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第十二章:見えない真実

-1-


「明人君!」

僕が両手を暖めるようにして温かい紅茶の入ったカップを

持っていると入間先輩が上から声をかけてきた。


「待った?」


「あ、いえ…今さっき来たところだから…」

そう言ってニコリと微笑むと向かいの椅子に座るように促した。


季節は春。

僕はこの春で小学六年生。

桜は散り、新緑が芽吹く心地の良い季節を迎え

僕の進級と同時に入間先輩も中学3年生になっていた。

それはつまり何を意味するかと言うと…。


「そうそう、この前教えてくれたパソコンのゲーム面白かったよ!!」

「どうでした?」

「三日かけてクリアしたよ。いやー…ラスボスが無駄に強くて

焦ったよ。ストーリーも泣けるね。ラストで思わず涙腺緩んじゃったよ。」

「楽しんでもらえてよかった」

「体調どう?」

「うん、最近は大分…。ただちょっと眠れない事があるけど」

「寝不足?」

「妙な夢を見るんです…」

「夢?あ…ちょっと待って。僕も何か頼んでくるわ。」

そう言って片手で拝むようなポーズをすると一度席を立って

カウンターのほうに向かっていた。


このコーヒーショップで僕は入間先輩と待ち合わせて

色々と話しをすることが多かった。


お店は僕の住んでいる家の最寄り駅にある。


僕の事を気遣って入間先輩はわざわざ電車を乗り継いでここまで

来てくれた。


普段はメールでのやり取りが多いがたまにこうして会って

お茶をしている。


今、入間先輩にも少し話したが最近妙な夢ばかり見る。

それに昨夜見た夢は今まで見た中で一番強烈だった。


そう…。


僕が死ぬ夢…。


「お待たせ。」


小さなトレーにアイスティーを載せて入間先輩がやって来た。


「あれ、明人君ホット飲んでるの?寒い?」

「ううん…でもなんとなく温かいのが飲みたくって…」

「ま、暑くても寒くても程よく温かい飲み物のほうが胃を刺激しないって

言うしね。僕は刺激大好きだから冷たいのを頼んだけどさ」

そう言ってお得意のウィンクをして見せた。


カラカランとストローでグラスの氷を回して見せる。

その音がなんとも心地よく耳に響いた。


「えっと何の話だっけ…。あ、そうそう、

夢見が悪いって?」


「あ…はい…そうなんです…。」


「どんな夢を見るの?」

ストローでアイスティーを一口吸い上げながら

入間先輩は上目遣いで僕を見た。


「僕とか…お兄ちゃんとか…友達とか、入間先輩も夢に出てくるんです。

それはいいんですけど、何か様子が変なんです。」

「変、というと?」

「場所っていうか…僕が今住んでいる場所じゃないところに

僕らがいて、名前も違うんです。

顔は僕とか入間先輩なのに夢の中では違う名前で呼ばれてるんです。

それで…

毎日毎日その夢がつながっていてストーリーになっていて…」

少し息が切れる。


するとその様子をみた入間先輩がクスリと笑って見せた。

「そんなに急いで話さなくても大丈夫だよ。

ゆっくり聞いてるから。まだ時間もあることだしゆっくり喋ってご覧?」


「…はい…。

あの、それで…夢がつながってて…昨日の夜僕が死んじゃうんです…。

たぶんこれでもうこの夢は終わるんだとは思うんですけど…

なんか不思議というか…」


「そういえばさ、メールで幻覚が見えるって話してたでしょ?

それはどうした?」

「え?ああ…はい、

この前ピアノを弾いてるときに気付いたんですけど…

この…左手小指に指輪が…その…

見えるんです。

はめた覚えはないんですけど…お母さんとかお父さんに話したら

どうも二人には見えてなくて少し休めって言われてそれで終わりなんですけど、

でも…、でも僕にははっきり指輪が見えるんです…。

僕…どうにかなっちゃったのかな…って…。

あまりにも僕が指輪の話しをするから親がとうとう病院に行けって言い出すし…。

でも…僕は嘘はついてないんです…。」


そう言ってすがるように入間先輩の顔を見つめた。


「ふうん。綺麗な指輪だね。透明の石もおしゃれだし」


「え?!

な…!!

い、入間先輩には見えるんですか?!」

驚いて思わず席を勢い良く立ち上がった。


周りの客がそんな僕を注目する。


慌てて顔を俯かせゆっくりと席に着いた。


「あの…」

もう一度上目遣いで入間先輩を見る。


「リィーン」

「え?」

「夢の中で明人君、そう呼ばれてるでしょ」


「ええ?!

な…んで…だってまだ僕夢の話ししてないのに…

何で分るんですか?!」


「僕がアキレスだから、って言えば分る?」


思わず絶句する。


言葉が見つからない。


これは夢の続きなのではと疑ってみたくなった。

だがしかし、夢にしてはリアルすぎる。


紅茶の甘い香り、ティーカップの温かい温度、僕の少し早く刻む鼓動と呼吸

そして目の前の入間先輩…。


僕が何も言えずに黙り込んでいると入間先輩はまたにこりと微笑んで見せた。


「やっとか…。長かったなぁ…。僕が明人君に覚醒の問いをかけたのが…

たしか去年の夏だったかな…。

1年近くか…やっぱり僕じゃ力が弱くて即効性ないのかな?」

入間先輩が何やらぶつぶつと呟いているがなんの事か僕には

さっぱり分らなかった。


「あの…。」


すると入間先輩はニコリと微笑んで僕の目を真っ直ぐに見つめて見せた。

「僕はイネ=ノ様の側近アキレス。

去年の夏、定期演奏会で初めて明人君と会ったときに確信したんだ。

明人君がリィーンだって。

だから覚醒してもらいたくて覚醒の問いを明人君にかけた。」


「……覚醒の…問い?」


「明人君が覚醒する、魔法…かな?

