている。

朝露を弾く紫陽花のような彼女の肌は、

信じられないくらいとても美しかった。


「恥ずかしいから、窓閉めて‥」


彼女の言葉に、僕は静かにそっと窓を閉めた。


僕は初めてのことに、とても緊張した。


「ベイビーちゃんができたかも、パパ。」

イタズラっぽく彼女は笑った。


「パパって‥

名前で呼んでくれよ。

僕の名前はマサ、真名はユキ。

マサ=ユキ、真名によってなす意味は

正しく行く者。」


「私はアサ、真名はミ。

アサ=ミ、真名によってなす意味は

美しい朝を招く者」


「アサ=ミ、とてもいい名前だね。」


帝国出身の者は、

極めて親しい人にしか真名は明かさない。

真名によってなす意味に、

神聖な神の力が宿っていると信じているからだ。


そして僕らは、

ほんの少しだけ窓を開け、

月明かりの中

お互いの顔を見ながら話をした。


「私、人生を変えたいと思ってここに来たの。」


衝撃だった。

彼女は弟を養うために、

体を売って生計を立てていた。

やっと弟が16になり独立してくれたので、

ここに来たそうだ。


「また明日ねマサ。

あっ、もう今日かも」


月が雲に隠れて辺りが暗くなると

彼女はそっと自分の部屋に戻って行った。


早朝、薄いクラウディブルーの空に

白い月が光っていた。

とても美しい朝だった。


ほどなくして軍医が、

上の階から選択の儀式を始めるという。

僕の部屋は一階だから、一番最後だろう。


‥その間、

僕は人生を変えたいと言っていた

二人の女性を思い返した。

答えはない。

選択の時間が訪れるのを

静かに待った。


入って来たのは、

ショートヘアの若くて妖艶な女医だった。

白衣の胸元がまぶしい。


トレイの上には、

小指の爪くらいの大きさの

アモの種が3つと、

コップ一杯の水が置いてあった。


「ひとつだけ選んで、噛まずに飲み込みなさい。」


女医は僕の口を開けさせ、

間違いなく飲み込んだことを確認してから、

ベッドに横になるよう指示した。


「すぐに効果は現れます。

1時間程したら、様子を見に来ます。」


外からカチッと

部屋に鍵を掛ける音が聞こえた。


深呼吸を1回したかもしれない。

僕はあっという間に意識を失っていた。


感覚的には

瞬きをしたくらいの時間だと思う。


「起きなさい。」

目の前に、あの女医がいた。


まだ少し朦朧としていたが、

自分が生き残ったことは直ぐに理解できた。


数字は身体のどこに

出現するかはわからない。

僕は上着を脱がされ

調べられると、

右の上腕に6の数字があった。


「6って‥‥」

彼女は向き合い、僕の顔を覗き込んだ。


「帝国50年の歴史で初めてよ。」

彼女は美しく、その瞳に吸い込まれそうになった。


「そんなに珍しいのですか?」


「ええ、6と9が付く数字は

今まで一度も現れてないわ。」


僕は大浴場に行った後に

食堂に行くよう指示された。

大浴場では今まで着ていた服は捨てられ、

新しい軍服一式が支給された。


体を洗うのもほどほどに、

僕は食堂に急いだ。


みんなは僕より上の階。

選択の儀式はもう終わっているはず。


食堂には、

ざっと100人位の選ばれし者がいた。


「マサー、こっちだ!。」

体格の良いテツが僕を見つけてくれた。

奇跡だ。

トシとミホもいる!


「みんな、無事で良かった。」

そう言った直後に僕は言葉を失った。

トシの額の中央に1の数字が現れていた。

命を賭けた代償が1。

1倍では能力の変化は無い。


一瞬固まっている僕に、

突然後ろから、

誰かが抱きついてきた。


「パパー!」


「パパじゃないよ、マサだよ。」

みんなポカンとしている。

僕はみんなにアサを紹介した。


「イチってかっこいいね。」

トシの額を見て、

屈託のない笑顔でアサが言った。


「そうだろ、

俺は帝国軍のトップになる運命の男だぜ!」

トシは誇らしげに言った。

僕らは笑いあって飯をむさぼり食った。


みんなの数字を確認し合うと、

僕は6、

トシは1、

テツは8、

アサは7、

そしてミホの数字は11、ゾロ目だった!


