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【書籍化】婚約破棄のその先に~捨てられ令嬢、王子様に溺愛(演技)される~【3巻10/10刊行】  作者: 森川茉里
後日談

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結婚式のその後で

R15

「……きて、起きて下さい、エステル様」


 ゆさゆさと揺すぶられて、エステルはぱちりと目を開けた。


「やだ、私、寝てた……?」


 慌てて体を起こすと、いたわるような眼差しのリアと目が合った。


「お疲れだったんですね。お手入れは終わりましたよ」


 ふふっと微笑みながらメイが手渡してきたのは純白のナイトウェアだった。


 長かった結婚式にまつわるあれこれの予定をどうにか終え、アークレインの妻になって初めて迎える夜ということで、隅々まで磨き抜かれている間に意識が飛んでいた。


 女官たちが用意してくれたナイトウェアは、簡単に脱げてしまうけれど上品なデザインのものだ。

 これからアークレインと二人で夜を過ごすのだと思うとドキドキして体全体が熱を帯びた。


 婚約者として、恋人として、何度も体を重ねて来たけれど今夜は特別だ。


 避妊の為につけていた腕輪はもうサーシェスに返却している。つまり今日からは子供を作るための夜が始まるのだ。


 どうしよう。想像するだけでお腹の奥がむずむずする。

 いつからエステルはこんなにはしたない体になったんだろう。

 はあ、と物憂げな息をつくのと、マッサージを受けていた脱衣所の扉が開くのは同時だった。


「アーク様!?」


 侵入してきたのはナイトウェア姿のアークレインで、エステルはギョッと目を見開く。

 アークレインが事前の断りなくエステルの私室側に入ってきたのは初めてだ。

 突然の事に戸惑っている間にアークレインは距離を詰めてきた。


「身支度が終わったら呼んで欲しいとメイに伝えておいたんだ。晩餐からここに戻る途中の歩き方がちょっとおかしかったから。足は大丈夫? 靴が合わなかった?」


「……結婚式の時の靴が、いつも履いているものより高かったからだと思います」


 気合いで美しい姿勢を維持するよう努力していたつもりだったのだが……見抜かれたということは修行不足だ。エステルは肩を落とした。


「やっぱり。おいで。運んであげる」


 そう言いながらアークレインはこちらに手を伸ばしてきた。


 メイは目を逸らして見ていないふりをしているし、リアは期待に満ち溢れた目をこちらに向けている。

 少し恥ずかしいけれど、エステルも早くアークレインと触れ合いたい。

 欲望のままに屈んだアークレインの首に手を回すと、横抱きに抱えあげられた。


「エステルは貰っていくよ」


 メイたちに声をかけると、アークレインはエステルを抱えたまま歩き出した。

 しっかりとした足取りに逞しさを感じ、エステルはアークレインに甘えるように体を寄せる。


 心の中で反芻するのは、パレードの後、宮殿に戻ってから行われた地下の『神殿』での儀式だ。


 あれは儀式や祭祀というよりは、『登録』といった方がいいのかもしれない。それはサーシェスと一緒に夫婦で地下に降りてから行われた。


 『鍵』で祭壇を起動させた後、王権の象徴(レガリア)の一つである羽根筆(クイル)をサーシェスから渡され、祭壇上部に浮かんだ半透明の文字盤のようなものに、アークレインと一緒にマナを込めて名前を書くよう命じられた。


 サーシェスによると、それは王統を後世に繋ぐ者であることを『礎の石碑』に刻み込む儀式なのだという。

 記入が終わり、アークレインがサーシェスの代わりに『鍵』にマナを注ぐと、『礎の石碑』が銀色に発光して大量のマナを浴びた。


 あの儀式も含め、今日一日の出来事はまるで夢の中の出来事みたいに現実味がなかった。


 エステルは、至近距離にあるアークレインの顔をじっと見つめた。

 この人が自分の夫になった事がまだ信じられない。




 いつの間にやら共通の寝室に着いていた。

 アークレインはエステルを丁重な手つきでベッドに座らせる。

 そしてその場に片膝を突いて跪くと、エステルの足首を持ち上げた。


「赤くなってる」


 指摘されたのは爪先の赤みだ。


「いつもよりヒールが高かったので……圧迫されたんだと思います」


 アークレインはエステルの足を一旦下ろすと、立ち上がってベッドサイドのテーブルに置かれていたボウルにお湯を注いで持ってきた。そしてパイル生地のリネンを浸して絞り、まずはエステルの右足を包み込む。


「アーク様にこんな事をさせるなんて……」

「私がやりたいんだ。痛かったら教えて」

「……気持ちいいです」


 リネン越しのマッサージはとても気持ちよかった。

 右足の次は左足を、労わるように優しく触れられる。

 気持ちいいが王太子殿下を跪かせるなんて、いけない事をしている気分になった。


 一通りマッサージが終わると、アークレインはエステルの左足を持ち上げ、足の甲に口付けてきた。


「……っ! やだ、駄目です」

「……どうして?」

「あ、足にキスするなんて……!」

「駄目? 私の女王様(マイ・クイーン)


 妖艶な笑みを向けられ、エステルはその色香に呑まれた。

 不埒な口付けが膝に、そして太ももに――。


 それは、長く濃密な夜を予感させるものだった。

6/17続きを某所に追加しました。


また同時に新作も投稿しておりますので、もしよろしければ覗いてみてください。


雑草聖女の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣国に亡命します~

https://ncode.syosetu.com/n6416hr/

(2022.7.19追記 上記作品の書籍・コミカライズ化が決まりました)



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― 新着の感想 ―
[一言] 雑草を読んで 好き。もっと読みたい♪ と思い、婚約破棄を読ませて頂きました。森川さんが書かれるお話し好きです。もっと読ませて頂けると嬉しいです。『続きは某所に・・』とありましたが・・どこで…
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