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第4話 育まれる恋

秘密の関係はゆるりと続いていた。


教室で顔を合わせることはあるものの会話はしない。

エリックから目が合うことはないが、レナンは憧れる者の一人として遠くから見つめている。


父から連絡がきて、ミューズの縁談についての話がまとまりそうだが、体調不良でしばしかかると連絡がきた。

なのでこちらが落ち着くまでは、レナンの縁談は待っていてほしいと言われる。


ドキドキとしたこの関係があるため、正直ホッとした。


もしも婚約者が出来たら、このような事許されないだろうとも思っていた。


「ねぇ、知ってる?」

友人のキュアがこっそりとレナンに耳打ちをした。

「最近エリック様とお話をしようとしたり、関わった令嬢がケガをするって噂があるの。それがどうやらカレン様って話よ」

ドキッとする。

そんな噂があったのか。


「だ、大丈夫かしら。わたくしつい見てしまうのだけれど」

ドキドキはらはらしてしまう。


「見るだけなら誰でもすると思うわ、王太子なんて憧れちゃうもの。でも話しかけたら大変かもね、嫉妬って怖いわね」


婚約者のカレンはとても女性らしい。

ふわふわとした淡桃色の髪を時間をかけて巻いている。

爪先までも手入れされ、肌もキレイだ。

目もくりくりっと大きく、丸みをおびたバランスの良いスタイル。

そしてエリックからプレゼントされたと、色々な宝石を日替わりで身につけている。


「エリック様ー」

「あぁすまないカレン嬢、公務以外ではあまりベタベタとしたくないのでな。婚約者とは言え婚姻前の男女、麗しいカレン嬢に手出しをすることはしないが、もう少し自制をさせて頂きたい」

と、人前では一線を引き、婚約者に対し誠実さをみせている。


婚姻前の男女の契はタブーとされているためか、エリックは人前ではカレンに必要以上に近づかないようにしていた。


(大事にしてるって事かしら?)

手を繋いでもいいんじゃないかと思うけど。

現に他の婚約者がいる貴族は手を繋いだり、こっそりとだがキスはしている。


王族としての示しなのであろうか。


そんなストイックなエリックとの仲がなかなか進展しないから、カレンは周囲から女性を排除しようとしているのだろう。


「そういえばレナンはニコラ様と仲がいいよね、いつも何を話してるの?」

「えっ?」

どきりとする。


秘密の関係であるし、彼と話すのは主にエリックからの伝言だ。


話のお礼にとプレゼントを渡されたり、話し合いの日にちを変更したりとその程度だ。


エスコートもかって出てくれるが、彼は想い人がいると言ってたし、単純にビジネスパートナーである。


「えっと、大した話ではないのよ」

「エスコートだってされてるじゃない、もしかして婚約者候補?」


ぶんぶんと首を振り、否定する。


「違うの、そんな人ではないわ。たまたま、農業の話で気が合って、それでたまにエリック様の話を聞かせてもらってるだけ」

カァーっと顔が赤くなる。


「好きな食べ物や好きな本を教えてもらったりとか、そういうのだけなの」

エリックは好きになっちゃいけないし、結ばれない相手だけど、せめて夢だけを見たかった。


「わたくしは嫡子だもの、エリック様とはどのみち無理よ」

「…そっか。よしよし」

キュアはぎゅーっとレナンを抱きしめ、頭を撫でた。




そしてそれは本当にたまたまだった。


廊下にて落とした万年筆を拾い、誰のだろうとキョロキョロとあたりを見てみる。


「高そうな万年筆ね」

キュアも覗き込んでくる。




「家紋入り?これって…」

「俺の物だな。レナン嬢、ありがたい」

にこやかに声をかけられ、レナンは固まってしまった。


「すみません、エリック様のとは露知らず」

わたわたとレナンは万年筆を渡そうとする。


「拾ってもらったのだから、謝罪をするのはこちらだな。手間を掛けてすまなかったなレナン嬢」

いつも夜話す人が、今はこうして顔を合わせて話をする。


あわあわと驚いているが、エリックはなかなか受け取ってくれない。


後ろにいるニコラはいつもの困った顔をしており、護衛騎士のオスカーも受け取る素振りはない。


「レナン嬢、その万年筆は面白い仕組みがあってな」

すっとノートを出される。


「魔力を通すと色が変わる。試してご覧」

言われるがままにまずは出されたノートに書いてみた。

インクの色は紫。


エリックは手袋をはずすとレナンの手に自分の手を重ね、魔力を流す。

直に手に触れられて緊張するが、すぐに手は離れ再び手袋をはめている。

「もう一度書いてごらん」


今度は青色に変化した、レナンの目の色と同じだ。

「凄い仕組みですね、これなら何本も持たずにすみそうです」

「面白い贈り物としても人気だよ、書類などを書くときも便利だ。もし良ければ君にあげよう」

拾ってくれたお礼だ、と耳元で囁かれる。

顔を赤くし、耳を押さえてしまう。


思わず大声が出るところだった。


「ぜひ使ってみてくれ、きっと気に入ると思うよ」

そう言うとエリック達は行ってしまう。


しばし呆然とレナンは立ち尽くしてしまった。






「気障」「女たらし」「恥ずかしげもなくよくあんな事出来ますね」「自意識過剰」

従者たちから言われる言葉もエリックはニコニコと聞き流す。


「今は機嫌がすこぶる良いから咎めん。だが、誰が何をいったかは覚えておこう」


口を閉ざした従者達を尻目に、ようやく彼女と触れられ、直接会話が出来たと喜ばしかった。


柔らかい手だった。

サラサラの銀髪に青い瞳は緊張からか潤んでいた。


「あぁ早く婚約したい」

ディエスとの話し合いは行われ、新たな婚約者候補は退けられた。


娘二人を王子の妻に、というのは興味を持ってくれたようで、渋々ながら了解してくれた。


政敵である大臣の娘との婚約解消の件だが、やはり一筋縄では無理そうだ。


普通に解消し、レナンと婚約したのでは、世間的にも婚約者がいるカレンから奪い取った女性としか見られない。


カレンがエリックを好きなのは周知の事実だ。

エリックも人前では優しくしているし、こちらから急に解消するのは心象が良くない。


どんなにレナンが優れていて王妃に向いていたとしても、納得されないだろう。


カレンが身を引いてくれればいいが、それもない。

今の生活も心地よいし、勉強もしなくていい(と考えているようだ)。


そして大臣も、王族との繋がりが出来るのを手放そうとはしないだろう。


慰謝料を出し婚約破棄をする事も考えるが、そんな醜い争いのあとにレナンを気持ちよく迎え入れる事など出来ない。



こちらを立てればあちらが立たず、あちらを立てればこちらが立たずの状態だ。


「ならばいっそ、ステージから降りてもらおう」

カレンがいかに王妃に相応しくないかを民衆や貴族に示し、この結婚が害にしかならないと立証するしかない。


「頑張っていくか」






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