ブサメンゴリラが もてるはずがない
突然、強い風が吹き、短いスカートがめくりあがった。下着が見えそう。
白くて柔らかそうな太もも。思わず、目をそらす。
夕ぐれの公園。 奥田ミカが
「ウフフ」と笑う。
大きめの瞳に茶色いロングヘアー。自他認める美少女。そんな奥田に、
「大切な話があるから、夕方、学校近くの三角公園まで来て」
と、言われた。
一体、何の話があると言うのだろう? 俺なんかと……
「ねぇ、男槍君」
鼻にかかった声。俺の目を覗き込む。見返せない。
「な、何の話なん?」
声がうわずる。
「実は、ミカね。男槍君のこと、いいなぁって思っているのよ」
今、何て言った?
「うそ……だろ?」
「うそじゃない。こう見えて、ミカ、チャラ男、苦手なのよ」
大きな瞳をまたたかせる。まつ毛が長い。
「だから、ミカと付き合って」
鼓動が激しくなる。こんなに可愛い子に…… 俺が? 嬉しい。でも、俺は……
「ご、ごめん」
深々と頭を下げた。
「はぁ? このミカが付き合ってあげるって言ってんだよ。わかる?」
「分かってる。奥田さんはきれいで魅力的だ。俺にはもったいない」
「そうよ! なのに、何で?」
「俺、前から好きな子が居て、その、片思いだけど……だから……」
奥田ミカの顔が歪んだ。
「はぁあ! 断るってぇの? 男槍ごときが!」
ブハハハハ キャハハハ
公園の木の陰から笑い声。
「ダッセ―、ミカ、男槍にふられてやがるの」
陰から二人の女子が出て来た。奥田の友人達。けばくて、リア充。
「罰ゲームだったんだよ」
「罰ゲーム……」
「そ、クラスで一番やりたくねえ奴に告るって。でないと、誰がお前なんかに!」
ミカが吐き捨てるように言う。
「でも、ふられたじゃん」
ミカの顔が真っ赤になる。
「何が好きな子がいるだよ。お前、鏡見た事ある? でかい鼻にゲジまゆ、ヒゲも濃いいし、ムダ毛ボーボー。きもいんだよ。ゴリラみたいな体して、性欲強そー! お前に好かれている子もかわいそ」
女達は声高に笑う。
「男槍太郎って、名前からダッセ。エロ! 男の槍って何? ヒワイ~。男の槍、やりたろうー!」
再び、笑い声。
「私の好きなのは、四宮君よ。イケメンでスリム。お前とは正反対」
我慢できず、公園を出た。
「いい気になんなよ! デブス! 私をふるなんて生意気なんだよ!」
罵声が追いかけてくる。
わかっている。自分がデブスなことぐらい。ヒゲやムダ毛が濃く、体はゴリラだ。わかっている。でも、だからって、なぜ、こんな風にからかわなければならない? きつい。辛くて、頭の中がグチャグチャになりそうだ。
とにかく、公園から離れたくて、ひたすら走った。そして、四つ角で人とぶつかりそうになった。
「す、すいません」
「いえ、こちらこそ」
ハッとする。この声は…… 相手を見る。
丸い童顔に少し垂れた黒目がちの大きな目。小柄でどこか小動物っぽい。 源五郎丸亜矢。
中学三年の時、同じクラスだった。テストで消しゴムを忘れた俺に、自分の消しゴムを半分に切って渡してくれた。優しくて可愛い。同じ高校になって、どれだけうれしかったか。今は違うクラスであまり話ができていないけれど……
「あれ、男槍君じゃない。どうしたの? こっち通学路じゃないんじゃ?」
「げ、源五郎丸さんも……」
言いかけて、ビックとした。彼女の横に男がいる。細身で高身長。涼し気な瞳に端正な顔立ち。女にしても綺麗だろう。
四宮カケル。 奥田ミカがほめていた男。
「し、四宮もいたのか?」
「ああ、源ちゃんと話があって」
やけに親し気だ。
「そうなの。あ、そうだ。ねぇ、男槍君」
源五郎丸が何かを言いかけていたが、これ以上、二人を見ていたくなかった。
「悪い。急いでいるから」
強引にその場を離れた。街灯のない道を足早に行く。
「源五郎丸さんも、やはり、四宮みたいのがいいんだ。綺麗な顔立ちの……俺とは正反対の」
夕闇が深くなる。足元だけを見ていた。つい、広い道路に飛び出してしまった。
キ キ キ
鋭い車のブレーキ音と眩しいヘッドライトの光。
「いやだ! こんなみじめなまま終わるのか?! いやだ!」
視界の端に、青白い満月がうつっていた。