08. 公園の2人
【side:マコ】
宿題のレポートの枚数を確かめてファイルに入れれば、見計ったようにスマホの通知が鳴った。
カナから『移動中』とブサ可愛い犬のスタンプが送られている。それに『りょ』のスタンプを返した。
とりあえず、お湯を沸かそう。
今日はコーヒーの気分。カップを2個出して、コーヒーはちょっとリッチにドリップフォンにしよう。あ、キリマンジャロしかないや。
先週、母から貰った美味しい羊羹もあったはず。一口タイプって種類あるし便利よね。
一通り準備を終えたが、まだ来ない。意外に遅い。何かあったかと、読んでいた文庫本に栞を挟んだ瞬間にチャイムが連打された。
「マコちゃん!マコちゃん!一大事!エマージェンシーよ!早く開けてーー!」
切羽詰まった声でドアが連打される。これはトイレか!?と、大急ぎで解錠すれば勢いよくドアが開いて、カナが乱入してきた。
「ありがと!」
トイレに駆け込むかと思ったカナは、靴を脱ぎ捨てて私の横を駆け抜けて行った。どこに行くのかと思えば、一直線にベランダへの向かい、勝手にガラス戸を開けている。
その後を追って、ベランダから身を乗り出すカナの後ろ姿に声をかける。
「自殺でもする気?」
「マコちゃん、あそこ!あそこ見て!」
カナが指差す先には小さな公園があり、小学生ぐらいの子供たちが走り回っている。
「ついにショタに目覚めたの?」
「違うわよ。ショタも範囲内だーけーど!今は、あそこ!あそこよ、あのベンチ!」
突き刺す様に何度も指差す方向には、学ランの男の子がベンチに二人で座っている。
100mぐらい先なので顔はハッキリとは見えない。
時折戯れてるような感じからクラスメイトか部活の友達かな。
青春だなー。なんてババくさい事を考えていると、隣でカナが鼻息荒く凝視していた。
ヤな予感。
「ヤバイ。ヤバす。なにあのカップル。可愛すぎる。リア充DKのアオハルが尊い」
「カップルって……」
男の子同士だよ。と言いかけて、カナの性癖を思い出した。
好みの男性を見つけたら即座にかけ算する奴だった。親友と書いて「彼氏」と訳す女だ。
「来る途中で見かけてね。ピンと来たのっ!あれは……出来てるってね」
ギラつく目でドヤ顔をキメんな。
何言ってんだコイツ。と視線を送るがまるで気にしてない。暴走中のカナは制御不能だ。
「あのベンチの後ろを通った時に運命を感じたのよ。正に天啓!神が彼らを見守れと私に伝えているに違いないわ」
その神は腐海に君臨するBL好きに違いない。
そして、カナは神様から天命を受けて冒険する少年漫画に夢中らしい。
「純朴そうな受に、ちょっとヤンチャな攻。漏れ聞こえた『今度(二人っきりで)遊びに行こうぜ』って攻の言葉に、『うん。でも……(二人っきりなんて恥ずかしいよ)』ってやりとりにニヤけたね。『いいだろ。実テ終わったお祝いにさ』って、ヤンチャ君のお家でらぶらぶですか?テスト明けの開放感でイチャつくのか!ヤんのか!食う気満々かよっ!ガッつけヤンチャ攻!ご馳走様です。もう、このまま隠れて録音すべきかマジで悩んだわ」
「いや、それ、犯罪だから」
「不審者にはなりたくないから急いでマコちゃんち駆け上がって、二人の恋の行く末を見守ろうと思って☆」
サムズアップしても発言がアウトです。
戻ってこーい。それは君の妄想だ。
「十分不審者。追放案件。お巡りさんコイツです」
「見守ってるだけよぉ。やだなぁ、愛の守護者ってやつ?」
我欲の守護者では?
「気が済んだら中に入りなよ?コーヒー淹れるから」
「分かった!ありが……あっ!」
突然の声にビックリして、部屋に半分入ってた足が止まる。
カナは両手で口を押さえて目をキラキラと輝せていた。
「今、転びそうになったヤンチャ君を純朴くんが支えてあげてた。まさか、まさかの、純朴君×ヤンチャ君!?それともリバ?オーケーお姉さんイケる口よ。昼は受だけど夜は危険な攻になる二面性持ちな純朴君。夜は娼婦?それとも純情処女?穏やか純朴君に組み敷かれるヤンチャ君とか美味しすぎる。ギャップ×ギャップとか好きしかない。ヤバイ、しゅき。いいぞDKもっとやれ!」
早口でまくしたてながら、スマホで連写するカナを見ながら通報すべきか悩んだ。流出しなければオーケー?いやいや、僅かな良心がアウトだと叫んでる。
とりあえず、コーヒーを飲むか。対策はその後考えよう。
鳴り止まないシャッター音には聞こえないフリをして部屋へと戻る。男子たちごめん、私に奴は止められない。
この後、男の子たちが公園を去るまで20分近くカナはベランダに、居続けていた。もちろん、私は先にコーヒーを飲んでいた。
マコ「画像、消しときなよ?」
カナ「大丈夫っ!ほら、どう見ても良くある公園の風景写真だから!」