生き残った者は総勢108名。

2と3の数字の者が半数、

4と5の数字が3割、

7と8の数字が2割だった。

1の数字はトシだけ。

10以上の数字もミホだけだ。


選ばれし者の僕らは、

まずニ階級特進で上級兵として

帝国軍の精鋭である

近衛師団に採用された。


そして3日後には、

1から3の数字の者はここに残り、

それ以外の者は、

レベルに合わせたグループごとに、

別々の訓練所に移動することが決まっていた。


僕は4と5のグループに入れられた。

7と8のグループのアサとは、

離れ離れになってしまう。

僕らは今晩、

また部屋で会う約束をした。


その夜、僕はアサのことを

ずっと想って待っていた。

約束の時間をだいぶ過ぎて、

ノックの音が聞こえた。

扉を開けるとアサが立っていたが、

そこから部屋に入ろうとしない彼女の態度は、

明らかによそよそしかった。


「‥‥月のものが来たの。

‥‥今日は帰る。」

それだけ言うと、

彼女は一度も振り返らずに帰ってしまった。


嫌な予感がする。

僕は直感的に彼女を失ったかもしれないと思った。


予感は当たっていた。

次の日になっても、

アサのよそよそしさは変わらなかった。


僕の胸はキューと締め付けられ、

切ない声をあげていた。

出会ったばかりだが、

僕は本当に彼女のことが

好きなのだと悟った。

僕はしっかり想いを伝えようと、

生まれて初めての告白をした。


「僕らの出会いは

普通じゃなかったかもしれないけど、

‥僕はアサの事が好きだよ。

これからも、ずっと付き合って欲しい。」


「ありがと‥」


アサの言葉は、それだけだった。

彼女は良いとも悪いとも返事はしなかった‥


そして僕のことを避けた。


同郷の3人には、アサのことを相談した。

「きちんとフラなかったのは、

彼女の優しさかもよ。

多分、純粋なマサを傷つけたくなかったのよ。」

ミホが言った。


「そうゆうこと。

元気出せよー。

世の中、いい女はたくさんいるぜ。

例えばミホとか。」

トシはいつも笑わせてくれる。


出立の日、

その日も美しい朝だった。


ムードメーカーのトシには、

数日で、たくさん友達ができていた。

別の訓練所に移動する同期の多くが、

トシに一声かけていた。

彼の人たらしの才能は本当にすごい。


ミホは同期の仲間から

既に帝国の女神様と呼ばれていた。

彼女の周りにも、たくさんの人が集まっている。

この後、彼女は最高親衛隊に入隊するが、

同時に士官学校にも入学する。

半年後に士官学校を卒業したら少尉になるそうだ。

そして一年以内には、

神帝と呼ばれる皇帝に謁見し騎士の称号を得る。


4人が揃ったところでトシが言った。

「俺たちは、全員生き残った選ばれし者だぜ!

訓練が終わって最前線に配属されても、

絶対生き残って、またみんなで集まろうぜ!」

僕ら4人は円陣を組んで気合いを入れた。

そしてお互いに笑いあった。


「整列っ!!」

教官の号令に空気が変わった。

僕は最前列の中央に並んだ。


出立式にて、

僕らの前に近衛師団長が立った。

彼は最高親衛隊隊長でもある。

初めて見る師団長は、

美しい翠色の目をした青年だった。


「諸君、まずは祝おう。

神帝の加護により、選ばれし者達たちよ。


しかし選ばれし者になったことが、

君たちの旅路の終わりではない。

ここから新たな始まりを迎えるのだ。


諸君、帝国の屋台骨となった者たちよ。

大義のため、共に戦う同朋よ。


我が背を預ける信頼の証しに、

我が名の真名を伝えよう。

我が名はシセ、真名はツテ。

シセ=ツテ、真名によってなす意味は、

至誠通天、誠に至り天に通じる者。


君たちは、もう二度と死を恐れる必要はない。

誠を尽くしたその魂は、

我が真名を持って必ず天に届けよう。


我らは神帝の名のもとに

大陸を統一する。

我らは神帝の名のもとに

戦乱なき平和な世を導く礎となるのだ!」


まさにカリスマ。

初めて会った新兵の僕らに、

聖なる真名まで明かした!

