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空の向こう側  作者: 双鶴


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第7話 初めての買い物

翌朝、優翔はいつもより少し早く家を出た。

冬の空気が冷たくて、頬が少し痛い。

でも、その冷たさが心を引き締めてくれる気がした。


教室に入ると、友達がいつものように話しかけてくる。


「優翔、昨日の数学の宿題やった?」

「今日の体育、外らしいぞ。寒すぎ」

「放課後ゲーセン行かね?新しい音ゲー入ったってよ」


優翔は笑って返す。

いつも通りの会話。

でも、心の奥では別のことがずっと動いていた。


――バルサ材、どこで買えるんだろう。


友達の声は聞こえている。

けれど、頭の片隅では、昨日見た模型グライダーの図と、コメント欄の言葉が静かに揺れていた。


放課後、優翔は家に帰らず、駅前の商店街へ向かった。

スマホで調べた結果、模型店が一軒だけ見つかったのだ。


「……ここか」


古い看板の下に、小さな店があった。

ガラス越しに見えるのは、プラモデルや工具の箱。

少し入りづらい雰囲気だった。


でも、ここまで来たのだから、引き返すわけにはいかない。


優翔はそっとドアを開けた。


カラン、と鈴の音が鳴る。


店内は狭く、棚にはぎっしりと模型が並んでいた。

プラモデル、鉄道模型、工具、塗料。

その奥に、細長い木材が束になって置かれている。


――バルサ材。


胸が少し跳ねた。


優翔は近づき、手に取った。

驚くほど軽い。

紙よりも硬いのに、空気みたいに軽い。


「それ、初めてかい?」


突然、声がした。

振り向くと、店主らしき男性が立っていた。

白髪混じりで、優しそうな目をしている。


「あ、はい……」


「何作るの?」


優翔は少し迷った。

でも、嘘をつく理由もなかった。


「……グライダー、です。ゴム動力の」


店主は少し驚いたように目を細めた。


「高校生でそれは珍しいな。誰かに教わってるの?」


「いえ……動画のコメントで、少しだけ」


店主はふっと笑った。


「いいね。じゃあ、最初はこれが扱いやすいよ」


そう言って、少し厚めのバルサ材を手渡してくれた。


優翔は胸の奥が熱くなるのを感じた。


「ありがとうございます」


会計を済ませ、店を出る。

手に持ったバルサ材は、驚くほど軽かった。

でも、その軽さとは裏腹に、優翔の胸の中はずっしりと満たされていた。


家に帰ると、両親はまだいなかった。

いつもの静けさ。

でも今日は、その静けさが“作業場”に思えた。


机の上にバルサ材を置く。

紙飛行機とは違う、木の匂いがする。


「……これで、本当に作れるのかな」


不安が胸をよぎる。

でも、その不安すら心地よかった。


優翔はスマホを構え、録画を始めた。

今日も声は入れない。

代わりに、冒頭に手書きのメモを映す。


「バルサ材、買いました」


文字は小さく、紙の端には昨日の折り跡が残っている。


バルサ材を手に取る。

その軽さを確かめるように、そっと指でなぞる。


タイトルはこうした。


「【初心者】鳥人間を目指す高校生の紙飛行機日記 #6」


投稿ボタンを押すと、胸の奥がまた少し熱くなった。


動画を投稿したあと、優翔は窓を開けた。

夜風が静かに流れ込む。

その風の向きや強さを、自然と観察してしまう。


「……ここからだな」


つぶやいた瞬間、胸の奥が静かに震えた。


紙飛行機の先にある“次の空”。

その入り口に、ようやく立った気がした。


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