第12章 - 大龍脈
地下道は獣の口のように松明の光を呑み込み、漆黒の闇が広がっていた。
一歩一歩の足音が虚ろに反響し、まるで葬送の太鼓のように響く。
深く進むほど空気は湿った黴の臭いに満ち、さらに乾ききらぬ古い血の甘ったるい鉄臭さが漂った。
ルー・ユェチェンが岩壁に手を触れると、ザラリと破片が崩れ落ち、深くえぐられた爪痕が露わになる。まるで何かが内側から必死に逃げようとしたかのように。彼女は震え、指先を止めた。占いに使う札は失われ、今はただ胸を締め付ける寒々しい予感しか残っていなかった。
――「ここには...何かが封じられている。」
カオ・ハオナンは眉をひそめ、棍を握りしめる。その瞬間、松明が激しく揺らめき、ふっと消えた。黒い煙が締めつける手のように立ち昇る。慌てて火を点け直したが、全員が感じ取っていた――これは風ではない。奥底から湧き出る異様な気配、まるで誰かの眼差しが潜んでいるかのようだった。
カハンの背筋を冷気が走る。深呼吸で落ち着こうとしたが、胸中には一つの明確な思いが芽生える。ここから無事に出られる者は、全員ではない。
先頭のミンチュンが振り返り、沈黙を促すように手を上げた。だがその静寂の中で、四人は確かに聞いた。奥で小石がポタポタ落ちる音――まるで待ち受ける者の足音のように。
地下道は続き、頼りない松明の光が壁を揺らめかせる。湿った岩壁に映る影は歪み、炎に合わせてねじれていた。
最後尾のユェチェンは不意に立ち止まる。壁に映る自分の影が動きと一致していない。彼女が立ち止まったままなのに、影はゆっくりと首を傾け...折れたように。背筋に冷汗が伝い、彼女は振り返り、黙ったまま歩みを続けた。
前方のハオナンは棍を振る。だが壁に映る影の手には剣が握られ、その刃は巨大な影の胸を貫いていた。重苦しい殺気が漂う。彼は眉をひそめ、「幻覚だ」と呟いたが、瞳の奥には悲哀が滲んでいた。まるで己の結末を見たかのように。
カハンはその一瞬を目にして、声をかけたかったが唇が凍りついた。胸中には言葉にならぬ呪いが渦巻く――この場所には必ず仲間の血が流れる、と。
闇の中、岩壁から青白い光が滲み出し、龍が息をしているかのように脈打つ。
ルー・ユェチェンがそっと触れると、指先が氷のように冷え、耳にすすり泣きの声が響く。彼女は跳ね退き、心臓を乱打させた。
カオ・ハオナンが進み出る。光に照らされた幻影には、彼が剣を突き立てる姿、そしてユェチェンが首を折られて倒れる姿が映っていた。彼は歯を食いしばり、黙り込む。
カハンは龍気の震動を感じ、この地が犠牲を求めていると悟る。
前方のチェン・ミンクァンは壁に手を当て、龍の力を引き込む。しかし彼は理解していた――仲間の血が亀裂を埋めるだろうと。彼はただ拳を握り、もし誰かが倒れるなら、その犠牲を道へと変えてみせると誓った。
玉から迸る光は潮のように高まり、ミンクァンの瞳に砂漠の金褐色の輝きが宿る。彼は息を吸い込み、虚空に掌を叩きつけた。
「ドンッ!!」
洞窟が震え、壁の砂が嵐となって崩れ落ちる。掌から放たれた衝撃波は十三重の波となり、渦を巻き、無数の砂粒が針のように突き刺さる。轟音が洞窟全体に鳴り響いた。
カハンも立ち上がり、目を閉じて息を吐く。唇から吐息が白く霧散し、やがて空間を覆うほど濃くなる。足元の石が凍りつき、氷花が青白く輝いた。髪が舞い、一本一本が霜を帯びる。
瞼を開けた彼女の瞳は氷晶のごとく澄み切り、ミンチュンを真っ直ぐに見据える。指先をそっと動かすだけで霜が鋭い氷矢となって床に突き刺さり、砕け散った。
