表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空の向こう側  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/15

第13話 埋まっていくノート

翌朝、優翔はいつもより少し早く学校へ着いた。

教室の窓から差し込む光が、机の上に淡く広がっている。


席に座ると、自然とノートを開いていた。

昨日の風洞実験のメモが残っている。


・迎角

・揚力

・風の当たり方

・翼の揺れ方


その横に、欠けた翼のスケッチが描かれていた。


――外では飛ばせない。

――でも、部屋の中なら“風を見る”ことはできる。


優翔は、昨日の airfoil_lab のコメントを思い出した。


「角度を変えながら風を当ててみると、

どの角度で浮こうとするかがわかる」


その言葉が、頭の中で静かに響いていた。


授業が始まっても、優翔の手はノートの端で動き続けた。

先生の声を聞きながら、

翼の角度を少しずつ変えた図を描いていく。


5度

10度

15度


角度を変えるたびに、

風洞の中で揺れた翼の動きが頭の中で再生される。


「……10度くらいが、一番揺れた気がする」


小さくつぶやき、メモを書く。


・10度 → 揺れが大きい

・15度 → 失速っぽい動き

・5度 → ほとんど反応なし


授業の内容は頭に入ってこない。

でも、ノートのページはどんどん埋まっていく。


周りの友達は気づかない。

誰も優翔のノートを覗かない。


でも、それでよかった。


これは、優翔だけの“研究ノート”だ。


放課後、家に帰ると、優翔は机に向かった。

昨日の風洞をもう一度セットする。


段ボールの箱。

扇風機。

そして、まっすぐ切れた翼。


「……今日は、角度を細かく見てみよう」


優翔は翼を少しずつ傾け、

風を当てて揺れ方を観察する。


ぶおおお……


風が段ボールの中を通り抜ける。


翼が揺れる。

角度を変える。

揺れ方が変わる。


優翔はそのたびにノートに書き込んだ。


・8度 → 揺れが強い

・12度 → 揺れが弱くなる

・14度 → 失速の気配


「……こういうことか」


昨日よりも、風が“読める”気がした。


風洞は簡易的だ。

正確なデータなんて取れない。

でも、優翔にとっては十分だった。


風が、翼が、

“何をしたいのか”が少しずつ見えてくる。


優翔はスマホを構え、録画を始めた。

今日も声は入れない。

代わりに、冒頭に手書きのメモを映す。


「ノートが埋まってきました」


文字は小さく、紙の端には折り跡が残っている。

でも、その一言に、優翔の“積み重ね”が滲んでいた。


風洞の中で揺れる翼。

角度を変えるたびに変わる反応。

ノートに書き込まれた数字と図。


タイトルはこうした。


「【初心者】鳥人間を目指す高校生の紙飛行機日記 #12」


投稿ボタンを押すと、胸の奥が静かに熱くなった。


動画を投稿したあと、優翔は窓を開けた。

夜風が静かに流れ込む。


外の風は相変わらず読めない。

でも、部屋の中には、

優翔が作った“風を見る箱”がある。


そして、ノートには、

今日も新しいページが埋まった。


「……次は、尾翼だな」


つぶやいた声は、静かに部屋に溶けていった。


優翔はまだ知らない。

この日の動画が、

コメント欄に“元鳥人間OB”の視聴者を呼び込むことを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