ハンバーガー
ピーピピー
病院はノイズが多い。あかねの付き添いで病院に来た僕はぽつんと置かれた白い椅子に腰を掛けている。
あかねは無機質な部屋でトンネルのような器具の前で寝そべっている。
聞いたところによるとMRI検査というらしい。
朝の明るいテンションからは想像できないほど静かに目をつぶる彼女がどうも無機物のように見えた。
「そろそろ終わりますよー」
なんて言う看護師さんの言葉に軽く返事をしながら腰をあげる。
病院はどうにも得意ではなかった。
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検査を受けながらふと目を開ける。
付き添いに来てくれた彼氏の翔太が視界に入った。
寂しげに宙を眺める彼を見て、そんな空っぽになるならもう付き添いに来てくれなくてもいいのに、なんて思いながらもそばにいてくれることがどうにもうれしかった。
検査着をまとった自分の腕をふと見ると、血管が通って脈を打っていて生きていることを実感する。
今朝の会話を思い出す。
玉子は殻を破ったら可愛らしい黄身が出てくるけど、私が皮をはいだところで血が滴るだけなんだろうな。
あと1000年で働きをやめる私の中身は1000年後も赤いだろうか。
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あかねの手を握る。人にしては薄い手相とわずかな温もりを感じる。
僕たちは病院の帰りに少し散歩をしていた。
土手に咲いた小さな花たちは「雑草」という名前がふさわしくないほどきれいだった。
「夜ごはん何にするー?」
「あれがいい、ハンバーガー。」
「じゃあ帰り道買っていこうか!」
他愛もない会話が心地いい。春風に髪をあおられてくいっと口の端を持ち上げた彼女が僕の手を離し駆けていく。
「見てー!桜のじゅうたん!!」
桃色に埋め尽くされた地面に目を輝かせる彼女がどうも無邪気で笑みがこぼれる。
「花筏も綺麗だね~」
「花筏ー?」
なにそれー、とでも言うように僕のもとに帰ってきた彼女が僕の手を握りなおして顔をのぞかせる。
「相変わらず冷たい手だね」
「心はあったかいよ」
「私のほうがあったかいもん」
中学生がするような会話を彼女とする。あかねの手は変わらず温度を保っていた。
「暗くなるから急ごうか」
日が落ちたところで町の明るさで大した暗さも感じないことは理解しつつも提案する。
「よし!走れー!」
目を細くさせて楽しそうに笑うあかねに手を引かれ土手の下を流れる花筏を追うように走り出す。
転ぶなよ、と言おうと思ったがまた父親みたいと笑われるのは勘弁と思い、「こ」の形を作った口を閉じる。
冷たい僕の手を握って風を切る彼女を少しかわいそうに思い、帰ったらストーブでもつけるかと思いながら僕も歩みを早める。彼女の2歩が僕の1歩分で可愛らしいな、と思いながらも言ったら怒るだろうな、とも思う。
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「ただいまー」
暗い部屋に挨拶をしたところで帰ってこないのにただいま、と言ってしまうのは人間の性なのだろうか。
僕の背丈では少し低い洗面所で手を洗ってストーブをいれる。
ハンバーガーの袋を机に置いた彼女に「ココアでも作ろうか」と提案する。
湯気が立つのを見つめながら人工物でしか彼女にぬくもりをあげれない自分を悔やむ。
そんなこと気にも留めていないようなあかねが楽し気にストーブの前に手をかざす。
「エアコンよりストーブのほうが雰囲気あっていいよね~」
「そろそろストーブもしまわないとだね」
僕がココアを運ぶのを確認すると彼女は椅子に座り「いただきます!」と元気に挨拶をし、ハンバーガーを頬張りだす。
レタスがこぼれそうだな、なんて思いながら僕も一口かじる。帰りで少し冷えてしまったもののとても美味しかった。
「うげー、ピクルスー!」
きらきらと目を輝かせていた彼女が突然顔をしかめる。表情がころころ変わって面白いなとよく思う。
「子供じゃないんだから」
口ではこんなこと言いながらも表情を柔らかくさせた僕に彼女もまた笑顔になる。
「ハンバーガーは卵と違ってある程度中身が見えるのにど真ん中が見えないよね」
あかねがハンバーガーを持ち上げて穴が開きそうなほど見つめる。
「ミステリアスなんだよ、きっと。」
「なにそれー」
あはは、と声をあげて僕の適当な返事にあかねは笑う。
「いつもありがとね」
脈路のないお礼が何に対して言われたのかにすぐ察しがつき表情で返事をする。
「表情豊かになったね」
なんて言うあかねは僕の数倍表情豊かだろう。そこに惹かれた部分もあったかもしれない。
今日も温かかったなんて思いながらハンバーガーに目線を移す。
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拝啓、君へ。僕は一度でもぬくもりをあげることはできたでしょうか。




