シュシュとチュチュ
南の国のある島に、
シュシュとチュチュという兄弟が住んでいました。
二人はとっても仲よしで、いつも一緒に魚取りに出かけます。
エイヤッ、
と、シュシュが網を投げると、
ソイヤッ、
と、チュチュが引っぱります。
二人の息はピッタリ、
今日も二人は、魚取りに出かけます。
エイヤッ、
ソイヤッ、
「あれ、魚が一匹もいないぞ」
シュシュが言いました。
「おかしいなぁ、こんなこと初めてだ」
チュチュが言います。
シュシュはもう一度、網を投げました。
エイヤッ、
ソイヤッ、
やっぱり、魚は取れません。
二人は、夕方まで魚取りをしましたが、まったく取れませんでした。
二人の家、
「母さん、ごめんよ。今日は魚が一匹も取れなかったんだ」
「いいんだよ、明日は取れるよ」
二人は病気で寝ている母さんのために、魚を食べさせたかったのです。
次の日、
「よーし、今日こそ魚を取るぞ」
「うん、がんばる」
二人は、張り切って魚取りに出かけました。
エイヤッ、
ソイヤッ、
やっぱり、魚は取れません。
「困ったなぁ」
そこに、一隻の舟が近づいてきました。
「おーい」
マルコじいさんの舟です。
「マルコじいさん、どうして最近、魚が取れないの?」
「それはな、海の向こうの西の国がたくさんの火を燃やしているからだよ。海が暖か過ぎて魚が居なくなってしまったんだ」
「そうなんだ、困ったなぁ」
「病気の母さんに元気になってもらうために、魚を食べさせてあげたいんだけど」
「北の海には、魚がいるかな〜?」
「だめだ!」
マルコじいさんが怒り出しました。
「北の海には、人を石にしてしまう魔人がいるんだ。絶対、行ってはいけないよ」
「そうかなぁ〜」
ある日の朝、
母さんがぐったりしていました。食欲もありません。
「何とかしなくっちゃ」
二人は、西の海に出かけました。
グツグツグツ、
西の海は、本当に熱い海でした。
「熱い、なんて熱い海なんだ」
魚がプカプカと浮かんでいます。
シュシュは、海に手を入れてみました。
「熱い!」
海は、沸騰していました。
あまりの熱さに海の生き物は、みんな死んでしまっています。生きている魚は一匹もいません。
「熱くてたまらないよ、シュシュ」
「わかった離れよう、チュチュ」
二人は東の海に行ってみました。
舟を漕いでいると、海がねっとりしてきます。
「何だろう?」
シュシュは、海に手を入れてみました。
「ベトベトだ、これは油の海だ」
海は真っ黒で、ドロドロとしています。
魚も一匹もいません。
「ここもダメか」
遠くに油が流れている川が見えました。
黒い油が、勢いよく流れ出てきます。
その向こうには砂漠が続いていて、木は一本も生えていません。
ブホォ、ブホォ、
黒い煙が飛んできます。
「ゴホゴホ、息ができないよ、シュシュ」
「早くここから離れよう、チュチュ。違う海に行くんだ」
「あとは北の海しかないな」
「だめだよ、北の海には人を石に変えてしまう魔人がいるんだ。『絶対行ってはいけないよ』って、マルコじいさんが言ってたじゃないか」
「でも…」
二人は、北の海に行ってみました。
ゴーーゴーー
北の海には、大きな渦がいくつも巻いています。シュシュたちの舟なんか、たちまち飲み込まれてしまいそうです。
「しっかり捕まっているんだ、チュチュ」
「わかった、シュシュ」
ザップーン、
舟は、大波を越え、なんとか抜け出しました。
「寒い、なんて寒い海なんだ」
北の海は凍っていました。カチンコチンです。
「これじゃ、魚を捕まえられないよ、シュシュ」
「困ったなぁ、チュチュ」
その時、
遠くで、明るい光が見えました。
ピカーピカー
「島がある、あっちに行ってみよう」
二人は、島へと向かいました。
そこは、プラスチックの島でした。
すべての物がプラスチックで出来ています。家もプラスチック、道もプラスチック、人や魚もプラスチックでした。
「この魚、食べられないよ、シュシュ」
「そうだな、チュチュ」
ガリガリガリ、
プラスチックの人間は、プラスチックの魚を美味しそうに食べています。
「オナカ、イッパイ」
プラスチックの人間は、満腹になると目をチカチカと光らせました。
「キミタチハ、メズラシイネ。マダ、プラスチックノカラダジャナインダ」
二人を指差します。
「プラスチックノカラダハ、イイヨ」
「ビョウキモシナイシ、ケガヲシテモスグ、コウカンスレバイイ。シヌコトモナイ」
「アソコノオミセデ、プラスチックノカラダニシテクレルヨ」
お店から出てくる人を見てみました。
みんな、プラスチックの同じ顔で同じ身体をしています。
「シュシュ、母さんもプラスチックの身体してもらえば病気が治るかな?」
「……」
「セカイガ、スベテプラスチックニナレバ、アツイウミモ、アブラノウミモ、ナクナル。ミンナ、ヘイワデ、シアワセダヨ」
「サア、プラスチックノカラダニナロウ」
プラスチックの人間が、二人をお店に連れて行きます。
ガッチャン、ガッチャン、
次から次へと、お店からプラスチックの人間が出てきます。同じ顔の同じ人間が、そのまま工場へと向かって行きいます。
「サア、ナカニハイルンダ!」
ドン、
プラスチックの人間が、二人の背中を押します。
「嫌だよ!」
「皆んなプラスチックになったら、母さんじゃなくなっちゃうよ。ただのプラスチックだ!」
「そうだよシュシュ、みんな同じじゃ嫌だよ」
「うん」
バン、
二人は、プラスチックの人間の手を払いました。
「ソンナコトヲシテモムダダヨ。イズレ、ミンナプラスチックニナルヨ」
プラスチックの人間が言います。
ザザッ、ザザッ、
必死に船を漕ぐ二人。
ピカーピカー
遠くでプラスチックの塔の光が光っています。
ピカーピカー
そして、その光は消えました…
二人は、やっと南の島に戻って来ました。
すると、
マルコじいさんが待っていました。
「旅は大丈夫だったかい?」
「はい」
「ごめんなさい、言う事を聞かず北の海に行ってしまいました」
「そうかい、よくプラスチックの身体にしてもらわなかったね」
「うん、僕たちがプラスチックの身体になったら、母さんが誰だかわからなくなっちゃうよ」
二人は、「フフフ」と笑います。
母さんが、家の外で待っていました。
「ただいまー」
「お帰り」
その後、
南の海には、魚が戻ってきました。
二人は、魚取りに出かけます。
エイヤッ、
ソイヤッ、
二人は、仲良く幸せに暮らしたとさ…