第06話 陰間の茶屋に散る花は(5)
──あれから数日。
若旦那が仕事をこなしてくれたか確認に、カラスミ屋へ。
わたしを見た若旦那の、落胆した表情は織り込み済み。
「……樫瑠璃さん。きょうは化粧、されていないんですね?」
「釣った魚には餌をあげな……こほん。わたし、化粧は元来不得手なの。先日は、老舗の跡取りへ詫びを入れるならば……と、未熟な化粧を」
「あれで未熟……。樫瑠璃さんが本気を出したら……ごくっ」
わたしは別に、自分が美形だなんて思ってない。
けれど身だしなみを重ねれば、それなりに男が群がってくるのも事実。
ああ、面倒くさい。
実に面倒くさい。
化粧なんて、今回みたいな特殊な事例だけ。
「……で、首尾は?」
「はい。例の陰間茶屋で、樫瑠璃さんに言われたとおりのこと、してきました」
「具体的に聞かせてくれる?」
「は、はい……。入店したのは、事前予約をすませた翌日。店側、すんなりと迎えてくれましたね」
それまでに店側は、あなたが老舗カラスミ屋の若旦那、加えて店の売上をくすねてる放蕩者だって、調べをつけたのね。
「……そりゃあ舌なめずりで歓迎するわ」
「はい?」
「なんでもない。続けて」
「あ……はい。入店後は、女将に案内されてこじんまりとしたお座敷へ行きまして。そこでしばらく待たされたのち……小姓っていうんですかね。女装の少年がお茶の一式を持って、襖を開けて入ってきました」
「やっぱり、阿長は呼べなかった?」
「一見の客は、小姓がつくみたいです。芸妓の半玉みたいなもんでしょうけど、これがもう女の子と見分けつかないくらい、愛らしくって」
「へえ……」
「お茶を飲みながら、その小姓と世間話をしてるとですね。じわじわと距離を詰めてきて……。野良猫が徐々に人間に懐く感じでしょうかね。しばらくするともう、膝の上に乗ってきて。いざ近くで顔を見ると、本当に男か女かわからない愛らしさなんですよ。ほら、仔猫のかわいらしさって、オスかメスかなんてどうでもいいじゃないですか。ああいう感じで……」
「……はいはい。色物新聞みたいな報告は、あとでね」
「あとなら聞くんですか?」
「商売柄、未知の情報は得る性分なの。で、先に本題お願い。例の文、落としてきてくれたのね?」
「え……ええ、なんとか。でも大変でしたよ。そのお小姓がね、さりげなくこちらの全身を調べてくるんですよ。尻とか股とか……」
「あー……もうけっこう。例の文がちゃんと落とされただけで、あなたは使命を果たしたわ。ご協力、感謝」
「いえいえ、手前こそ。ああ……雛菊、また指名するからね……」
……もうすっかり、陰間茶屋にはまってる感じ。
悪いことしたかしら?
まあでも、本人が喜んでいるのならいいか。
うだつの上がらぬ若旦那さん、フフッ。