②
ライオンと白姫と言われる私たちには、みんなは知らない約束で結ばれるだけの関係。それも私たち2人が交わした約束ではない。とある者とそれぞれがした約束だ。
「・・・・・・萌」
「何・・・・・・あ、預かるね」
今じゃ私たちの間には交わす言葉は少ないが言いたいことは理解出来る。
彼だってわかってるからこそ特に何も言わず不機嫌そうに呼びかけるだけなのだ。
「さすが幼なじみね、呼ばれただけで理解出来るなんて」
そう、良き理解者といったらいいのか。
しかし、わたしたちは理解者と言うだけでなく、先程から何回も言うが、『約束』で成り立っている関係。決して幼なじみだからではない。
「・・・・・・うん、まぁね」
歯切れの悪い返事で誤魔化す。
なんたって私は姫。みんなの姫。決してライオンのものでは無い。
そもそも何度も述べるが私たちの関係の約束というのは、光稀くんの双子の兄 滉稀くんとの約束。彼は光稀くんとは違い愛想がよかった。よく笑うしまるで光稀くんとは正反対のような・・・。
正反対な彼はよくケンカする光稀くんを止めに入るものとして有名だった。
滉稀は光稀の理解者で、私の憧れの人だった。
いつも手が先に出てしまう光稀のことを押させ込めるものだった。
私にとっては命の恩人に近い。光稀に何かと絡まれていた私を滉稀くんはいつも助けてくれていた。
1度滉稀くんに「光稀くんがなんで絡んでくるんだろう」と相談したことがあった。すると彼は笑いながら答えた。
『そりゃさ、萌ちゃんのことが好きだからだと思うよ』
その言葉にそんときはピンとこなかった。今となれば何となくわかる。
それはさておき滉稀がいなくなったのは中学に上がる前。病気で進行が早く、見つかった時にはほとんど手の施しようがなかった。
だからもう滉稀はいない。死の間際に彼は私と光稀にそれぞれ約束をさせた。それが現在の『ライオンと白姫』と呼ばれる理由に繋がっている。
あまりうごかなくなっだから身体で彼はそっと私の手をとり、「お願いがある」と言ってきたのだった。
『・・・・・・萌ちゃん、俺が死んだら光稀の喧嘩止めるのお願いする』
『・・・・・・え、無理だよ・・・・・・だって光稀くん私の言うこと聞かないよ』
『ううん。聞くよ大丈夫。光稀にも話すから。約束させるから。だから萌ちゃん、止めてあげて? あいつはね、萌ちゃんのこと好きなだけだから。好きな子は虐めたいだけだよ』
そんなふうに言っていた。でも未だにみづきからの好きな感情は全く伝わってくる気はしないけど。
光稀も滉稀くんと約束したらしいことは確かで、滉稀くんの言う通り彼が亡くなってからは私の言うことを聞いてくれるようになった光稀。
光稀本人より聞いた話では、「脅された」なんて言っていた。
そんなこんなで、私たちは見えない絆で繋がっているのだ。たぶんこの関係は滉稀くんがいなかったら成り立っていない。
きっと関わりすらなかったかもしれない。
「キャー!! 姫! 白姫!」
思い出にひたっていると廊下から叫び声がした。私を呼ぶ声。理由は聞かずとも分かる。
私は席から立ち廊下へ出た。だが廊下には人だかりはない。
「・・・・・・? ねぇ、光稀くんはどこ?」
「あ、白姫! C組だよ!」
廊下をかけて来た生徒に声をかけると、居場所を教えてくれた。多分彼は私を呼びに来たのだ。
言われた通り私たちのクラスから2つ離れた教室に歩く。よく見れば教室の前に人だかり。
「・・・・・・ちょっとごめんね。通して」
「・・・・・・あ、姫! どうぞ!」
野次馬に声をかければ即座にどいてくれ彼らは止めるのを期待している。
教室へ足を踏み入れると、何人かの倒された男どもとライオンを前にして怯える男。彼は胸ぐらを掴んでいた。
「・・・・・・光稀くん。ストップ」
「・・・・・・・・・・・・」
声をかければピタりと動きを止めて掴んでいた胸ぐらもスルりと解く。凍りつきそうな目つきでこちらを見る。いつになってもこの目つきは私は怖い。
その目つきで見たあとはいつも通り彼は逃亡した。それを見ると私はそっと息を吐く。
「白姫様ありがとうございます、助かりました」
「・・・・・・・・・? あ。ねぇ、聞いてもいい?」
「・・・・・・? はい」
この胸ぐらを掴まれていた男に礼を言われ顔をそちらに向けて気がついた。前にも1度光稀にボコされかけた人だと。
「あのさ、前にも1度光稀くんにボコされかけてたよね? あん時も思ったけど何が原因?」
「・・・・・・・・・え、なんで覚えて・・・・・・、っ・・・それはその、白姫様が、その、、」
彼は言葉に詰まった。どうやら自分が原因ということに理解する。
「・・・・・・? 私が何」
「・・・・・・あの! 俺、し、白咲さんのことが好きです! それでその、白咲さんの話してたんです。あの時も今日もここにいるこいつらと。そしたらいきなりライオンが乱入してその・・・・・・」
口ごもった男の告白に、全ての真相を聞かずとも理解する。
「・・・・・・ふーん。ありがとう。わかった理解したよ。光稀くんが怒った原因も」
「・・・え? 白姫様? どういうことですか」
「それは秘密。でも、これだけは言っとくね。あなたの告白の答えはごめんなさい。それから光稀くんの前で・・・・・・いや、彼の行動エリア内での私の話は禁句だからよろしくね? 地雷だよ? ここにいるみんなも、覚えておいてね」
そう言って私は不敵に笑ってみせる。
混乱する周りを他所に、私は彼の待ついつもの場所へ急いだ。あまり待たせると彼は不機嫌になるから。
「・・・・・・・・・おせぇ」
「ごめんごめん、ちょっと忠告してきたの」
「・・・・・・なんのだよ。俺を待たしておいて」
嫉妬かな? 滉稀くんが見てたら嫉妬だよって言いそうだな。正直に話しておこうかな。
「んー? 何って『光稀の行動エリア内での私の話は禁句』って忠告してきたの」
「・・・・・・何言ってんの。なんでてめぇが出てくるんだよ」
「・・・・・・そっちこそ何言ってんの? そんな照れた顔でいったってバレバレだよ? それにさっきの人に聞いたし。『白咲さんの話してたら・・・』って。ごまかせると思ってる?」
口の悪い彼ももっともなことを言ったらさらに照れて喋んなくなるのも知ってる。
「・・・・・・うっせぇよばーか」
「ふふふ。光稀は私が好きなんだものね? 滉稀くんが前に言ってたし」
「・・・・・・んなわけ、あるか バカ」
否定してるけど、その顔は説得力ゼロですよ、光稀くん。まぁ、でもこれ以上は突っ込まないであげとこうかな?
だって、光稀はきっとずっと私に逆らえないし、私とずっと一緒だから。約束が永遠を繋ぐ。