表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一代の魔神:玉旗西域  作者: Blue Magic
2/16

第2章 - 隠忍の武者

その夜。趙可欣チャオ・カシンは静かに吐魯番トルファンの裏路地にある小さな下宿へ戻った。

油灯が古びた煉瓦の壁に黄ばみを落とす。彼女は部屋の隅へまっすぐ歩き、書物と厚い布に覆われた低い木の箱に近づいた。


本を片付け、布を下ろす。蓋が開くと、冷気が立ち上り、古い金属の匂いが漂う。中には布の下に整然と並べられた武器が輝いていた。


黒いベルト、細いが強靭な鎖。肩掛け用に作られた幅広の革帯。その上には短剣のように小さな飛刀が規則正しく並んでいた。刃は銀色に光り、まるで三日月の破片のように冷たく輝いている。


灯火が刃に反射し、部屋の隅が一瞬眩く照らされた。可欣は指先で革帯をそっと撫で、瞳に決意の光を宿す。――ただのカフェに座る女ではなく、大いなる使命を背負う戦士としての自分を取り戻したかのように。


彼女は外に出た。砂漠の夜風が冷たく頬を撫で、月明かりが古い石畳に影を落とす。

頭上の枝には赤い果実がたわわに実り、重く垂れていた。


シュッ――銀光が走る。


熟れた葡萄の一粒が弾け落ち、可欣の掌に収まった。紫の皮は月に照らされ、宝玉のように輝く。

彼女は微笑み、低く呟く。

――「正確さは...まだ衰えていない。」


果実の甘みが舌に広がり、胸の奥に確かな自信が芽生える。前途に広がる砂漠の旅路――危険の中にも、きっと甘美なものが待っている。


翌日正午。趙可欣は二百キロを走り、ウルムチの古い下宿にいる陳明軍チェン・ミンクアンを訪ねた。彼は黙々とバックパックを整えていた。

可欣が戸口に寄りかかり、微笑んで尋ねる。

――「準備はできた? 旦那様。」


明軍は顔を上げ、瞳に決意の光を宿す。彼は黒い木製の笛を取り出し、掌に握る。カチリ――笛の頭が回転し、鋭い刃が閃いた。


明軍は庭に出て、笛剣を地面に突き立て、手首をひねる。

ギラリ――炎天下に鋭い刃が閃き、稲妻のように光を返す。

彼は息を吸い、剣を振るった。


「シュッ! シュッ! シュッ!」


数瞬で大木の幹に斬痕が刻まれ、樹皮が裂け、木片が地面に散った。

剣を収めると、彼は空を見上げ、炎熱の下で冷ややかな表情を浮かべる。


明軍は笛剣を折り畳み、可欣に笑みを向けた。

――「もう済んだ。行こう。」


可欣はまだ震える木屑を見つめ、唇を弧にした。

――「竹影剣チュイインジェン、悪くない。でも外では、本当に速いのは誰か、試してみましょう。」


その時、彼女の携帯が震え、外交ルートからの通知が映る。

《あと二十四時間待機せよ。政府は支援チームを派遣する。》


二人は顔を見合わせ、明軍が小さく頷いて微笑む。

――「ならば、出発まで...この新疆の都を歩いてみようか。」


真昼のウルムチ。天山からの乾いた風が街を吹き抜け、通りはバスとタクシーで溢れ、看板には漢字とアラビア文字が並ぶ。

赤提灯とイスラムの模様が混じり合い、若者とウイグルの人々が交錯する、多彩で賑やかな光景。


二人は広場を抜け、大きなスーパーに入る。自動ドアが開き、冷気が外の熱気を追い払う。

棚には黄金色の干し葡萄、冷凍の羊肉串、赤い紐で縛られた茶煉。隣にはヌテラやロシア菓子、韓国のスナック、さらにはベトナムのVinamilkまで並んでいる。


可欣は葡萄の袋を手に取り、瞳を輝かせた。

――「これこそ真珠よりも価値があるわ。明日の旅に少し持っていきましょう。」

明軍は頷き、笑みを返す。

――「仲間たちも、これがあれば少しは元気が出る。」


レジではQRコードの音が鳴り響き、人々は圧力鍋や浄水器を抱え、笑い合っている。

二人はスーパーを出て、街の喧騒を見下ろした。


可欣は呟く。

――「この街は賑やかだけど、どこか遠い。明日出発したら...もう戻れないかもしれない。」


明軍は彼女の手を強く握る。その視線の先には、遠く天山の峰々が待ち受けていた。

そこから始まるのは、さらに危険で、さらに曖昧な――しかし、運命に定められた旅路だった。


ウルムチ中央公園の夕暮れ。

黄葉がベンチの周りにひらひらと舞い落ち、街灯が一つ、また一つと灯り、小さな湖面に鏡のような光を映していた。

陳明軍チェン・ミンクアン趙可欣チャオ・カシンは並んで座り、足元にリュックを置いたまま、しばらく沈黙を守っていた。これが危険な旅に出る前の、最後の静けさであるかのように。


