12から13まで。
12
食事が運ばれてきて、話は中断。
勇二はダブルハンバーグを無言で食べはじめる。
早い。犬食いだ。
美凪はカルボナーラを、守人はしょうが焼き定食を、ゆっくり味わいながら、食べる。
早速食べ終わった勇二が、美凪にさっきの質問をしようとする。
それと察して、
「まぁ、コーヒーでも注いでこいよ。食べてすぐに喋ると、チーズ臭いぞ」と守人に言われて、
「そうだな」と手のひらに息を吹き掛けながら、立ち上がる。
「はぁ~」
ため息をつく守人に美凪が、笑顔で言う。
「わたしなら大丈夫だよ。ふたりには隠し事したくないし」
「に、してもタイミングがあるよ。勇二は昔っからデリカシーに欠けてんだよな」
フフッと、美凪も笑う。
「さっきの続きなんだけど、それだけの証拠と自白で、裁判はどうなったの?」
慎重に訊ねる、守人。
「その後、お父さんのアリバイが立証されて、無罪になったの。警察からはなんのお詫びもないけどね」
「髪の毛はどうしたんだろ?」
「うちをみてくれた弁護士さんが見つけた、ごみ置き場の防犯カメラに、上野あけみがゴミをあさる映像が映ってたの。事件を知った近所の人が推理好きな人で、もしかしたら、この防犯カメラに何か映ってるかもって知らせてくれたの」
眉ねを寄せる守人に、
「あのね、うちはお父さんの髪をお母さんが切ってたから、ゴミの中に見つけて、子供に食べさせたのかもって」
「気持ち悪いことするんだな」
守人は、両手を上げて、参ったのポーズ。
「きっと、その上野あけみ自身も、食ってるぜ。いわゆる、愛すればこそってやつさ」
戻ってきた勇二は座りながら、そう言う。
「病院でも、そういう患者さんがいるって話は聞くよ。うちは、精神科はないから、他所を紹介するけど」
ストーカー怖し。
三人は同じ思いに囚われて、身震いした。
13
コーヒーを半分ほど一気に飲むと、勇二はふたりを交互にみて、
「じゃ、そろそろ本題に入ろうか?」と言う。
いやいや、今までのが、本題中の本題だよと、守人は胸のうちで思い、背もたれに沈んだ。
「オートバイが欲しいの。それでお金を稼ぐために、ネットでおじさんたちに声をかけて、制服姿の写真を撮らせてるの。それでいくらか貰えるのよ」
美凪は、自分の辛い過去を全て話して楽になったのか、スラスラと喋りはじめた。
「でも、身体は売ってないよ。信じてくれる?」
それが、二人の一番の関心事でしょと、言わんばかりに、守人と勇二の顔をためつすがめつ、見る。
そう、惚れた女に言われて信じない男は、いない。
「そ、そうなんだ。もちろん信じるよ」
明らかにホッとした顔の勇二。
それならいいやという、空気をかもしたその時。
「僕は嫌だっ、葛城の写真をみて変なことしてるヤツがいるなんて、嫌だっ。葛城が汚されてるみたいで、嫌だっ!」
一見、だだっ子のようだけど、勇二も初めて見る守人の激情に、驚いた。
「もうやめてくれっ、お願いだから。オートバイ代は僕たちが何とかする。バイトで、買うよ」
「僕たち?って、俺も、かな?」
「だいたい、勇二が焚き付けたんだろ?責任はA級戦犯だ」
まるで敗戦国に架せられた戦士のようだ。
「わ、わかった」
圧に、負けた。
「ありがとう。ふたりとも」
ぎゅっと唇を引き締めた。そうでないと、泣きそうだったからだ。人は優しいんだ。そう思った。
帰り際、出口で美凪がきびすを返すと、レジにむかう。
「どうした?お釣り間違いかな?」
そう言う勇二に、守人が指し示した、ドアガラスの貼り紙。
〈アルバイト・パート募集〉
「なるほどね」
ふたりは顔を見合わせ、笑った。