地響きのような歓声が上がり、

僕らは雄叫びをあげた。


演説が終わり師団長が

僕らに背を向けた瞬間、

僕の左横で風が流れた。


その時、僕は時間が止まったような感覚に陥った。

ろうそくの炎が揺らぐように、

全ての動きがゆらめく残像を残しながら

ゆっくりと見える。


同期兵の一人が師団長に襲いかかってる。

その右手に長い釘のような物を持ち、

師団長の首筋を狙っている。

師団長はゆるりと反転しながら、

左手で相手の腕を絡めて捌き、

そのままコマが回転するように、

相手の内側にすっと入り込み投げ飛した。

そして離さず掴んでいた

相手の右手を軽く引き上げ

浮かせた身体の肋骨に向かって蹴りを落とす。

さらに立ったまま相手の腕を軸に一回転し、

腕を完全にへし折りながら、

トドメに無防備な相手の顔面に向かって

二度目の蹴りを落とした。


師団長の動きを捉えた者は、

いったいどれだけいただろうか?

ほんの一瞬で師団長は、

剣を抜かずに刺客を完全に制圧した。

彼は人を殺すことに一切の躊躇がなかった。


「諸君、こういったことは度々起こる。

今回、敵の刺客は我を狙った。

しかし、もしもゾロ目を得ていたら、

騎士を賜る謁見式にて神帝を狙っただろう。


諸君、だが案ずるな。

君たちが訓練を受けている間に、

我々は君たちの身辺調査を厳格に行なう。

半年後に辞令によって共に戦う友は、

私の真名に誓い、真に選ばれし、

安心して背を任せ合う強い絆の同志である。


諸君、神帝は一代で国を起こし、

今や大陸の7割を治めている。

あの6年前の北部地方の大天災、

アマの山の大噴火が無ければ、

一気に大陸全土を治め

太平な世を迎えていただろう。

しかし今、再び準備は整いつつある。

決戦は近い。


諸君、楽な人生を追い求めるな。

与えらた力で帝国の為に

何ができるかを考えよ。

さあ、君たちの力を存分に示すのだ!」


再び大歓声が上がった。


半年後、

僕らは訓練を終え兵長に昇進した。

ミホを除けば、

ここまでが横一線で、

選択の日を乗り越えた者、

近衛兵になった者の特典だ。

これからは、自らの才覚や実績に

よって帝国軍での立ち位置も変わってくる。


そして僕らは配属辞令を受ける。


僕の配属先は最前線での直轄軍ではなかった。

近衛軍に籍を置いたまま、

僕は帝都警察部隊に配属された。


僕ら同郷の4人は、

以前から配属後の最初の祝日、

神帝の生誕祭に、

可能なメンバーは集まろうと約束していた。


嬉しいことに、

約束の時間、約束の場所に4人全員が揃った。

結局その後、みんなで色々と買い出しをして、

アパートの僕の部屋で

ホームパーティーをすることになった。


僕らは、まずお互いの配属のことを報告し合った。

それぞれの配属先は、

僕は帝都警察部隊へ、

ミホは予定通り最高親衛隊に、

トシは一週間後に自由都市監察部隊として、

水の都ベネに赴任し、

テツは三日後の建国記念日の祝日に、

直轄軍として

国境の最前線に出陣することになっていた。


本当は正直なところ、

僕は半年経った今も、

まだアサのことを忘れられなかった。

僕はテツに同じ訓練チームだった

彼女のことを聞こうかとすごく悩んだが、

やっぱりやめておいた。

僕はもう失恋を乗り越えなければならない。

テツもアサのことは何も言わなかった。


「ミホ、

神帝の生誕祭の式典には

出席しなくていいの?」

僕は聞いた。


「神帝には騎士を賜わるまでは

お会いできないの。」

ミホは少し頬張って食べていた口元を

手で隠しながら答えた。

彼女の指先は長く綺麗で、

指先の爪まで綺麗に磨かれていた。


なぜだろう。

彼女のちょっと仕草も美しく感じてしまう。


ミホは、女性にしては背が高かった。

そして足がとても長い。

それは、座っていても斜めに揃えた

