第4話 帰り道
夕依に連れ出されたあの日、桜を見た後はうちまで自転車を押して帰った。
帰り道には、最近見たアニメや漫画の話、一緒に過ごした小学生の時流行っていた遊びなど、他愛のない会話をした。懐かしくて、思い出しては二人で笑った。
夕依の1つ下の弟であり、僕の同級生の凪は足が速くて、小学生の頃は鬼ごっこや大抵の遊びで周りよりも強くて目立っていた。僕と凪と、あと2人くらい仲の良かった同級生がいて、僕らは公園の裏の林の中にある少しだけ開けた空間を、雑草を抜いたり、拾った段ボールを敷いては秘密基地と呼んでいた。
ある日の学校終わりにその公園で、近所の仲間たちとかくれんぼを始めた。鬼になった僕は真っ先にその秘密基地に向かったのだけど、そこにいたのは凪ではなくて夕依だった。夕依は下を向いて何かに夢中になっていたので、気づかれることなく近づいた。
「夕依ちゃん、みっけ」
「あ、冬くん。いつの間に」
「今見つけたの。凪がいると思ったのに。何してたの?」
「じっとできなくて絵を描いてた。ふふ、凪じゃなくて残念。探しに行こうか」
「うん。ここじゃないなら滑り台の下だったかも。」
来た道を戻る前に、一瞬見えた段ボールに描かれた絵はカラフルで綺麗だった。
夕依は、自転車をもとに戻すと鍵と一緒に水色のケースに入ったスマホを差し出してきた。
「連絡先、交換しよう。また来てもいい?」
「えっ。何しに?」
「何か目的がないと、来ちゃいけないの」
「そういうわけじゃないけど、来たってつまらないだろ」
「そう?私は今日楽しかったけど。冬も笑ってた。」
図星だった。1年近く恐れていた外の世界で、僕は今日、呼吸をして夕依に並んで笑った。まだうまく整理できていないけど、自分の中では考えられない変化だった。
「…わかった」
そう言ってスマホを受け取り、連絡先を登録した。
その日の夜、夕食を囲む食卓で母が嬉しそうに、冬季が朝食の食器を洗っていたと父に報告していた。僕は何となく居づらくなって、いつものように食べ終わってすぐ部屋に戻った。