表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男装の乙女は海神の子を宿して  作者: 宇津木 しろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

第8話 新たなる命

 記者会見から幾日も経たぬうちに、海辺の祠は白木の飾りと花々で埋め尽くされていた。

 幾千もの人々が駆けつけ、誰もが新しい海の花嫁を祝福しようと集まっていた。


 白無垢に身を包んだ葵の姿は、かつて「男の跡取り」として生きた影をみじんも感じさせなかった。

 

「……葵」

 澄海が手を差し伸べる。蒼き瞳が、真っ直ぐに彼女を見つめていた。


「そなたをもう誰にも奪わせはしない。そなたらしく、生きてくれ」

 葵は涙を浮かべ、力強くその手を握り返す。

「私が私であれるのは……あなたに出会えたからです」


 拍手と歓声が波のように広がり、ふたりは夫婦として結ばれた。


 潮騒が祝福の調べとなり、祠の灯がふたりの未来を照らし出していた。


 やがて季節は巡り、神殿にひとつの産声が響き渡った。

 葵が腕に抱いた赤子は、小さな手をぱっと広げ、澄海の蒼い瞳を映したかのように澄んだ光を宿していた。


 「……澄海さま、この子が」

 震える声で告げる葵の頬を、澄海はやさしく撫でた。

「そうだ。私たちの子。神と人との橋渡しとなる者だ」


 赤子の泣き声は海を渡り、まるで国中に届くように響いていった。

 村人たちはこぞって祝福し、蒼波国には再び信仰の灯が戻った。


 澄海の力は完全に甦り、その胸に抱かれた子は未来の象徴となった。

 葵はその傍らで、波打つ海を見つめながら静かに祈る。


 ――お母さま。私は本当の自分で、生きていきます。


 夜空には無数の星が瞬き、海辺の祠にはひとつの灯がともった。


 やがて人々は語るだろう。この日、海と人とをつなぐ花嫁が現れ、蒼波国に新たな神話が始まったのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