第1話 プロローグ
「朝陰」のシリーズは自分が中高生の時に考えていた小説で、2018年に別サイトで1度投稿しています。
大学3年になった今、実家で執筆途中のデータを発掘したので途中挫折の原因となった設定を見直し、読みやすい表現に手直しして続きを書くことにしました。書き始めた当初も今も、上手く感情表現できるタイプではないので、吐き口としての意味もあると思っています。どの登場人物にも少しずつ、自分の嫌な部分を投影しているので僅かに愛着のある分身のような存在です。
人に合わせて、同じ生活を送ることが、私の正解なのか。青春も未来も、学校でしか手に入れることができないのか。他人に気づかれないように明るく振舞っていても、毎日小さな絶望を繰り返している人に、伝えたい物語です。
「冬季。朝ご飯、おいとくからね。」
静かな母の声は、時計の短針が8を少し通り過ぎた頃、僕をと閉じ込めるドアの向こうから聞こえてくる。自分が寝ていたか寝ていなかったのかも分からない。ただそんな曖昧な意識の中で、今日もまた陽が昇るのか、と思った。そして表現の仕様がない焦燥感と、劣等感に苛まれる。ここまでが毎朝恒例の思考の流れだ。ふと、壁のカレンダーを見る。何となく、自戒のために毎月めくっているそれによると、この部屋に引きこもってから、もうすぐ1年が経つらしい、と気づいてしまった。
高校に入学してすぐ、野球で壊した肘を手術することになった。幼いころから続けてきた野球は、当然のように高校でも続けるつもりでいたから早めに治したいと思っていた。手術をおこなうことになった病院は、父の知り合いがいてこれまでにも何度かお世話になっていた。家から遠いその病院で手術を受けて、学校に完全に復帰するまで一か月ほど時間がかかった。
それが事の発端だった。久しぶりに顔を出した学校に、僕の場所はなかった。出身が違う生徒が集まっていても、彼らは自分の仲間を探す。自分と釣り合いの取れた人間を周りに置く。人のその性質は、環境の変わる4月に最も発揮されるようだ。
幼いころから、人と距離を縮めるのは得意ではなかったが、友人のいない孤立した存在とまではいかなかった。おそらく自分は、知り合いという存在を、友達と認識するまでの感覚が他人より慎重なだけだ。それでも名前を知らない人はいないような、小さい小学校とその延長のような中学で9年を過ごした僕が、馴染めるはずのない環境だった。
そんな理由で不登校になるなんて、なんてくだらないんだろう。この1年間毎日、毎時、僕は自分を貶した。そのうち家族とも話ができなくなった。自分の部屋は完全に孤立した一つの世界だった。何もすることはないのに、焦りと苦しみで時間は早く過ぎるように感じる。そうして過ごしたこの1年は、自分の人生のすべてを諦めるかけるには十分な長さだった。
何にもなれずにただ一人で終わっていくんだなと、思っていた。
そうだよ、思っていたはずなのに――
入ってきたんだ、君が。
僕の部屋に、僕の中に。庭の木から落ちた、薄桃色の花弁と一緒に。
ねぇこれは、立派な不法侵入だと思うんだ。
だけどね本当は、心の底から君に感謝してるんだよ。