9.お茶会の準備
クライブとレミ様からの返信は早かった。
手紙を出した翌日に、二通の封筒が届き驚いた。
「まさか、クライブとレミ様から、もう返事が届いたの!?」
封筒の裏を見て、差出人を確認すると私は一人頷いた。
「まずはクライブから」
洒落た透かしのあるグレーの封筒に、藍色のインクで名前が書かれている。封を開ける。
<リーズ様が私を誘ってくださるとは嬉しい限りです。是非おうかがいします。クライブ>
「まあ、来るわよね。次はレミ様」
桜色の便箋に、オレンジがかった茶色のインクで書かれた文字を読む。
<楽しそうな催しですね。私も当日お会いできることを楽しみにしています。レミ>
「うん……誘われたら来るよねえ」
私はパールたんと二人きりになれないという事実に、肩を落とした。
気を取り直して、明後日のパイ作りとお茶会の準備を整えておくように、執事に頼んでいるとお父様が声をかけてきた。
「どうしたんだい? パール? 何を頼んでいたんだい?」
「お父様。明後日、レミ様とパール様と一緒にクランベリーパイを焼こうと思ってるんです。
その準備を執事に頼んでおりました」
「リーズが料理!?」
お父様は目を見開いて、まじまじと私を見た。
「……お父様?」
「危険なことはやめておいた方が……」
「たかがパイ作りですよ?」
「……ああ」
お父様は私の肩を軽くたたいて励ますようにぎこちなく微笑むと「リーズの手作り……か」と何か苦いものを飲み込むような表情を浮かべた。
「いったい、なんだって言うのですか!」
「一応、薬の用意はしておこう」
「お父様!?」
お父様は口元に手を当てて「リーズの手料理……」と渋い顔でつぶやきながら、立ち去ってしまった。
「私の料理が何だっていうのかしら?」
私は腕を組み、トントンと足を鳴らしながら、お父様のいなくなった廊下を軽く睨んだ。