美しい足を見れば直ぐに分かる。


もちろん顔も小さく9頭身のスタイルだ。

長い髪も美しく輝いている。

整った彼女の顔を見ると、

やはり内心ドキドキしてしまう。

ミホは、この半年で、

元々の美しさが更に洗練され、

誰もが振り返るような、

ずば抜けた美しさを身に纏っていた。


情報通のトシが話始めた。

「北部地方の田舎出の俺たちには

知らないことも多い。

俺が調べた帝国の歴史や世界情勢を教えてやるぜ。


シンという青年が20才の時にアモの種を食べ、

体に88の数字が現れると、

その凄まじい能力で近隣の町々を守護した。

1年程で彼を慕う50人程の仲間が出来た。

そこで彼は自らに忠誠を誓う者に

アモの種を分け与える。


彼はその時生き残った四人を側近にして

再び兵を集い、僅か一年で国を起こし

自らを神帝と名乗った。

その後、その四人は建国の四勇者と言われ、

当人一代のみだが大公爵の地位が与えられた。

その地位は、後に傘下に下る他国の王族より高い。


それから50年の間に神帝は強国を次々と制し、

各国の原語や文化を融合しながら、

一代で大陸の7割を治める大帝国を築き上げた。


現在帝国の国境はヨン連邦国と

キリ聖共和国という2つの大国に接している。

大陸統一を狙う帝国にとって

目下最大の敵はヨン連邦国だ。

大陸で一番歴史の古いキリ聖共和国とは、

アマの山の大天災の後に王女を嫁がせ

同盟を結んでいる。


さらに2つの隣国の先にも、

小国のルセの国とロミの国があり、

大陸と少しの海を隔てたその先に島国、

ジパの国がある。

ジパの国は傭兵国で、

もともと交流のあったルセの国を通じて

少数精鋭のシラの戦士と呼ばれる傭兵を

ヨン連邦国に派遣している。


テツ、気をつけろよ。

多分、ヨン連邦国にいるシラの戦士は

俺らと同じ数字持ちだ。」


「任せとけ。

前線で真っ先に武勲をあげるのは、この俺だ。」

体のデカいテツは力こぶを見せて笑った。


僕は公にされてない連続殺人鬼の話は

伏せていた。

トシを中心に僕らは色々な話をした。

でも一番みんなが驚いたのは、

ボソッと言ったトシの一言だった。

「数字持ちは子供ができにくい。」


「えーそうなのー?」

僕らは一斉に食い付いた。


「数字持ちの先輩方は殆ど子がいない。

だから数字持ちは、子を授かったら、

その子を溺愛するそうだ。」


ミホも、ちょっと神妙な顔をしていた。


トシは話を続けた。

「新帝も例外ではない。

新帝は後宮に5000人程の女性を囲っていたが、

子を成したのは、たった一人だけだった。

彼女は奇跡的に双子を産んだ。

それが今の皇太子と

キリ聖共和国に嫁いだアイ皇女だ。

しかし彼女は出産後程なくして亡くなられた。

新帝は悲しみに暮れ、

当時3年もの間、喪に服し進軍を辞めたそうだ。

俺たちが生まれる前後の頃の話しだ。」


それからも色々な話題で結構な時間、

僕らは、みんなで楽しく食べて飲んで、

そしてたくさんしゃべった。


楽しい時間はあっという間に過ぎた。

夜も深まり会も終わり、

みんなを玄関先で見送った。

ミホはトシとテツが送って行くという。

彼女は、ゾロ目の最高親衛隊だし、

まあ、屈強なテツがいれば安全だろう。


一人で部屋を片付けていると

突然無性に寂しくなった。

多分、もう同郷のみんなで集まるのは

なかなか出来ないとわかっていたからだ。

これからはみんな、それぞれの道を歩くのだ。


「軍にいて生き残っていたら、

またみんな必ずどこかで会える。

帝国の未来のためお互い頑張ろうぜ!」

トシの言葉を僕は噛み締めていた。


建国記念日の祝日、僕は仕事だった。

容疑者を張り込みしながら

見送り出来ないテツの無事を祈った。


建国記念日の次の日は、

僕は家に帰れた。


夜中に誰かが

僕のアパートの部屋の扉をノックする。

誰だろう?

