07. 一狩り行こうぜ
【side:マコ】
震える手でボタンを押せば、圧倒的解像度の密林がテレビ画面いっぱいに広がる。
緑の葉が揺れ動き、開けた先に小さな集落。立ち登る煙と賑やかな喧騒。異国風情漂う穏やかな集落の中を走り回る子どもたちとすれ違うのは、背丈と同じ程の大剣を背負った男。そんな彼と気軽に挨拶を交わすのは白いボアの飾りがついた革鎧を身につけた筋肉隆々の女戦士。その足元を飛び跳ねる猫と犬。
場面が変わり、密林の中を必死に走る女性。振り向くと巨大な怪物が襲いかかろうとしている。必死に逃げるが追いつかれそうになった時、新たな怪物が現れて怪物同士で戦い始めた。その隙に逃げる女性。
戦っている怪物同士の更に奥。ズズっと移動する巨大なヘビのような怪物。飛来する竜たち。疾走する黒い怪物。鞭の様な尻尾がブンっと振り回され、画面いっぱいにタイトル文字が叩きつけられる。
「っかっこいーーぃ」
ヤバイ。オープニングすごいイイ!
家庭用ゲーム機の新機種では初の狩猟ゲーム。
旧ゲーム機ではかなりやり込んだ今作は、新モンスターが増え、新しい武器やスキルも増えた。武具もカッコいいが、狩りを手伝ってくれるバディモンスターがデラかわいい。前作と同じ猫系もいいけど、犬系も可愛い。
「さあ!狩りに行くぜー!」
「おー!!」
金曜に泊まりに来てくれたカナと、今晩は狩って狩って狩まくる所存。
目標はオンラインクエストのランク5までいきたい。
「カナ。今日は寝かせないよ?」
「いやん。熱い夜を過ごしましょうね、ダーリン♡」
水分と食糧を準備して、いざオンライン開始。
キャラメイキングは既に終えている。カナが来るまでにソロプレイも数時間やっているので、装備は少しだけマシ。
「マコちゃん太刀だぁ。カッコいいよね」
「カナは、ハンマーなんだ」
「そう!溜めてぶん回して殴る!」
「攻撃力半端ないもんね。でも、機動力と攻撃力を考えるとしばらくは太刀だな」
ランスもいいな。新武器の鎖鎌ってのも興味ある。もう忍者シリーズ作れと言われてるようなもんだろ、アレ。
いや、その前に鎧竜シリーズを揃えて、雷電竜を狩らないと忍者シリーズが作れない。
あぁ、やる事が多すぎて楽しい。血湧き肉躍るってこんな感じかな。
「よっしゃ!逆鱗出た!」
「私も♪これで装備揃うね」
「レア素材出たからバディちゃん装備も揃う〜♪カナ、ありがとう!」
「いやぁん。私も美味しい思いしてるからお互いさまよん」
バディの激かわ装備にニマニマしながら、次のクエストの為に準備を始める。
装備にお守り付けて、ご飯を食べてバフ付けないとね。
「ふごっ!」
「え?カナ?どしたの?」
「飯屋と加工屋の恋が発覚したよ!」
「………は?」
え?狩猟ゲームのどこにBL要素が?
「飯屋の主人が、加工屋くんが熱中すると飯を食べないって心配してるの。オカン?オカンなの?そのうち加工屋まで行って手料理を食べさせる展開とみた」
「飯屋の主人ってどう見ても50〜60代じゃない?近所のおっちゃん目線でしょ」
「年上の包容力をバカにしちゃダメよ。気配りと美味しい手料理に落ちない男はいないわ!優しげな顔立ちのオカン気質なんて受け以外の何者でもない。年上女房。良き良き。加工屋に行って料理毎食われるがいいっ」
「加工屋、老け専かぁ。でも、加工屋も受けっぽい顔じゃない?」
「かわいい顔してるのに攻めっていうギャップが良いのよ。二面性もいいけど、あえて犬っぽくおねだりも有りだと思うわけよ。年下の甘えを最大限に利用せよ、加工屋!」
「じゃあ、よく加工屋の前にいるこの女性は当て馬?」
「マコちゃんナイス!いいね、当て馬女。性別と若さと積極性から来る意味のない自信。自分にない武器を持つ彼女の存在に、劣等感を覚える飯屋。んふふふ。いいスパイスになるわ。受けおじさまの苦悩ってトキメク〜」
「とりあえず、クエスト行こう?飯屋と加工屋の恋は見守ってやろうよ」
BL話も悪くないけど、そろそろ狩りに行きたい。私のやる気ゲージはまだまだ衰えていない。
目をキラキラ輝かせるカナの鼻息も荒い。こっちは別の意味でやる気ゲージが上がっている。
「クエストって言えば、卵採取の依頼書読んだ?」
「黒い怪鳥のやつ?」
「そうそう。あれ依頼者が飯屋だったっしょ?あの卵料理を食わせたい相手って加工屋じゃない?ぐはっ!公式が公認かよっ!萌える!」
「じゃあ、恋の成就の為にも取りに行こうか」
「おけおけ。うちらキューピッドだね」
「太刀とハンマーを持ったごついキューピッドだけどね」
クエスト受注を終えるとカナのスマホがピロリンと鳴った。
「あ、リカちゃんとみみさん仕事終わったから11時から参戦できるって」
「やった!グループトークしよう」
「おけおけ。んじゃ、その前にー」
「「一狩り行こうか!」」
さぁ。夜はこれからだ!
マコ「鍛冶屋のオヤジが飯屋の卵料理を褒めてる」
カナ「まさかの三角関係!?」