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花は語る

作者: 高月水都

嘘を見抜く道具があればすぐに解決するよね

「聞いてください殿下!! キアラさまは私が妾の娘で平民上がりだと蔑んでくるんです!!」

 目に涙をためて告げてくる先日男爵家に引き取られたというサラ嬢の言葉に、第三王子であるラースはにこにこと笑みを浮かべながら側近に視線を送る。


 すぐに側近が動いて、必要以上に接触しないように間に立って、

「サラ嬢。こんな人気の多いところで話をするのではなく落ち着いた場所で話せるように移動しましょう」

 と声を掛ける。


 側近が告げたことでサラ嬢は一瞬だけ不満げに顔を歪めるがすぐに顔を取り繕う。その時点で黒だと分かるのだが、第三者からすればサラ嬢が大きな声で喚いた事の方が注目を浴びていて、歪めた顔などよほど近くで見ないと気付かなかっただろうから証拠にするには不十分だ。


 だからこそ、決定的な証拠を見せておく。


「――キアラ。君も来てくれないかな。客観的に判断するには一方の意見だけを聞くわけにはいかないからね」

 実は近くで控えていた婚約者のキアラに声を掛けると、

「……仕方ありませんね」

 と溜息交じりに了承するキアラをサラ嬢は睨みつけているのだが、僕には見えていないと思っているのだろう。キアラは一瞬で不安げに視線を彷徨わせる淑女の顔を被ってくれる。


 側近数人を連れて人がある程度絞れる――絞れるだけで人払いはしない――東屋に向かい、そこに腰を下ろす。


 東屋には綺麗な花々が咲いており、それだけではなく机の上には一輪挿しの花がそこで休む人を安らげるようにするための配慮だろうか置かれている。


「さて、サラ嬢。キアラに何をされているのか説明してくれないかな」

 話を促すと先ほどまでイライラしていたサラ嬢がイライラなんてしていませんと取り繕ったような感じでウルウルと自分が可哀そうに見える角度で手を組んで、

「キアラさまは、私のマナーがなっていないとおっしゃって……庶民上がりは勉強ではなく男漁りに来ているのかしらと私を馬鹿にしているのです」

 じっと彼女の話を聞いてキアラに視線を送る。

「そこまで過激な事は告げたつもりではありませんが、事実です」

 キアラが頷く。


「あっ、後っ!! 勉強に来ていないのなら教科書はいらないだろうと言われて破られたのです」

 これが証拠ですと教科書を見せるが、その時机の上の一輪挿しの花がかさかさと音を立て枯れていくのが見える。


「きゃっ!! なっ、何っ⁉」

 いきなり枯れた花を見てサラ嬢が悲鳴を上げるが、それに他の者は一切反応しない。

「キアラ。実際には?」

「わたくしの目の前で自分で教科書を破られて、その教科書を投げ捨てたと思った矢先にわたくしに破られたと大声で泣きだしました」

 キアラの証言と共に枯れていた花が生気が戻ったように鮮やかに咲き誇る。


「きゃあぁぁぁぁ!! なんなのこれっ⁉ 気持ち悪い!!」

 サラ嬢の悲鳴を聞きながら、

「本当に勉強が遅れているんだね。この学園に来てすぐに学ぶ花だけど」

 まあ、実際どんな花か図が無かったから分からなかっただろうけど、それにしても。


「王家の花と言われるこの花は偽りを告げる者の声に枯れ、真を口にすると生気を取り戻す。その花に真を誓えるような国造りを行えと」

 国は綺麗ごとでは行えないのも事実だが、信念の無い者になるなという教えであり、最初に教えられるのだが、花が枯れることに怯えて、気持ち悪いと言い出す時点できちんと授業を受けていなかったのも分かるし、偽りを告げて第三王子である僕とキアラの仲を乱そうとする時点でこの国では害にしかならないといえるだろう。


 王太子である長男は隣国の王女をめとり、第二王子は王配として隣国に婿に向かう。兄二人はそれぞれ同盟国との婚姻を結んで外交問題は取り除かれて、自分の結婚は国力を強めるための結婚なのだから。


「そ、そんなの……ゲームにはなかった……」

 ぶつぶつと呟くサラ嬢に、

「学生のうちだから家への注意だけで終わらせておくよ。そこまで問題を起こしていないからね」

 ただ王家と貴族筆頭公爵家の仲を乱そうとしたが、騒ぎはそこまで大きくなっていない。だから温情を与えると告げると、信じられないと呆然としているサラ嬢をおいて、

「さて、行こうかキアラ」

 蜜月を見せつけるように手を差し出してエスコートするとキアラは、

「そんなのにほだされませんから」

 とツンとしながらも顔を赤らめて手を取ってくれる。そんなキアラに可愛いなと顔を緩ませてしまうと、

「殿下。みっともないですわ」

 と注意されてしまう。


「そんな顔は人前で見せないでください」

「なら」

 そっと耳元で、机の上にあった一輪挿しをキアラの手に持たせて、

「二人きりならいい?」

 と尋ねると、

「何を言っているのですかっ!! そんなのわざわざ見せなくても……」

 一輪挿しの花が枯れるのを見て嬉しくなり頬を緩ませて、

「僕は君の気が緩んだ顔はずっと見ていたいよ」

 と真実を告げると彼女の手の中の花は鮮やかに咲き誇る。





 後日、サラ嬢は学園を退学して、どこかの家の後妻として入ったと噂を耳にしたが、僕にはどうでもいい話である。まあ、婚約者を嵌めようとしたことで監視は付けておくが。


 そんなことよりも。

「愛しているよ。キアラ」

 王家の花を持ちながら告げると、顔を赤らめるキアラがどんな反応をするのかワクワクしながら見るのに忙しい。


 さて、今日は、政略結婚ですと告げて花を枯らすか恥ずかしげにわたくしもですと枯らさずに告げてくれるのかどっちだろうと想像して笑いだしてしまったのだった。

サラ嬢はゲーム転生だと思っている転生者(実際は不明)

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― 新着の感想 ―
[一言] 便利な花があっていいですねw
[良い点] 王子様カッコいいし、キアラちゃん可愛い……! 面白かったです。 他の作品も読ませていただきます!(^^)
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