第3章- 邪悪な陰謀
夜のマカオ。
ネオンが波のように瞬き、大通りは車で埋め尽くされていた。タバコと強い酒の匂いが混じり合い、クラクションとディスコの音楽がバーから響き渡る。
黒いメルセデスが滑るように停まり、劉万龍が降り立つ。
仕立てのスーツに身を包み、指の金の指輪がネオンに煌めいた。二人の刺青を入れた屈強な護衛がすぐに寄り添い、人混みを押し分ける。
カジノの中は灼熱のように熱気を帯びていた。
無数の視線が赤く光り、サイコロが転がり、怒号が飛ぶ。
――「大! 全部賭ける!」
――「小! もう一口!」
煙草の煙は霧のように漂い、金と血の匂いが心臓の鼓動に絡みつく。負けた男は叫び、保安に袋のように引きずられる。勝者はチップを抱き、狂気の笑みを浮かべる。
劉万龍は一瞥もくれず、奥の特別室に入る。黒革のソファ、油絵の壁、偽りの温もりを演出する薄い灯り。
ウイスキーを注ぎ、低い声で問う。
――「返事はどうだ。」
護衛が頭を下げる。
――「はい老爺、支援を承諾しました。ただ詳しい話は直接とのことです。」
劉万龍はグラスを置き、細い笑みを浮かべる。
――「そうか...本当の遊戯は、これからだ。」
重い衛星電話の赤いランプが点滅していた。ボタンを押し、暗号回線が繋がる。
彼の声は刃のように鋭く響く。
――「聞け。欲しいのは一つ...玉旗西域。運命を宿すその古代の宝。必ず我が手に。」
数秒の沈黙。
やがて砂漠の風のような乾いた声が応じた。
――「我々は玉も金も要らぬ。欲しいのは...マカオに根を張る場所だけだ。」
劉万龍の瞳が光る。
――「根を張る場所? いいだろう。人脈はある。ただし...古墓が開いたとき、玉旗西域は私のものだ。」
電話の向こうで冷笑が響く。
――「協力するか否か、それはあんた次第だ。」
通信が切れる。
ネオンの光が金の龍の指輪を照らし、彼の邪悪な笑みを浮かび上がらせた。
内モンゴル西部、荒れ果てた石の砦。
焚き火の周りに集まる狼騎会の影。
首領・鉄雄。
左眼に走る深い傷跡、残る片眼は黄金に光り獣のごとし。
胸と両腕には狼と蛇の刺青、髪と髭は乱れ、黒毒に染まるような肌。座しているだけで魔気が漂い、周囲を圧した。
――「漢人は笑おうとも、契丹の血は絶えぬ。西域の龍脈こそ鍵。金銀は愚者の餌、我が求めるは力だ。」
子らを鍛える狼騎の軍勢。
娘・月華は双刀を振るい、男を薙ぎ倒す。息子・鉄山は冷たく見守り、叱咤する。
――「その一撃では死ぬぞ。」
月華は唇を噛み、瞳を燃やす。
――「必ず強くなる。古墓が開く日に、誰よりも。」
鉄雄は焚き火越しに言った。
――「山は柱、華は刃。契丹の血は甦る。だが忘れるな...この世には二人、絶対に侮れぬ者がいる。
一人は"隠剣衣人"――蜀山月影剣の後継。剣は雲のごとく舞い、衣に隠れ、姿を見せぬ。
もう一人は"血影飛刀"――殺影門の継承者。一刃放てば必ず血を穿つ。」
炎が揺れ、父子の影が壁に伸びた。
鉄雄の声は地を揺らすように低く響く。
――「もし再び現れれば、大いなる障害となる。...決して侮るな。」
一方その頃。
ウルムチを発ったジープが砂漠を走る。
李啓明はライフルを膝に、周囲を鋭く警戒。
高浩南はヌンチャクを弄び、笑みを浮かべながらも目は張り詰める。
陸玉珍は荷を整え、乾糧と薬を点検した。
陳明軍と趙可欣が乗り込み、短く告げる。
――「出発だ。」
ジープは都市の灯を離れ、漆黒の砂漠へ。
夜明け、古い驛館跡で休息を取る。焚き火の傍ら、明軍は剣を脇に置き、静かに水を口に含む。
可欣は飛刀で肉を切り、淡々と食べる。彼女の表情は湖のように静かで、炎に照らされ一層冷ややかに見えた。
誰も多くを語らず。ただ時折視線が交わり、淡い笑みを交わす。
その沈黙自体が、武人の気配を証明していた。
夜明けのアイディン湖。
水面は碧く、遠く天山の峰が霞む。
ジープが砂を巻き上げ、隊伍は進む。
趙可欣が呟く。
――「明軍...誰かがこちらを見ている気がする。」
明軍は口角を上げ、瞳は東を射抜く。
――「錯覚ではない。龍気は侵入者を知る。...今日からが本当の試練だ。」
ジープは轟音を残し、砂漠の奥へと消えていった。