缶コーヒー
食後にいつも通り長風呂をしてお気に入りだというアニメを一通り見てベッドに潜った彼女に毛布をかける。
カタンッ…
微かに、本当に微かだったけど家の外から音がなる。
「翔太…」
満足げに入眠しようと目を閉じていた彼女が一瞬で顔の温度を失いこちらを見る。
「わかってる、大丈夫だよ」
僕がいつもよりワントーン声を落としてあかねを撫でると不安そうに毛布に潜っていく。
それを確認して寝室を出る。
リビングはまだ温度を保っていた。
家のドアを開けるとまだ肌寒い夜の景色とその手前に温度のない無機物が立っている。
暗くてあまり表情は見えなかったが背丈は僕と大差ない男だった。
「どうなさいましたか?」
丁寧に問いかけなくても少し町はずれのこの家に来た理由は経験上わかりきっていた。
「よこせ…」
無機質な声な返答が帰ってきてああ、やっぱりと思い無機物の中心に刃を入れる。
珍しく無抵抗な相手に驚いているとドサッと鈍い音を立ててその男は倒れた。
赤い血は流れておらず、しゃべらないただの鉄になってしまった。
それを解体しながら思う。
ーこんなに狙われて彼女は1000年生きれるのだろうか。守らなくては。
外に出たついでにと思い近くの自販機で缶コーヒーを買う。
「…しまった」
ホットコーヒーを飲みたかったのにアイスコーヒーのボタンを押してしまった。
冷えたコーヒー温かい暖かいコーヒーより少し苦く思えた。
ドアを開け家に戻るとぬるい空気が頬を撫でる。
寝室に行くとでかい毛布の塊がある。
めくると不安げに目を瞬かせたあかねが小さくうずくまっていた。
「いつもごめんね」
あかねから出た言葉に今日はお礼も謝罪も受け取ってしまったなと思いながら
「お安い御用だよ」と軽く笑顔を作る。
「寒くない?」
「手握る…」
甘えたように言い、僕の手を握りしめた彼女を見つめながら僕の手は温かくないのに、と思う。
むしろ僕が彼女に温められているぐらいだ。
その証拠に反対の手に握られた缶コーヒーは未だに少しも温くなかった。
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翔太が家から出たのがドアの閉じる音で分かり一気に体の体温が下がる。
ー怖い。
週に一回ぐらいの頻度だろうか。同じ目的で来る訪問者たちをまだこの目で見たことはないが漠然とした恐怖はぬぐえなかった。
ー翔太が倒されちゃったらどうしよう。
ずっとごめんね、と思ってた。
翔太は強いから負けないとはわかりつつその役割が重荷になってることも理解していた。
5分も経っていない頃だろうか。
再びドアを開け鍵を占める音がした。
この瞬間毎回二つの感情に支配される。
今ドアを開けたのは翔太なのか、そうでないのか。
確認するのが怖くてドアの前で待っていたこともなく、ましてや毛布を全身でかぶっている。
毛布をやさしくめくられたところで翔太であることがわかりひどく安堵する。
「いつもごめんね」
何回言っても足りない謝罪。泣きたくなる。
「お安い御用だよ」と笑ってくれる彼にこんなことに慣れちゃダメなのに、と心が締め付けられる。
私が安心したかったのと翔太に少しでもぬくもりをあげたくて強く彼の手を握りしめる。
すごく冷たいのに私を見る目はとても温かくて変な気持ちになる。
お願いだからあと1000年二人で平和に生きさせてよ。
たったの1000年しか生きられないんだから。




