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空の向こう側  作者: 双鶴


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第11話 風を見る箱

翼がまっすぐ切れた翌日、優翔は授業中もどこか落ち着かなかった。

ノートの端には、昨日切った翼の形が描かれている。

その横に、胴体の長さや尾翼の角度のメモが並んでいた。


――次は、どうすればいいんだろう。


翼はできた。

でも、飛ばすにはまだ足りない。

東京では外で飛ばせない。

風が強すぎるし、場所もない。


「……風、か」


小さくつぶやいた瞬間、

昨日のコメント欄の言葉が頭に浮かんだ。


「風の当たり方を見てみるといいよ」


誰かがそう書いていた。


風の当たり方。

どうやって見るんだろう。


放課後、家に帰ると、優翔は机の前に座り、スマホを開いた。

昨日投稿した動画には、すでに新しいコメントがついていた。


その中に、ひときわ目を引くものがあった。


投稿者名は

「airfoil_lab」




airfoil_lab のコメント


翼、きれいに切れてるね。

次は“風の流れ”を見てみるといい。扇風機と段ボールで、簡単な風洞が作れるよ。

風洞っていうのは、風を一定方向に流す箱のこと。段ボールの中に翼を入れて、

角度を変えながら風を当ててみると、

どの角度で浮こうとするかがわかる。外で飛ばせないなら、

部屋の中で“風を見る”ところから始めてみて。





優翔は、息を呑んだ。


風洞。

聞いたことはある。

でも、自分が作れるなんて思っていなかった。


「……段ボールで、できるのか」


胸の奥がじんわりと熱くなる。


昨日の windcraft に続いて、

また一人、具体的な助言をくれる人が現れた。


――ネットの向こうに、本当に“仲間”がいる。


その事実が、優翔の胸を静かに震わせた。


優翔は部屋の隅から、通販の段ボール箱を引っ張り出した。

カッターで側面を切り抜き、

扇風機の風が通るように穴を開ける。


「……こんな感じ、かな」


段ボールの中に、昨日切った翼をそっと置く。

角度を少しだけ上げる。

扇風機のスイッチを入れる。


ぶおおお……


風が段ボールの中を通り抜ける。


翼が、ほんの少しだけ揺れた。


優翔は息を呑んだ。


角度を変える。

また揺れる。

今度は、さっきよりも強く。


「……浮こうとしてる?」


胸の奥が熱くなる。

紙飛行機では感じられなかった“空気の力”が、

今、目の前で起きている。


「……すげぇ……」


誰に聞かせるでもなく、声が漏れた。


優翔はスマホを構え、録画を始めた。

今日も声は入れない。

代わりに、冒頭に手書きのメモを映す。


「風洞、作ってみました」


文字は小さく、紙の端には折り跡が残っている。

でも、その一言に、優翔の“発見の喜び”が詰まっていた。


段ボールの中で揺れる翼を映す。

角度を変えると、揺れ方が変わる。

風が“見える”。


タイトルはこうした。


「【初心者】鳥人間を目指す高校生の紙飛行機日記 #10」


投稿ボタンを押すと、胸の奥がまた少し熱くなった。


動画を投稿したあと、優翔は窓を開けた。

夜風が静かに流れ込む。


昨日よりも、風が近く感じた。

まるで、風そのものが“教えてくれている”ようだった。


「……次は、尾翼だな」


つぶやいた声は、静かに部屋に溶けていった。


優翔はまだ知らない。

この日の動画が、

コメント欄に“大学生の視聴者”を呼び込むことを。


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