どうか推しを推しませんように
独占力。
古来より、お金、権力、愛までもが、独占されようとしていた。
ここにその最たる男がいた。土佐良である。
一度推しになると、湯水の如く推しに財産を注ぎ、推しが人気がでそうになると、握手券をネットで買いまくり、推しが推されぬよう日々精進している。
人気が無いのは、困るが、人気が出過ぎるのは困る。
どこかの政治事情で勝たれても負けられても困ると流れていたが、土佐良もその口である。
推しに近づくとミサイルを一方的に発射。数多の推しの恋人候補を一掃。
推しが誰かに助けを求めると、テレビ局をハッキングして、世界の情報から推しの情報をデリートし、手紙を事務所宛に一通書く。
果物というのは熟れて(売れても)も良くない。
果物というのは腐って(売れすぎ)も良くない。
果物というのは中性的(チュウ性的)も良くない。
他の推しが抽選回などと、冗談にも聴こえない言葉を発したら、首根っこを掴んで、植木鉢の花にするのである。
推しに求婚しようなど、球根から始めろと言わんばかりである。
だが最近土佐良にも、悩みが生まれて来た。
苦情が推しに来ているにも関わらず、世界中の人が私の推しですから、悪く言わないで下さいと。推しが言いだしたのだ。
これは他の推しを排除してる私への擁護ですか。
それとも、他の推しを排除している、私へのお願いですか??
良く聞き取れませんが。
土佐良は悩んだ。
片手には40万。
独身漢の精一杯である。
推しを手に入れる。
あんな純粋な推しは居ない。
俺の独身人生を変えるのは君しかいない。
頼む、神様。
ガシャーン。自動ドアが開いた。
推しが居ない。
遂昨日まで、居たではないか。
こっちは、食事も喉を通らず、開店から来たんだぞ。
お店の名前はフレンド。
手にはチュールを入れた袋が入っている。
定員さん。あの土佐犬どうなりました。
この端っこのゲージで買われてた。
お客さん毎日見にこられてましたもんね。
いつも特等席で。
今日お会いになりますか。
会うどころじゃない。家族に迎えたい。
あの土佐犬を是非家族に。
分かりました。
私、あの子の親代わりみたいなもんなんです。
あの子を宜しくお願いします。
はい。
隠して土佐良は推しを家族へと迎え入れましたとさ。