表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

あの公園で……

 カリアと会った日からの数日間、俺は葵のマンションに籠っていた。人と会うのが少し鬱陶しくなっていた。グイグイ来るこの時代の女性に気持ちがついていけない。「俺、モテるんだ!」と、いっそ、はっちゃければ楽しいだろうけど、何か、種馬のようで嫌だ。

 葵はタイムスリップの事と、俺の身体を内密に調べる準備のため、毎日、朝早くから夜遅くまで、大学に行っている。 さほど広くない部屋で源五郎丸によく似た葵にウロウロされるのは心臓によくないが、葵は完全に俺を、研究対象としてしか見ていないようで、かえって、有難かった。

  

 「ゲーム、OFF」

 部屋中に広がっていたジャングルと青いドラゴンが消えた。首を回しながら、端に置かれたケースがらキューブを取り出し、専用のトレーにのせ、上の黒い箱に入れた。即、カレーライスが出来た。

「キューブか。超圧縮したドライフードらしいけど。すげえ、発明品だよな」

 味もいい。栄養もそこわれていないらしい。

「完成させた時、発案者、まだ、十代だったのよ」

 と、葵が言っていた。その後、世界規模に広がり、今じゃ、すごい資産家だと。

「どの時代でも、天才はいるのだな」

 カレーを食べ終えようとした時、ブレスレットが振動した。ギョッとした。振動したのは初めてだ。

カリアからだ。

 自分の時代に戻れなかったら…… あんな美人と付きあえる上に、日本の戸籍が手に入る。

 喉から手が出るほど、欲しい。 でも、それは、裏社会と繋がるという事。大体、こんなうまい話し信じていいのか? もし、カリアが俺に興味をなくしたら?

 色々考えると怖い。

 俺はカリアからの連絡には出ず、無視をした。


 ゲームもドラマも、その場に入り込んだような体験。でも、本当は狭い部屋の中。最初はもの珍しさや面白さで良かったが、だんだん、閉塞感を感じるようになっていた。

 カレーを食べ終わった後、久しぶりに外に出た。繁華街側を避けて、公園に向かった。歩いて10分程の所に広い公園がある。綺麗に整備されている。ここは、あの公園。この時代に飛ばされる前にミカに呼び出された…… あの頃は広いが、うっそうと木が茂っているだけの公園だった。ブラブラと公園を行く。老人たちが犬を連れて散歩をしてたりお喋りをしている。木洩れ日が気持ちいい。少し歩くと、高い木が生えていた。見覚えがある。俺の時代にもあった木だ。一回り大きくなっている。そっと木に触れた。俺のいた時間と繋がっている気がした。

「母さん、父さん……」

 どうしているだろう? 友だちも、そして、源五郎丸……

 木から目を離したとき、木陰で体操をしている人が目に入った。動きがすごくキレキレ。老人ではない。

「あ、空手の型だ」

 この時代のスポーツウェアなのか濃紺のピッタリした服を着ている。豊かな胸にしまったウエスト、プックリした形の良いヒップ。肉感的。空手はかなりやっているみたいで、素人の俺から見ても、力強くスピーディーで綺麗だ。

 ふと、その女性が動きを止め、こちらを見た。30前後、一重の細い目だが、眼光が鋭く、意志が強そう。

「こんにちは」

 と、女性が言った。反射的に会釈を返したとき、陰から、二人の若い男が現れた。この時代風の端正が顔立ちだが、引き締まっていて、前にあったポリスと同じ雰囲気がする。どこに居たのだ? 全く気が付かなかった。ポリスなのか? 慌てて、去ろうとしたら、

「下がっていて」

 女性が言った。音もなく男たちは姿を消した。

「驚かしたわね。ごめんね。あなたも気分転換?」

 落ち着いた大人っぽい話し方。

「はい、ちょっと、勉強に行き詰って」

「高校生? 在宅コース?」

 うなずく。何か訊かれたら、そう答える事にしている。

「私も、仕事の気分転換。家にスポーツジムあるのだけど、何か本物の外と開放感が違うのよね」

「あ、分かります。実物その物の映像でも、空気というか……どこか違います」

 女性はニコっとした。意外と子どもっぽい笑い。

「空の高さとか、太陽の日差しとか、風とか、身体を動かすには自然の中が好き」

「そうですよね。さっきしていたの空手ですか?」

「ええ、琉球空手。大人になってからだけど。あなたは? 何かしているの?」

「中学のときは、陸上部で砲丸投げを……」

 これは本当。入学時、顧問にスカウトされ、良い結果も出した。だが、ある日、

「砲丸投げなんてダッサ。短距離とかはカッコイイけど。身体もゴリラみたい」

 と、陰口をたたかれているのを聞いて、めげた。高校になってからは帰宅部だ。

「あら、似合っているじゃない」

 笑うしかない。

「高校生なら、もう進路は決めているの? どっち方面に進みたいとか」

「インフラとか、エネルギー開発的な」

 これも本当。ボンヤリだが、やれたらなぁと思っていた。

「そうなのね。なら、院はいった方がいいわね。ドクターは無理でもマスターは」

「え?」

「大学の話よ。院を出た方が就職に有利だという事。で、失礼な事を訊くけど、あなたのご家庭って裕福なの?」

「は? えっと」

「大学卒までは無料で、養育手当も出るけど、それ以上は実費負担でしょう。大丈夫なの?」

 家庭の経済状況までは想定していなかった。やはり、外出などせず、人と関わるのは避けるべきだった。返答に窮してしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