可欣が口を開く。

――「あなたは考えたことがある? 私たちはどこから来て、なぜこの旅に巻き込まれたのか。」


明軍は遠くを見つめて答える。

――「私はベトナム華僑の出だ。祖父は巴蜀に生まれ、蜀山月影剣を父に伝え、そして私に渡った。武林を選ばなかったつもりでも、結局は宿命に引き戻された。」


可欣は微笑み、瞳を輝かせる。

――「私も同じ。華僑の娘で、幼少はサイゴン。でも育ったのは、殺影門の門弟だった叔父のもと。血をにじませながら投げナイフを学んだ日々...それでも誇りに満ちていた。」


彼女はポケットから小さな短刀を取り出し、街灯の下で銀の刃をくるりと回してから仕舞った。その笑みは誇らしく、そしてどこか切なかった。


明軍は身を寄せ、柔らかな眼差しを向ける。

――「つまり、これは運命の仕業だ。巴蜀の剣と飛刀の伝承...それが新疆の地で出会った。」


冷たい風が吹き抜け、落葉が二人の肩に積もる。可欣は彼の肩に頭を預け、静かに吐息を漏らす。

――「明日、道は始まる。でも今夜、あなたがそばにいてくれれば、それでいい。」


明軍は小さく頷き、淡く笑った。

――「それは束縛でもあり、名誉でもある。私たちは二つの故郷――ベトナムと中国を背負いながらも、流れる武の血は一つだ。」


その夜、二人は二十四時間の待機命令を受け、宿に戻った。翌朝、政府チームとの短い会議。隊長が名簿を読み上げる。

――「規定により、各人ひとりの助手を連れてよい。陳、君は?」


明軍は首を振る。

――「私は一人で十分だ。家伝の剣術に他人は不要。」


視線が可欣に集まる。彼女は笑って後ろの若い女性を引き寄せた。

――「私はもう決めたわ。こちらは陸玉珍ルー・ユウジェン、二十四歳。考古学者よ。」


玉珍は顔を赤らめ、ぎこちなく挨拶する。明軍は呆れつつも笑う。

――「古墓探険に行くのに、まるでピクニックのようだな。」

可欣はウィンクして返す。

――「荷物を持つ人も必要でしょ。」


密室会議の扉が開き、二人の男が入ってきた。

先頭の男は大柄で、白髪混じりの髪に厳しい眼差しを宿す。軍礼で挨拶する。

――「南京から来た李啓明リー・カイミン。本日より指揮を執る。これからは一つの隊だ。」


部屋が静まり返る。

その後ろに若い男が入ってきた。迷彩のジャケットを半ば外し、いたずらっぽく笑って言う。

――「高浩南ガオ・ハオナン、同じく南京だ。簡単に言えば、俺たちが撃ち、みなさんは後で輝けばいい。」


李啓明が鋭く睨むと、浩南は咳払いして訂正する。

――「いや、つまり...皆さんを守るってことですよ。」


空気が和らぐ。可欣は玉珍を前に出して紹介する。

――「彼女は私の助手。食事の世話もしてくれるの。」

浩南はにやりと囁く。

――「羨ましいな。俺にも誰か養ってくれる人がいればいいのに。」


玉珍はさらに顔を赤らめ、明軍は苦笑する。李啓明は銃床を床に叩きつけた。

――「静粛に。任務を始めるぞ。」


その夜、全員で小さな串焼き屋に入った。粗末な椅子、しかし羊肉串の香りが店内に満ちていた。

店主は串、ナン、辛いスープ、冷えた地元ビールを並べる。


浩南が真っ先にグラスを掲げる。

――「乾杯だ! 南京からサイゴン、巴蜀から新疆まで、今夜は一つの卓を囲む!」


彼は豪快に飲み干し、玉珍が唇を濡らすだけなのを見て笑う。

――「おいおい、助手がそんな弱くてついて来られるのか?」

玉珍は小声で抗議する。

――「私はご飯担当ですから、ビールは無理です。」

皆が笑い出す。


李啓明は無言でいたが、やがて杯を上げて低く言った。

――「食え。明日には出発だ。肉は腹いっぱい、酒はほどほどにしておけ。」


可欣は烏賊の串を取り、明軍に差し出す。

――「食べて。道は長いから。」

彼は受け取り、淡く笑う。その瞳には決意が宿っていた。


浩南は酔い始め、大声で笑う。

――「おい玉珍、今日からは俺たち全員のご飯係だな!」

玉珍は慌てて否定する。

――「そんなことないですよ、私は逆に食べさせてもらってる方です!」


笑い声が店内を包む。李啓明でさえ苦笑した。

浩南は串を掲げ、即興の詩を口にする。

――「羊肉串ひと口、ビールひと口、明日の古墓――生死は運次第!」


拍手と笑いが店に響く。


ただ二人だけ、静かにしていた。陳明軍と趙可欣。

明軍は肉を噛みしめながら炎を見つめ、可欣はグラスを回しながら彼を見上げる。

その姿は、喧噪の中にあっても別の世界に佇むようであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