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ずっと、君を、守る

「バカ、本当に、バカ! 太郎君がそんなお金の事なんか考える事ないんだよ」

「でも、ずっと、葵さんばかりに負担をかけていて、少しでも役に立ちたくて……」

「……その気持ちだけで十分だよ」

 俺は目を伏せた。

「で、伊集院さんは、本当に、亡くなっていたの?」

 顔を上げる。

「はい、し、死んでいた……と、思います」

「病気? なのかしら」

 首を激しく横に振った。

「違う。殺されていた。きっと、殺された!」

「どうして? そう思ったの?」

「首にスカーフが巻きついていました。顔が赤黒くに膨れ上がったいたし……」

 葵はしばし息を止めてから、吐き出した。

「それは…… 確かに、殺されたようね。絞殺された……のね」

 再び、吐き気が襲ってきた。

「太郎君が行った時には亡くなっていたのね」

「そうです。呼びかけても返事がなくて、灯りの漏れている部屋に行ったら……」

「他に誰もいなかったのね? ボディガードも?」

「はい、いなかったと思います」

「大体、どうやって、伊集院さんの家まで行ったの?」

 以前にもらったメモリーカードから連絡をとり、伊集院麗華の家に行くまでの事を話した。

「そっか、完全に伊集院さんからの招待ってことか…… なら、防犯システムは切られていた可能性が高いわね」

 どういう事か分からずにいると、

「伊集院さんって、すごく公私の区別をつける人らしくて。プライベートでの付き合い、特に異性との事は漏らさない、証拠も残さないようにしているって。前言った、援助やキューブハーレムも、誰が受けているかなんて秘密にされている。でも、援助受けて、成功した男性の中で、その事を言ってしまった人がいて、噂が広まったらしい。彼女自身、否定しなかったし」

「じゃあ、俺が伊集院さんの家に行った証拠は何もない可能性が……」

「そうだと思う」

 その時、ある事を思い出した。

「俺、顔を見られてます。公園で初めて会った時、二人のボディガードに。顔を覚えられていて、今回の事に関係つけられたりしたら……」

 怖い。

「顔を覚えられていても、太郎君にたどり着けないと思う。だって、指紋もⅮNAも顔も登録されていないのだから。無戸籍、無登録なのが不幸中の幸い…… 何か皮肉ね」

「本当に? ボディガード以外にも俺の顔知っている人が何人かいる。辿って来たりしない?」

「大丈夫よ。ポリスもバカじゃない。きっと、真犯人を見つけてくれる」

 大丈夫と言われても、怖さは拭えない。麗華の死に顔も頭から離れない。不安ばかりが増す。

 その時、ギュッと抱きしめられた。葵が俺の体を強く抱きしめてくれている。

「大丈夫、絶対、大丈夫だから。どんな事があっても、私が太郎君を守るから」

 葵の暖かさ、柔らかさが伝わってくる。ほのかに、フローラルな香りがする。目を上げると、目の前に葵の顔があった。

「これから先、ずっと、守る……」

 薄ピンクの唇がそう言うと、近づいて来た。

「葵さん……」

 彼女を抱きしめた。折れそうなぐらい華奢だ。

 互いの唇が触れそうになった時、突然、葵のブレスレットが激しく振動した。思わず、固まる。

「……どうしたのかしら? こんな夜中に、緊急でなんて?」

 スッと、身体が離れた。

「お母さん? どうしたの? こんな深夜に?」

 相手は葵の母親らしい。

「え? ショウおじいさんが? そうなの? わかった。直ぐに帰るわ」

 葵は電話を終えると、困ったようにこちらを見た。

「親戚の人が亡くなって、実家に帰らなければならなくなったわ。こんな時に太郎君を一人にしておくの、すごく心配だけど…… 子どもの頃から可愛がってくれてた人だから、帰らなきゃ、変に思われてしまう。一人で、大丈夫?」

 今、一人になるのは、辛い。不安で心もとない。葵にいて欲しい。でも……

「大丈夫です。葵さんは実家に帰って下さい」

 そう言うしかない。

「葬儀が終わったら、直ぐに戻って来るから。ちゃんと寝て、食べて」

「はい」

 葵は奥の寝室から鞄と小さな透明なケースを持ってきた。ケースを俺の前に置いた。

「これ、栄養剤などのサプリだから。食べれなくてもこれは飲んで。今、病気にでもなったら大変だから。いいわね」

 葵は出掛ける際まで気にかけてくれていた。

 一人は恐ろしい。麗華の顔が消えない。こうしている間にも、ポリスが近づいて来ている気がする。

 役に立ちたくて動いたら、余計に負担をかけてしまった。本当に情けない。

 ここに来てから、ベッド代わりにしていたダイニングキッチンの二人がけソファに横になるが、寝れない。

 結局、朝まで、ソファで転々としていた。


 朝になっても、食欲は全くわかなかった。嗚咽しながら、無理矢理に栄養剤を流し込んだ。静寂が怖くて、音楽を掛けた。だが、音楽は全く耳に入って来ない。その時、突如、音楽が切れた。

「臨時ニュースをお送りします。キューブの開発者で、R・I・C 社長の伊集院麗華さん 三十四歳が自宅で亡くなっているのが発見させました。警察は事件性があるとして、慎重に調べています」

 とうとうポリスが動き始めた。ブルッと背筋に冷たい物が走った。

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