10.パイ作り
昼食が終わり、片づけをしている料理人に私は声をかけた。
「ねえ、明後日までにパイシートを作っておいてもらえるかしら?」
「パイシートですか? どのくらい必要ですか?」
料理人は不思議そうな顔で私を見つめている。
「そうね、パイ三つ分あればいいわ」
「わかりました」
我が家の料理人は笑顔で頷いた。
「あと、クランベリーも買っておいてもらえる? たっぷり必要なの」
「わかりました。クランベリーパイを作るんですか?」
「ええ、そうよ」
一瞬、料理人の顔が不安げに曇った。
「あ、あの……パイくらい私が作りますが……?」
「私が友人と作ることに意味があるの」
私が胸を張って言うと、料理人はグッと息をのみ、恐る恐る言った。
「あの、……キッチンは壊さないでくださいね」
「大丈夫よ!」
ああ! どうしてこうも、うちの人間は心配性なのかしら。たかが料理でキッチンが壊れるわけないのに!
私は腰に手を当てて、料理人をじろりと見てから言った。
「じゃあ、お願いね」
「はい、リーズ様」
***
パイ作りとお茶会の日がやってきた。
私は早めに朝食を終えて、パールたんとレミ様の到着を待った。
先にやってきたのはパールたんだった。
「おはようございます。本日はお招き有難うございます」
「いらっしゃいませ、パール様! 首を長くしてお待ちしておりました!」
私がにっこり笑って話しかけると、パールたんは遠慮がちに微笑んだ。その可愛さ、百万点。
「あの、レミ様はまだ……?」
パールたんの鈴を転がしたような声が耳をくすぐる。ああ、永遠に聞いていたい。
「ええ、まだ来ていないの」
あえてすまし顔で私は答えた。
だから、今は二人きり……! と気持ちの悪い笑みが浮かびそうになったので、パールたんから顔を背けた。
「あちらでお茶でも飲みながら待ちましょう」
私はパールたんを広間に案内すると、執事にお茶の用意を頼んだ。
一杯目の紅茶を飲み終わる頃、レミ様が到着した。
私が慌てて玄関に向かおうと立ち上がると、パールたんも立ち上がった。
「パール様、少々お待ちいただけますか?」
「分かりました」
私はパールたんを広間に残し、玄関に駆け付けた。
「遅くなって申し訳ありません。本日はお招き有難うございます」
レミ様がにこやかにお辞儀をする。
「レミ様! いらっしゃいませ。さあ、どうぞ中へ」
私がレミ様を広間に連れて行くと、パールたんが嬉しそうに笑った。その笑顔は、眩しすぎて目がつぶれそう。
「レミ様、本日はよろしくお願いいたします」
「パール様、こちらこそよろしくお願いいたします」
「みんな揃いましたね。それではキッチンに向かいましょう」
私は二人を連れてキッチンに向かった。