ミンチュンは小さく笑い、掌を掲げる。ハンも手を上げ、熱砂と氷気がぶつかり合い、中央で渦を巻く。砂の龍と氷の龍が絡み合い、鱗の光が洞窟の天井に舞い上がり、幻の龍神が飛翔する。
その瞬間、二人は悟った。
もはや単なるミンチュンとハンではなく、双龍が気を合わせ、一つの存在となったのだ。
劉万龍はこの時、成吉塵の近くの集合地点に降り立った。飛行機の影が消えるや否や、黒い装甲SUVが待ち構えていた。ドアを開けたのは鉄雄だった。装甲車は砂漠の道を疾走し、砂煙を巻き上げて走り去る。
後部座席に座る劉万龍は、悠然とネクタイを直し、口元に笑みを浮かべた。
――「玉璽、龍気、この土地すべて......やがて金鉱脈となる。俺がカジノを建て、兄貴は兵権を握る。利益は滝のように流れ込む。誰が阻める?」
向かいに座る鉄雄は腕を組み、目を細め、心の奥で笑った。
――「金も、カジノも......砂粒にすぎぬ。俺が欲するは王座だ。天下の血こそが資本だ。」
数分も経たぬうちに、彼らは成吉塵に到着した。荒れ果てた廃墟、砂漠の風が鋭く鳴り響く。鉄雄は車を降り、崩れかけた砂の広場に立つ。目を閉じ、両腕を広げた。
空気が一気に重くなる。足元の砂粒が逆巻き、まるで見えない力に吸い上げられるように身体を渦巻いた。鉄雄は目を開け、その瞳が光を放つ。
――「まだ残っている......龍気が息づいている。あと一歩で、本流に触れられる。」
劉万龍はその光景を見て心臓が高鳴った。彼は初めて理解した――自分の隣にいるのは単なる同盟者ではない、"人の皮を被った怪物"であると。
成吉塵は夜に沈む。SUVのヘッドライトが地面を横切り、兵士たちの影を映し出す。銃を肩に担ぎ、周囲を警戒する兵ら。ここは軍が死守せよと命じられた要衝だった。
将校が手を挙げた。
――「止まれ!車を降りて検査だ!」
別の将校も声を張り上げる。
――「ここは封鎖区域だ!」
ドアが開く。鉄雄がゆっくりと姿を現し、薄い笑みを浮かべる。
――「ご苦労だったな。」
誰も返す暇もなく、彼の手が握り締められた瞬間――「ドンッ!」轟音と共に衝撃波が弾けた。地面が爆ぜ、周囲の兵らは血を吐き、身体は木の枝のように折れ曲がって倒れた。銃声が乱れ飛ぶ。
だが弾丸は彼の周囲で軌道を歪め、砕け散った。鉄雄は笑い声を上げ、まるで砂嵐の如き声が響く。
――「弾丸など小石にすぎぬ。お前たちこそが龍脈への血の供物だ!」
彼は突進し、掌打で十数名を吹き飛ばす。骨の砕ける音が砂塵に混じった。片手で将校の首を掴み、持ち上げ、そのまま握り潰す。血飛沫が噴き出した。
その瞬間、足元の砂が渦を巻き始めた。龍気の息吹が呼び覚まされ、地下からあふれ出す。鉄雄が両腕を広げ深く吸い込むと、地面の血は渦に吸い込まれ、赤く染まった。
兵らは恐怖で逃げる間もなく、血の渦に巻き込まれ絶叫し、やがて声も途絶えた。
砂嵐が竜巻となり、鉄雄の瞳は真紅に染まる。黒い龍気と血の霧が身体に吸い込まれていく。
彼は雷鳴のように笑い叫んだ。
――「ハハハ......陳明軍、趙可欣......貴様らは清らかな大気で融合した。だが俺は血と恐怖で脈を開く!これこそが真の力だ!」
SUVの中で劉万龍は蒼白になり、シートにしがみつき汗だくになっていた。彼は悟った――隣にいるのはもう「盟友」ではなく、人の姿を借りた怪物だと。
――