扉を開けると‥

そこに‥

アサがいた。


「えっ?」


彼女はいつも突然現れる。

「いるかなーて思って。

ちょっといい?」

彼女は僕の返事も聞かずに上がり込んだ。


「なかなかいい部屋ね。」

彼女は周りを見回した後に勝手に座り込んだ。


僕も困惑しながら座る。

「ねぇ、なんで僕の家を知ってるの?」


「テツに聞いたの。

テツとは付き合ってたの。

でもフラれたの。」


その言葉は衝撃的で僕は頭がクラクラした。

何だかよく分からないけど、

僕はアサよりテツに対して怒りが湧いてきた。

テツにはあの日、そう出立式の前の日に、

アサのことが本当に好きだけど、

どうしたらいいだろうと相談したはずだ。

アサと付き合っていたなら、この前会った時に

一言あってもいいじゃないか?


しかし、僕はグッと堪えて冷静に彼女に言った。

「でもテツも命をかけて出陣するし、

君をフッたのも、君の将来を考えたからかも。」


「違うの。」


「違うって?」


「それまでは待っててくれと言ってたのに、

出陣前に私の過去を話したら、

すごく驚いて、そして軽蔑して、

そういう人とは付き合えないって

すぐに言ったの。」


「‥‥」


「でも、マサはきちんとしたいい人よね。

私の過去を誰にも言わずにいてくれたんでしょ。

ありがと‥」


一瞬で感情が高まり、彼女への想いが溢れた。

「僕はまだ君のことが好きなんだ。

じゃあ、僕と付き合おうよ。

僕は君の過去なんて気にしない。

僕は君をずっと大事にする。」 

僕は彼女に近づた。


「ごめん、

そういうのじゃないの。」

彼女は僕を拒否した。

そして彼女がどれだけテツのことを

好きだったかを話し始めた。


目の前で好きな人が

僕ではない違う人の事を想って涙している。

彼女の涙は、

僕の心にナイフのように突き刺さった。


それからアサはテツのことを想って

静かに歌を歌った。

僕は飢饉に喘いだここ何年も、

歌というものを聴いていなかった。


あなたのことをずっと想ってる、

そんな内容の歌詞だった。

彼女の歌声と、

帝国の歌姫の曲だというその美しいメロディは、

僕の心を打ち、

同時に僕の胸に深い悲しみを与えていた。


僕はできるだけ彼女の話を聞いてあげた。

そうして更に夜が深まり、

僕らは二人、別々に寝た。


早朝、クラウディブルーの空に

まだ白い月が儚く浮かんでいた。

悔しいが幻想的な美しい朝だった。

僕らは二人一緒に家を出て職場に向かった。

彼女はロマ教の神官護衛部隊に配属されていた。

途中の分岐路で彼女はじゃあねと言って

去って行った。

僕は彼女の後ろ姿をずっと見送っていたが、

結局彼女は一度も振り返らなかった。


彼女は強い。

本のページを捲るように

きっとまた次の恋愛もしていくのだろう。

だけど、もう僕のページには戻らない。

そもそも僕のページなんてあったのだろうか?


まだ人通りの少ない道を

僕はまた歩き始める。

そして早歩きになり、

やがて走り出した。

胸が苦しい。

何かを叫んでいたかもしれない。


その瞬間、僕は急にクンと加速した。

それは経験したことのない速さで

地面を蹴りあげた足で、

大きな跳躍をしていた。

いや、跳躍というよりバタバタと空を飛んでいた。


「何?」

着地と同時に、僕は自分の体を確認したが、

何の変化もなかった。

僕には何が起こったかわからなかった。


今日は直接張り込みに行く日だった。

さっきの体の高揚感がまだ残っている。

アサとのことを乗り越え、

僕も変わらなくてはならないし、

変わりたいと強く思った。

僕は張り込み先へ、

いつもと違う道を歩いて行こうと決めた。


見上げると、

いつのまにか朝日の光で月は消え、

クラウディブルーの空は

透き通った鮮やかなブルーに変わっていた。


お読みいただきありがとうございます。

今後の励みになりますので、

ブックマーク・評価・いいねなど

していただけると嬉しいです。


こちらの作品は、THE BLUE LOVE STORY の

エピソード1〜3、6〜7話をまとめたものです。

よろしければ、

本編もお読みいただけたら嬉しいです。

https://ncode.syosetu.com/n4658lp/

よろしくお願いいたします。

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