第04話 陰間の茶屋に散る花は(3)
「……樫瑠璃。例の仕事、請けたのか?」
帰宅するなりの、胡麻斑からの不愛想な問い。
だからこちらも目を合わせず、履き物を脱ぎながら生返事。
「請けた。落とす先は、陰間茶屋」
「……陰間茶屋は女人禁制だ。女のおまえがどうやって、文を落とすつもりだ?」
「代わりに入店できる者が、そこにいるだろう?」
「いないぞ」
「いる」
「いない」
無表情で淡々と返答の胡麻斑。
まるでひねくれ者のやまびこのよう……ふぅ。
「胡麻斑が持ってきた話だ。おまえが一肌脱ぐのが筋だが?」
「陰間茶屋は、ことさら客の選別が厳しい。品格、信用、そして金が揃っている奴しか入れん。俺みたいな怪しい男は門前払いだ」
「それは知っている。だから一肌脱げと言っただろう。つまり、客ではなく茶男を希望しているという体裁で……」
「断る!」
珍しく感情の乗った、胡麻斑の拒絶。
女子と見紛う美男子だが、その気はとんとないようだ。
「ああ、待った待った胡麻斑! 駄目元で言ってみただけだ。おまえの伝で、陰間茶屋へ入れる男を見繕ってほしいのだ」
「簡単に言うな。あの手の娼館はな、馴染みでない客への警戒心が強く、素性もあらためる。裏稼業の者が、足跡を残したくない場の一つだ」
「じゃあ、表稼業での知り合いは?」
「自慢じゃないが、知り合いと呼べるものは、おまえ以外にいない」
「本当に自慢じゃないな……」
「そういう樫瑠璃こそ、頼める男友達はいないのか?」
「男の顔見知りは、胡麻斑だけだ」
「フッ……おあいこか」
「全っ然違う! 男の相手は面倒だから、仕事を請けるとき以外は接しな…………あっ!」
「どうした?」
「彼になら……頼めるかも」
あの、カラスミ屋の放蕩息子。
身分が確かな彼なら、陰間茶屋へ入れるかも。
けれどそれには……。
わたしが、わたしが……うーん。
やりたくないけれど、桧廻さんのためにはするしかないかぁ……。