第5話 小さなコミュニティ
翌朝、優翔はいつもより少しだけ軽い足取りで学校へ向かった。
昨日の動画を投稿したあと、胸の奥に残った熱がまだ消えていなかった。
教室に入ると、友達がいつものように話しかけてくる。
「昨日の配信見た?」
「テスト範囲、どこまでだっけ?」
「昼、購買行かね?」
優翔も笑って返す。
いつも通りの会話。
でも、心の奥では別のことがずっと動いていた。
――動画、どうなってるだろう。
授業が始まると、優翔はノートを開いた。
気づくと、ページの端に細長い三角形を描いていた。
翼の角度をどうするか、無意識に考えていたらしい。
「……やべ」
慌てて消しゴムで消す。
誰にも見られていない。
でも、心の奥では少しだけ笑っていた。
放課後、家に帰ると、玄関の静けさが迎えてくれる。
両親はまだいない。
その静けさが、今日は少しだけ味方に思えた。
靴を脱ぎながら、優翔はスマホを取り出した。
画面を開く。
――再生数「103」
――コメント「5」
「……100超えてる」
胸が跳ねた。
コメント欄を開く。
「図書館で調べたの偉いな」
「翼の左右バランス、いい感じになってる」
「次は“迎角”も調べてみるといいよ」
「動画、なんか落ち着く」
「応援してる」
優翔は、スマホを持つ手をそっと握り直した。
嬉しさが、指先にまで広がっていく。
机の上に紙飛行機を並べる。
昨日よりも丁寧に折る。
図書館で見た図を思い出しながら、翼の角度を微調整する。
「迎角……これで合ってるのかな」
わからない。
でも、やってみるしかない。
部屋の中で投げる。
ひゅっ。
紙飛行機は、昨日よりもさらに滑らかに飛んだ。
壁に当たる直前まで、ふわりと浮くように。
「……よし」
優翔はスマホを構えた。
録画ボタンを押す。
今日も声は入れない。
代わりに、冒頭に手書きのメモを映す。
文字は小さく、紙の端には折り目の跡が残っていた。
「コメントありがとう。迎角、少しだけ意識してみました」
紙を持つ指が、画面の端に少しだけかぶってしまう。
それが優翔らしい“精一杯”だった。
紙飛行機を投げる。
昨日よりも飛ぶ。
その様子を淡々と撮る。
タイトルはこうした。
「【初心者】鳥人間を目指す高校生の紙飛行機日記 #4」
投稿ボタンを押すと、胸の奥がまた少し熱くなった。
動画を投稿したあと、優翔は窓を開けた。
ビルの隙間を抜ける風が、ゆっくりと部屋に流れ込む。
その風の向きや強さを、自然と観察してしまう。
「……もっと飛ばしたい」
その言葉は、昨日よりもずっと強かった。
そして優翔は気づいていた。
自分はもう、ただの紙飛行機遊びをしているわけじゃない。
画面の向こうにいる誰かと一緒に、
少しずつ、空に近づいている。




