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凪  (改訂版)  作者: 田中浩一
6/18

17から19まで。


17


井上勇二と中島守人はふたり、鹿児島市内のボーリング場にいた。

近くに大学があるせいか、学生が多い。また、すぐそばに、全国チェーンのバイク屋もあるからか、バイク乗りのいろんなバイクが、駐車場に並んでいた。

3ゲーム終わって、3戦3勝なのは、守人。

「なぁ、勇二。ボーリングってのはさ、頭を使うゲームなんだよ」

勇二の3ゲームの足したスコアが、百にも満たなくて、守人は笑う。勇二は、ハイハイと両手をあげる。

「そのマイボール、歪んでるんじゃないの?」

勇二はマイボール、マイシューズ持参で来ていた。どちらも。緑色。

特にマイボールは、グリーンに黄色と黒のラインがうねうねと入っていて、全体がラメで光っていた。

「玉虫か。それとも都知事ファンか?」

守人に最初から最後まで、そのネタで茶化された。

「そっちじゃねぇよ。さ、終わろうぜ」

勇二が清算に行く。その間に、守人はスマホとは違う、タブレットを取り出して、見る、

勇二が、戻ってくると、タブレットを見せながら、

「葛城のやつ、今夜も走ってやがる」と言って苦笑する。

「あれ?おかしいな、今夜はあいつのお母さんのシフトは休みのはずじゃ」

勇二は首を傾げる。

タブレットには、市内の地図が表示されていて、そこに赤い点が、東から西へ移動していた。

かなり速い。

駐車場から舗道まで、バイクを押して出ると、目の前の道路の、路面電車の線路の向こうを、三台のパトカーがサイレンを鳴らしながら走っていく。

すると、遠くからも、サイレンが聞こえ出した。

「何が起こってるんだ?」

守人が呟くその後ろにいた大学生の数人が、口々に喋るのが聞こえた。

「ジャッドが、走ってるらしいぞ」

守人が勇二に振り向きざま訊ねる。

「ジャッドってなんだ?」

「地元の暴走族だよ」

「暴走族にしちゃ、ジャッドって、他に名前があるだろうに」

「郷土愛にあふれてるんだよ」

なるほどねと、守人は笑う。

「こりゃ、しばらく走らない方がいいかもな。とばっちりを食いそうだ」

そう、勇二が言ったとたん、ふたりは同時にひらめいた。

「葛城が、ヤバイっ」



18


「ラッキーちゃちゃちゃっ」

城島隼人は、フルフェイスの中で、思わず歌った。

「見つけたよ~ん、愛しの『風の女神』ちゃん」

クラッチミート。

加速するバイク。


ちょうど、西郷隆盛像の前を過ぎた辺りだった。遠くのあちこちで、サイレンが聞こえた。

それより、よく聴こえたのは、「ラクカラチャ」「パラリラパラリラ」「ゴッドファーザー」。

何が起こってるのかしら?美凪は、自分のことではないなと思いながらも、捲き込まれそうな不安を感じていた。

そんなことを考えていて、後方から近づいてくるバイクに気づくのが遅れた。

ミラーに映ったバイクは、あっという間に、横に並ぶと、ライダーがシールドを上げて、

「今晩は。麗しのきみ。僕の女神様!」と浮わついたことを言いはじめた。

よほど、地声の大きな男なのだろう。

走っているのに、ヘルメットの中に、聞こえてくる。

明らかに大人の男で、なおかつ走行中にも関わらず、ナンパに来ているのは、気持ち悪いやつだと、思う。

サイレンの音の方へ行かないように、そちらに注意をして、走行する。

それで、相手を無視していると、

「ねぇ、名前は特に聞かないよ。僕は、城島隼人。『風の女神』の風に乗って、羽ばたく翼になりたいんだ」

タンクを叩くから見れば、ウイングマーク。

美凪は、メーカーに疎いから、勝手に貼った自己アピールのステッカーだろうと思った。

羽ばたきたければ、勝手にどうぞ。この鳥野郎。

そう、心の中で、罵った。

「今度の日曜日に、鹿児島駅そばの『かんまちあ』に待ち合わせて、熊本方面のやまなみハイウェイにツーリングに行きませんか?」

この喧騒の中で、なんて悠長なことを言ってるんだろうと、さらに無視すると、

「そうだっ、デート代は全て僕もちで。誘うんだから、当然だよね。とにかく、君と走りたいんだ。走るの好きだろ?」

最後の言葉は、なぜか響いた。

警察憎しで、警察の鼻を空かしてやろうと、バカにして見下してやることで、過去の恨みの溜飲を下げていた。でも、ここ何回かは、信号も止まるし、景色も楽しむようになっていた。

昼間、休みのたびに、ツーリングする数台のバイクを見ると、そのうち井上くんを誘って、遠くに行きたいなとも、思うようになっていた。

オートバイが、無心で走ると言うことが、憎悪を洗浄してくれたのかもしれない。

その時。

「そこのバイク、左に寄って止まりなさい」

パトカーが、すぐ後ろにいた。


19


「今夜は、暴走族及び暴走車両の一斉摘発を行ってるんだ。遠くの、ラッパミュージックはきっと、ジャッドだろう。

僕が後ろのパトカーを引き付けるから、君は逃げなさい。事故には気をつけて。また、日曜日にかんまちあで会おう。アディオース、アミーゴっ!」

そう言うと、鳥野郎こと城島隼人はスルスルと後退した。

美凪がミラーで最後に見た景色は、鳥野郎がしばらくパトカーの前をフラフラしたあげくに、路肩に止まる画だった。

いつの間にか、目の前には国道3号線を横たえる交差点に来ていた。

信号は、赤。

止まる。と、右角のガソリンスタンドから、

「はい、そこのバイク。そのまま歩道で停車してください」と見慣れないパトカーが、出てきた。

今までのセダンタイプと明らかに違う。

まず、ドアが二枚しかないし、やたら車高は低いし、バンパーの開口部が大きい。

「ただ者ではないな」

美凪は、ひとり呟くと、右を見ながら、左にバンク。

「待ちなさい。止まりなさい」

いやに丁寧な言葉も、余裕を感じさせるパトカーは、丸4灯テールをわずかに沈ませ、四輪で加速する。

あっという間に、美凪のバイクに接近。

ゲッと思いながらも、左に揺らして、思いっきり右にバンク。

対向三車線を一気にまたいで、細い路地に入ると、さらに右へ。

甲突川(こうつきがわ)沿いを戻ると、平田橋を渡り、そのまま鹿児島中央駅へ、駆っ飛ぶ。

巻いた、と思った瞬間。

鹿児島中央駅が見えたと思ったら、高見橋電停方向からあの、「パラリラパラリラ」が聞こえてきた。

10数台のバイクが、フラフラと走ってくる。先頭車両は、なぜだかライトが、ステイを継いでついで、高いところに着いている。

美凪はそれを見ながら、「これもツーリングかしら?」明日、井上くんに聞いてみよう、と思った。



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