表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/21

俺が…… 救世主となる ?!?

「この時代に来た事で他人の運命を変えた…… 確かに、そうだと思う。伊集院さんの事件は最悪の変わり方をしてしまったわ」

 ズキンと胸が痛む。

「でも、でもね、私にとっては、最高の変わり方なの。そして、きっと、これからの人類にとっても……」

「? これからの人類?」

「以前に話したよね。男性が中性化して、性欲も精子の動きも数も減って、少子化が凄い勢いで進んでいるって」

「うん、だから、俺みたいな男くさいブサメンゴリラがモテるんだよな?」

「それらを改善する薬も次々開発されているんだけど、決定打な物がなかったの。このままだと、じっくり滅亡するのを待つしかないって感じで……」

「そこまで深刻だったんだ」

「そんな時に、太郎君が現れたの。この時代に太郎君ほどの男性ホルモンが多い人は、世界中探してもいないわ」

「そう……」

「精子の運動も数もすごくて、こんなに男性機能に優れた、十七歳のイキの良いピンピンした生体が手に入るなんて、本当に夢みたいだった。研究もかなり進んで、効果も出てる。後は、効果の安定と、太郎君に頼らなくても大量生産に持って行く事ね。それも、めどがついているの」

 イキの良いピンピンした生体…… 相変わらず、葵の言い方は……

「民間ラボが借りれるから、完成させられるわ。そうなると、人類の滅亡は亡くなるわ。太郎君は……」

 ジッと俺を見つめた。

「人類の未来を救う、救世主なのよ!」

「きゅ、救世主?」

 思わず、声が裏返った。

「な、何を、大げさな」

「大げさじゃないわ。本当に打つ手をなかったの。伊集院さんの事は悲しいかった。でも、それだけじゃない。悪い影響だけじゃない! それは信じて!」

 葵の目は真剣で、嘘でも、慰めでもないのが分かった。

「ああ、うん」

 葵はホッとした表情をした。

「あ、でも、また性被害や虐待が増えたりしない?」

「あくまで、不妊治療薬だから。暴力的な危険因子を持っている人には投与しないから、大丈夫よ」

 今度はこちらがホッとした。

 葵は鞄を引き寄せると、中から一冊のノートを出した。

「これが遺品のケースに入っていたノートなの」

 俺の時代ではありふれたキャンパスノート。表紙をめくる。そこには、

『葵へ、 この中の物は研究費にあてるなりして、役立てて欲しい。

 そして、絶対に、私を救世主にしてくれ。   男槍太郎 』

 と書かれていた。明らかに俺の字、いや、成熟した大人になった俺の字だ。

「男槍か…… 無くなってしまったね」

 葵がポツリと言った。

「え? 男槍、無くなった? この前亡くなった人が最後? その人に子どもは?」

「子どもも孫もいるけど、結婚しても、どっちの姓を名乗るか別姓にするかは、太郎君の時代より、ずっと自由で。その、つまり、男槍を選んだ人がいなかったの」

「う、き、気持ちは分かる」

「でも、寂しい?」

「うん、ちょっと。そっか、男槍、消えてしまったのか。あ、源五郎丸は?」

「源五郎丸は少数だけど、居るわよ」

「良かった。源五郎丸は消えて欲しくないな」

「うん、クラシカルな良い名前だものね」

「男槍は消えても仕方ない名前ってこと?」

「ち、違うわよ。そういう意味じゃ」

 葵が小さく笑った。

 ああ、やはり、良く似ている。

「で、次のページに帰り方が書いてあるの」

 ページをめくる。

『来た時と同じ条件で、心から願え』

「え? これだけ?」

 自分へのメッセージ、不親切過ぎやしないか?

「タイムスリップした時って、どんな状態だったの?」

 本当は言いたくはないけど……

「……とにかく、その場にいたくなかった。どこかに行ってしまいたくて、道路に飛び出したら、車が来ていて、このまま、死にたくないと」

「道路に飛び出したの?」

「うん、逢魔が時で、あまり、ちゃんと、確認しなかった」

「逢魔が時、これも条件の一つなのかしら? 他に何か気づいた?」

「月が、満月が出ていた。煌煌と照っていた]

「場所は?」

「公園から少し西に行った辺り」

「次の満月の日時、天気と」

『……18日、天気は快晴』

 部屋が答える。

「次の満月は十日後だわ」

「十日……」

 何気に目を合わせた。そして、お互いに反らした。

「このノートがグッズの一番上に置いたあったの」

 もう一度、収納ケースに目を戻した。オタクグッズの中に一冊推理小説のハード本が入っている。東〇圭吾のサイン入り初版本。それをケースから取り出した。

「あの、葵さん、お願いがあるのだけど」

「何?」

「この一冊だけ、他の人に渡しても良い?」

「いいけど? どなたに?」

「このマンションの東隣りに茶色のファミリー向けマンションがあるよね。あそこに住んでいる森渚っていう高校生に」

「森渚さんね。わかった。必ず渡しておくわ」

 渡さない方がいいのか? また、運命に影響してしまったら…… 

 悪い影響だけじゃない…… 葵の言葉を信じよう。

「その子に太郎君の事を訊かれたらどうする?」

「そうだな。また引っ越したと、海外にでも行ったと言っといて」

「うん、上手く言っておくわ。でも、18日までは、もう他人と関わらない方がいいかもしれないわね」

「そうする。大人しく家に籠っておく」 

「その間、私はこれらを売って、研究に備えておくわ。で、最後のお願い」

「え? 何?」

「戻る前に、精液をお願い。ちょっと、多めにね」

 葵は、いつもの、研究者の顔に戻っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