その魔法がちゃんと効いている印にほら、その指輪が

左手小指に現われるようになってるんだ。

随分と時間は掛かったけど良かった良かった。

やっとこれでリィーンの話しができるね」


入間先輩が何を話しているのか全く付いていけなかった。


それに…なんだか胃の辺りが気持ち悪い。


「明人君…大丈夫?」

僕が下を俯いていると心配げに僕の顔を覗きこんできた。


「…はい…あの…よくわからないんですけど…

なんで入間先輩が僕の見た夢の内容というか

登場人物の名前を知ってるんですか?」


すると入間先輩は少し難しい顔をして見せた。


「一言じゃ上手く言えないなぁ…。

あ、明人君はどこまで記憶を覚醒したのか教えてくれないかい?

つまりどこまでどんな夢をみたかって事なんだけど…。」


そう言われて脳裏に鮮明に蘇るあの惨たらしい光景。


「うっ…」

思わず口に手を当てる。

気持ち悪い…。


「あ……そうか…ごめん…

なんか辛いこと思い出させちゃったみたい?

ごめん、ごめん。

…大丈夫?」


入間先輩が体をテーブルに乗り出すと片手で

僕の背中をさすって見せた。


「…だい…じょうぶです…」


背中をさすってもらっていくらか体が楽になっていくのがわかった。


しかし…気が付くと僕は大粒の涙を瞳からこぼしていることに気が付く。


「明人君…」


「…ごめんなさい…。」

慌てて袖で涙をぬぐう。


「ごめん、ごめん。

本当にごめん。

僕もちょっと焦りすぎたね。

良かれと思ってしたことではあるんだけど

もう少しゆっくり時間を掛けた方がいいみたいだね。


じゃあ…とりあえず今日はこの話はこれでおしまいにしようか。」

「待ってください!!」

思わず無意識に僕はそう言葉に出していた。


「待ってください…あの…

指輪の話しを信じてくれたのは入間先輩が初めてなんです。

親や友達、病院の先生に話しても誰も信じてくれなかったのに…。

だから入間先輩が見えるって言ってくれて凄く嬉しかったです。」


「本当?」


「はい…ちゃんと透明の石がって言ってくれましたよね。

見えなかったらこの指輪に石が付いているかさえも分らないし…。

だから入間先輩にはちゃんとこの指輪が見えているって事ですよね」


そう言って左手を入間先輩に見えるように差し出してみせる。


すると入間先輩は優しくそっと笑みを作って見せた。


「うん、大丈夫。ちゃんと見えてるよ。」


「良かった…。

それだけでも僕、凄く嬉しいです。」


ずっとうそつき呼ばわりされていた心のしこりが

すっと溶けていくような、そんな気持の良い感覚を覚えた。


「リィーンとアキレスの話しは追々ゆっくりしようか。

とりあえず、明人君はうそつきじゃないって事は証明できたでしょ?

あ、ただねその指輪、見える人にしか見えない魔法の指輪なんだ。」


「え?」


「それも少しずつゆっくり話して行こうね。

他の人にはその指輪は見えてないんだ。

僕と明人君にしか見えない特別な魔法の指輪なんだよ」


「……魔法…の指輪…?」


-2-


その後、入間先輩とはいつもどおりの取り留めのない会話をした後

別れた。


そして一人の帰り道。


ゆっくりと考える。


とにかく不思議な出来事だ。


指輪の話しもそうだが、

僕にしか分らないはずの夢の話しを入間先輩が知っているという事だ。

それに入間先輩は自分の事をアキレスと名乗った。


アキレス。


夢の中でも出てきた。


入間先輩みたいにとても頼りになる、

僕にとってのもう一人のお兄さんみたいなそんな存在…。


一体どういう事なんだろうか…。

覚醒とかなんとか言ってたけど…それが良く理解できなかった。


それに…そもそもあの夢は一体なんなんだろうか…。


入間先輩も知っていて、なんとなくリアルで

一瞬どちらが現実かさえ分らなくなるような生々しい夢の数々。


よくわからない…。


そんな事を考えているうちに自宅へとたどり着く。


玄関のドアを開けた瞬間にピアノの優しい音色に包まれた。


音楽室では母がレッスン中のようだ。


ただいまも言わず無言のまま靴を脱ぎ玄関を上がると

階段を上る。


自室に向かおうとした足がぴたりと止まり、

角度をかえ別の部屋に進む。


お兄ちゃんの部屋だ。


風を通すためドアと窓は開けっ放しになっていて

白いレースのカーテンが優しく風にそよいでいた。


お兄ちゃんの部屋の入り口に立つと、

ゆっくりと部屋の中を見渡す。


誰もいない、

お兄ちゃんの部屋。


ずっと…

ずっと

主不在のこの部屋に僕は幾度その幻想を抱いたことだろう…。


とうとう2年の歳月が経とうとしている。


指輪や夢の話しなんて正直どうでも良かった。


ただ…お兄ちゃんさえ帰ってきてくれさえすれば…。

そうすれば…。



そうすれば…

僕の全てが報われるのに。


そう…


お兄ちゃんさえ帰ってきてくれさえすれば…。


帰ってきてくれさえすれば…。


その後暫く、僕はかなり荒れていたように思う。

ただあまり記憶がない。


入間先輩と取り合う連絡の回数もぐっと減ったし

学校の出席日数も減った。


その代わり、無言のまま増えていったのは…


この、


手首の傷だけ…。


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