一方、龍脈の中央の洞窟。高昇南と陸玉珍が松明を掲げ、玉璽の周りを歩く。青白い光が脈打ち、熱と冷気が交互に吹き出し、二人は身震いした。
広場の中央で陳明軍は座禅を組み、低く告げた。
――「夜が降りた......軽挙はするな。玉璽は玩具ではない。」
玉璽の光に照らされ、彼らの顔が青白く浮かび上がる。沈黙の中、遠い砂の音がささやきのように響いた。
高昇南は溜息をつきながら言った。
――「なあ、どうしてこの玉璽を持ち帰らないんだ?政府に渡せば展示会になる。新疆中の人々が見に来る。きっと名誉なことだ!」
趙可欣は眉をひそめ、未だ癒えぬ傷に手を当て、苦く言った。
――「その時、私たちの命は残っているのかしら?」
陳明軍は首を振り、声を低くした。
――「分かっていないな。これは龍脈の心臓だ。失えば、この大地は崩れる。展示会など、血と骨の上の虚飾にすぎぬ。」
彼は目を開け、輝く玉璽を見据え、さらに言葉を重くした。
――「そしてもし誰かが無理に動かせば、自壊が起き、この洞窟は墓となる。唯一の方法は、玉璽をここに残すことだ。誰にも見つからぬよう覆い隠し、永遠に守るしかない。」
その言葉に、三人は口を閉ざした。陸玉珍は玉璽を見つめ、恐怖と好奇心が入り混じる眼差しを向け、やがて黙って後退した。
だが突然、陳明軍の顔色が変わった。彼は飛び上がり、洞窟の入り口に身を寄せ、隙間から外を覗いた。
外ではエンジン音が轟き、砂煙が立ち込めていた。数十人の契丹騎兵が砂漠装束で取り囲んでいる。高台には狼騎会の三角旗が翻る。装甲車から降りてきたのは、山のような体格の鉄雄。目は血走り、谷を睨みつける。その隣には腕を組む劉万龍、鋭い視線が闇を突き抜けていた。
陳明軍は歯を食いしばり、急いで戻って囁いた。
――「奴らが来た。鉄雄......それに劉万龍もいる。」
彼は玉璽を指さし、低く命じた。
――「早く隠せ!見せるな!」
趙可欣と陸玉珍は布をかぶせ、葉を重ねて光を覆った。高昇南は松明を消し、洞窟は闇に沈む。
陳明軍は再び低く命じた。
――「隠れろ!姿を見せるな!」
瞬時に全員が岩陰に身を潜める。重苦しい息遣いだけが響いた。外では蹄の音と鉄のぶつかり合う音が嵐のように洞窟へ迫っていた。
やがて鉄の靴音が響き、劉万龍と鉄雄が洞窟に入ってきた。
劉万龍が冷笑する。
――「ハハ...さすがだな、鉄兄。用意周到とは。」
鉄雄は勝ち誇った声で答える。
――「劉兄のおかげだ。お前の援助がなければ、西域に入ることもできなかった。」
劉万龍は目を細めた。
――「いやいや、ただの取引さ。」
鉄雄は突然振り返り、手を振った。
――「iPadをよこせ。」
部下が平伏し、最新のiPadを差し出す。鉄雄は画面を叩き、衛星地図を表示した。
――「この道こそが血脈だ。他の軍など、砂にすぎぬ。」
劉万龍は吹き出す。
――「ハハ、教主はやはり時代の男だな。」
鉄雄は目を離さず、口元を歪めた。
――「この時代、技術を侮る者は己の墓穴を掘る。」
さらに言葉を重ねる。
――「砂漠の地図など信じられるか?これこそが龍脈へ導く。」
二人の笑い声が洞窟に反響した。
だが不意に、鉄雄の声が低く震え、目に涙が滲む。
――「代償は......あまりに大きい。俺は娘も息子も失った。だが......それでも価値がある。」
劉万龍は驚き、問い詰めた。
――「鉄兄......悲しくはないのか?」
鉄雄は岩崩れのような笑い声を響かせた。
――「奴らは契丹の勇士、大遼の末裔だ。大業のために死ぬなら......それこそが相応しい!」