第8章 - ニヤ古城の大決闘
マカオ――劉万龍のカジノにて。彼は今、鉄雄をもてなしていた。
煙草の煙と赤く点滅する灯りが、大規模なカジノの地下室を覆っていた。笑い声とサイコロの転がる音が交錯する。
劉万龍――太鼓腹で酒杯を振り、いやらしい笑みを浮かべていた。向かいには、黒衣の鉄雄が険しく座り、刃のように鋭い目を光らせている。契丹の弟子たちが周囲に控え、無言で柄に手を置いた。
煙が漂い、赤い灯りが木の卓上に影を落とす。酒杯がカチリとぶつかる音が響いた。
劉万龍は相手の肩を叩き、呵々大笑した。
――「ははは、鉄兄はまさに豪胆。拙者も地を渡り歩いてきたが、一度は天の宝に触れたいと願う。もし西域の玉璽を手にすれば、富貴など始まりにすぎぬ。」
鉄雄は盃を取り、一息で飲み干して卓に叩きつけた。その声は低く、言葉一つひとつが刃のようだった。
――「劉兄は宝玉を重んじ、我は気を重んずる。あの玉璽はただの水晶ではない。その内には龍脈の気が眠っている。龍気を握る者は、大砂漠の生死をも握るのだ。」
彼は身を傾け、冷たい眼差しで続けた。
――「チンギス・ハーンの末裔ですら恐れることを、我は避けぬ。我が名は鉄、受け継ぐは大漠の戦意。欲するは富貴にあらず...大漠の意志だ。」
劉万龍は目を細めて盃を掲げ、破顔した。
――「玉璽は我が物、龍気は兄の物。富と権力、両得ではないか。」
二人は盃を掲げ、酒を乾した。赤い酒が卓に散り、妓女が膝にすり寄り、淫らな笑いが煙の中に響いた。
やがて鉄雄は弟子に顎をしゃくる。弟子は革袋からiPadを取り出した。劉万龍は目を剥き、次の瞬間に大笑した。
――「ははは、鉄兄も文明的ではないか!」
鉄雄は冷たく目を細め、画面に映る西域の玉を指差した。
――「これが玉璽だ。氷のように透き通り、だが内には嵐が封じられている。持つ者は大地を操り、砂嵐を呼ぶ。」
劉万龍は吹き出し、大声で囃した。
――「はは! 鉄兄、いや今や"iPad教主"だな!」
場は哄笑に包まれ、妓女は酒をこぼして身をよじる。
鉄雄は冷笑し、声を落とした。
――「笑え。だが龍気が荒れ狂うその日、"iPad教主"の名は天下を震わせる。」
劉万龍は苦笑しつつも杯を掲げた。
――「それならなおさら結託に値する! 玉璽は我に、龍気は兄に、共に覇を唱えよう!」
契丹の若い弟子が囁いた。
――「これからはiPad教主に従うぞ。」
相棒も笑いを漏らしたが、鉄雄の冷たい眼光に即座に頭を垂れた。
鉄雄は皮肉に唇を歪めた。
――「笑うがよい。しかしその名は大漠に悪夢を撒く。いずれ我が立つとき、名を聞くだけで天下が震えるのだ。」
彼は盃を干し、無頓着に見せたが、若い弟子らの額には冷や汗が滲んでいた。
淫らな笑いが酒煙の中に響き渡り、一方その外では――陳明軍と趙可欣が龍脈の痕跡を追っていた。
* * *
砂塵の城跡の夜。
砂漠の風が崩れた古城のアーチを吹き抜ける。焚き火がちらつき、亀裂の入った砂岩の壁に揺れる影を投げた。
高浩南は頬杖をつき、不意に口を開いた。
――「陳明軍兄さん...今回の任務は龍脈の調査だけじゃなく、西域の玉璽を守ることも含まれるって聞いた。本当なのか?」
陳明軍は一瞬黙し、遠くのひび割れた浮彫を見つめ、低く答えた。
――「玉璽は護符にあらず。龍脈の弁のようなものだ。大地の気が強すぎれば調和させ、弱ければ折れぬよう支える。それを失えば、龍脈は乱れ...砂漠全体が死地と化す。」
彼は横を向き、冷たくも寂しげな目で続けた。
――「貪欲な者にとっては宝だが、この地にとっては心臓だ。武者が龍脈を守るのは名誉のためではなく、タクラマカンの周囲に生きる数百万の命のためだ。」
趙可欣は黙って氷晶を握りしめ、その瞳は光を帯びながらも重苦しかった。
浩南は頭をかき、真顔で呟く。
――「そうか...玉璽は富のためじゃなく、大地を生かすためのものなんだな。」
夜が更け、砂漠の風が城壁の破片を吹き飛ばす。焚き火は闇の中、小さな蝋燭のように揺れていた。
そのとき遠くから、雷のような馬蹄の音が大地を震わせた。砂塵が舞い上がり、赤い松明の列が地平線に現れる。
李啓栄が跳ね起き、銃を構えた。
――「騎兵だ! 大勢来るぞ!」
高浩南は唾を飲み込み、双節棍を握る。
――「間違いない...狼騎会だ。」
やがて松明の群れの中、灰色の外套をまとった騎士たちが現れた。先頭には月華が軽甲冑に身を包み、両手に湾刀を握り、炎のような憎しみを瞳に宿す。その傍らには赤茶の甲冑を着た大男、鉄山が大刀を強く握りしめていた。
月華は馬を駆り、声を轟かせた。
――「趙可欣! 地下道で私を辱めた借り、今宵返させてもらう!」
陳明軍は立ち上がり、黒衣を風に揺らし、低く唸る。
――「地下道で命を拾ったのは、私が手を緩めたからだ。今夜は...竹影剣を抜かせるな。」
剣気が交わり、空気は今にも崩れそうに重くなった。
次の瞬間、大地が轟いた。 Lang 騎の兵らが一斉に突撃し、鋼の光が闇に閃く。
陳明軍は静かに立ち、背から竹影剣を抜き放った。
――「竹影剣法――開招!」
剣影が奔り、三騎が瞬時に斃れる。さらに彼は掌を合わせ、内力を爆発させた。
――「砂中十三掌――初式!」
轟音と共に砂嵐が矢の如く敵を貫いた。数十の騎兵が血を流し倒れる。
趙可欣の横で風が渦巻く。
彼は心中で呟いた。
――「十三掌のうち一式しか放てぬが、それだけで十分だ。」
やがて戦場は炎と血に包まれ、金属音と悲鳴が渦巻いた。
趙可欣の飛刀が闇を裂き、月華の湾刀が唸る。二人の影が絡み合い、火花を散らした。
――「今日こそ決着をつける!」月華が叫ぶ。
――「来い、狼騎会の妖女!」可欣が応じる。
一方、浩南は双節棍を振り回し十人を相手に奮戦し、李啓栄は銃火を放ち、陸玉珍を背に庇った。
炎と血と砂塵の中、戦場は悪夢のごとき光景となった。
その下方で殺気が渦巻く中――
夜空には、二つの影がすでに戦場を離れ、向かい合っていた。