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愛と殺意

世界中で食べられているキューブをメインに、農業、畜産、漁業等の経営、契約を世界規模で行っている会社社長の死は大々的に報じられた。

 そんな報道を、部屋の隅で、息を潜め見ていた。

 伊集院麗華は俺が思っていた以上にすごい人だ。神に与えられた才能を持つ、人類上位何パーセントかの人間。そんな人が、どうして殺されたりしたのだろう? 

 ポリスの捜査情報とかのニュースは一切なかった。

 とにかく、怖い。一人っきりだと気が変になりそう。葵に早く帰って来て欲しい。


 葵が戻って来たのは、それから二日後の夜だった。麗華の事件の新しい報道は無かった。

 葵を見て、俺は心からホッとして、嬉しかった。

「葵さん、伊集院さんの捜査が本格的に始まっているみたいで、大丈夫でしょうか? これ以上、また、葵さんに迷惑かけることになったりしたら……」

「……大丈夫。前も言ったけど、ちゃんと守るから。それに、日本のポリスは優秀よ。その内、真犯人が捕まるわ」

 実家に帰る前と同じ事を言ってくれた。

 でも、何かが違う。どこか、よそよそしい。

「葵さん?」

 少し距離を縮めようとした。だが、

「ごめん。私、すごく疲れていて」

 と、背を向けると、奥の寝室に行ってしまった。

 大切な人が亡くなった後なのに、自分の事ばかりで甘え過ぎた。と、自分を殴りたい気持ちになったが、彼女に感じた違和感に思い当たった。

 帰ってから、目を見てこない。葵は相手の目を見ながら話すタイプだ。だのに、一切見てこない。むしろ、避けている。

 実家に帰って、何かあったのか? タイムスリップしてきた表に出れない人間の一生を背負う上に、殺人まで絡んでしまって嫌になったのか?

 どうしよう。葵に見捨てられたら、この先、どうすればいいのだ?

 葵が帰ってくれば、少しは心が落ち着くと思った。しかし、余計に落ち込むだけだった。


 「少しは眠れている? 何か食べれてた?」

 明くる朝、起きてきた葵は変わらず俺を気遣ってくれる。でも、やはり、何気に視線をそらしたまま。あまり、近くに寄っても来ない。

「いえ、ほとんど眠れていなくて…… ご飯も、もらったサプリとかで何とか……」

「そっか、出来れば、何かお腹に入れた方がいいよ。おかゆとか、そうそう、関西風の卵とじウドンとかはどう? お腹に優しいよ」

「関西風の卵とじウドンですか? 美味しそうですね」

「私も、体調がもう一つの時は良く食べるの。身体が暖かくなるのよ」

 そう言いながら、キューブの入っている箱を開けた。

「……それも、キューブなのですか?」

 葵はハッとしたように手を止めた。その時だった。ずっと、掛けっぱなしだった音楽チャンネルに再び臨時ニュースが入った。

「昨日の夜、R・I・Ⅽ 社長の伊集院麗華さんを殺害した犯人が逮捕されました。藤山ダイ 二十八歳、職業イラストレーター……」

「し、真犯人が捕まった!」

 思わず、葵の方を見た。

 彼女もこちらを見ていた。

「よかった。ほら、言ったでしょう。大丈夫だって。でも、本当によかった」

 心から安心したように俺を見ている。

俺もホッとした。これで殺人犯として追われることはない。そして、葵が見てくれているのも嬉しかった。

「葵さんが信じてくれてたから、何とか堪えれました」

「当たり前よ。太郎君がそんな事するわけ……」

 葵は急に言い淀むと、視線をそらした。

 ショック! 何故? 殺人と関わったから避けられたのではないのか?

 訳がわからない。

 臨時ニュースは事件の詳細を流し始めた。

 

 犯人の藤山ダイは麗華から援助を受けた男達の中の一人だった。まだ売れない頃に出会い、援助を受け、イラストレーターとして成功した。そして、男女の関係でもあった。

 事件のあった、俺が麗華の家に招待された日。麗華は藤山と自宅で休日を過ごしていた。その際、麗華が藤山に何気に言った。

「少し前に公園で会った十六・七位の子なんだけどね。とても男性的で魅力あるのに、何故か自信を持ててない感じなのよね。生真面目で、ちょっと融通が利かなさそうなんだけど。自信を持てば、凄く良いように化けると思うの。将来が楽しみというか、育てがいがありそうなの。この後、会う約束をしているのよね。」

 嬉し気に笑う麗華に、藤山の血が一気に頭に登った。

「麗華は多くの気に入った才能ある男に援助をしていた。その中には私のような、深い関係を持つ者もいた。でも、それは、良かった。飽くまで、金銭的な契約だったり、思いのこもらない割り切った関係だったから。だのに、あの言葉には、あの彼女の表情には、思いがこもっていた。我慢出来なかった。気が付いたら、首を絞めていた。私は、私は、彼女を、麗華を愛していた。麗華の思いが、心が、欲しかった。他の男に盗られたくなかった。自分だけの物にしたかった! 愛していたんだ!」


 言い表し難い感情が押し寄せてくる。

 手足が小刻みに震え、血の気が引く。

「どうしたの? 太郎君?」

 葵が驚きの声を出した。

「俺のせいだ……」

「え?」

「伊集院さんが殺されたのも、藤山とかいう男が殺人を起こしてしまったのも、俺のせいだ!」

 耐え切れず、叫んでいた。

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