①
「―――キャー!! 白姫! 白姫呼んで!」
廊下で叫び声が響いた。
その声で周囲に居たもの、近くのクラスのものが一気に慌て連絡のように『白姫!』と言う声があちこちへ伝わる。直ぐに“白姫”と呼ばれるもののクラスにも伝達がいった。ただしかし呼ばれた本人は気がついていない。
「・・・・・・白姫! 白咲! 白咲 萌! ライオンが暴れてる、止めて」
「・・・・・・・・・・・・え? あぁ」
教室の隅っこで本を読み話を聞いていなかった、白姫と呼ばれる彼女。近くで呼ばれ、初めて周りの声に気がつく。「白姫!」と廊下の方から聞こえる。それだけで彼女は起きてることに察しがついた彼女は本を閉じ立ち上がった。呼ばれる場所に急ぐ。
一方で騒ぎの元は相手の胸ぐら掴んでイカつい目つきで睨めつけていた。人を殺せそうな突き刺さる視線に周囲の顔は青ざめた。
「・・・・・・お、おれは! 素直に思ったことを言っただけだ!」
青ざめた周囲とは裏腹に声を荒らげた。しかし逆鱗にでも触れたのか、睨みをきかすライオンが手がスっと上がった。それにはさすがの胸ぐら掴まれる男の顔は蛇に噛まれたカエルのごとく恐怖に怯えだし冷や汗を大量に流した。
周囲も“やばい”と誰もが思い目を固く閉じかけたその時だった。
「―――光稀くん」
ライオンの名を呼ぶ声。声のする方を向き見に飛び込む人物を見て一同が胸を撫で下ろす。
白姫はスタスタと人の集まる場所へ近づくと落ち着いた声で名前を呟いていた。その大きくもない声に反応し手が止まる。まさに救世主様。
声の主が近くに来たのが分かると、ライオンと呼ばれる光稀は乱暴に掴んでいた男を床に投げるように離す。
「・・・・・・光稀くんがごめんね? 大丈夫?」
「あ、はい! 大丈夫です、助けていただきありがとうございます!」
救世主様がライオンとの喧嘩相手を心配そうに声をかけた。光稀にとっては悪魔だが、周囲にとっては天使の微笑みが向けられる。
するとサッと距離をとり礼を言うと慌てて離れていった。
「・・・・・・光稀くん、ケンカはダメだよっいつも言ってるでしょ」
「・・・・・・・・・うるせぇ! バカ」
鋭い目つきと不機嫌な顔をして吐きしてるようにして彼も去っていく。
「白姫、ありがとう〜。怖かったよ」
「・・・・・・うん。いつもごめんね光稀くんが」
緊張の解れた周囲の人達が、白姫に声をかける。彼女は光稀の変わりに周りに謝った。愛想笑い浮かべながら。
謝るとライオンを追って、走り出す。少し抜けてるとこのある萌は道に迷いながら遠回りしながら彼の元へたどり着く。
「・・・・・・・・・おせぇ。ばーか」
「ごめんね、迷っちゃって」
「・・・・・・アホかよ? どうしたら間違うんだよ」
口が悪い彼に怒られる。
喧嘩後の反省場所なのか、屋上で一人で彼は来るのだった。そしていつだって萌を待っている。迎えにくるまでそこにいるのだ。
「うん。それでその、光稀くん今度は何があったの? 原因は?」
「・・・・・・萌には教えねぇよ」
「・・・・・・ふーん、何度もいいけど喧嘩はしないこと!」
原因を聞き出そうものなら毎度ハッキリしない言葉を返される。だが、問い詰めることはしないが、彼女は理由は気がついていた。ただ、お説教して終了するだけ。
「・・・・・・あぁ」
短い返事だけしたがしないと言う自信はない。萌も返事だけなのはもちろんわかっている。
「・・・・・・萌、また本読んでた?」
「あっ、うん」
「・・・・・・いつも邪魔してごめんな」
実は優しい彼は萌にはいつだって口は悪くても素直に喋る。
「大丈夫だよ・・・・・・ふふっ・・・・・・光稀くんいつもありがとうね」
礼を言われるだけでいつも赤面しているライオンを笑う姫。
「・・・・・・・・・笑うな」
「ハハッ・・・だってこんな可愛い光稀くん見れる私の特権」
「・・・・・・おい、てめぇ 殴られてぇか」
殴るとか物騒に言うが彼が彼女を意図的に殴ったことは1度もない。相変わらず口は悪いが照れ屋でただ言っているだけ。
「・・・・・・ううん。光稀くんはそんな事しないよ? 落ち着いた? 光稀くん、そろそろチャイムがなるよ、戻ろっか」
「・・・・・・あ? なんで萌と戻んなきゃなんねぇんだよ」
「だって同じクラスだし? また問題起こしそう。あと・・・・・・私に逆らっていいと思ってる?」
悪魔の微笑みが向けられていた。白姫なんて言われている萌は姫というより小悪魔だと光稀だけは思っていた。いつも簡単に丸め込まれてしまう。彼には逆らうことができない理由があった。しかしそれはまだ彼らだけの秘密。