06. 書店
【side:マコ】
『サツキ書店××支店は3月25日を以って閉店致しました。永らくの御愛顧誠にありがとうございました』
久々にやってきた私を迎えてくれたのは、眠そうな店員でも的外れなポップでもなく、閉じたシャッターと一枚の貼り紙だった。
今日発売の新刊を買おうとやってきたら、店が無かった。
閉店して半月も経ってたなんて全然知らなかったわ。
この書店は駅前通りの横道にあり、しかも囲碁クラブと仏具店に挟まれているせいかお客が少なかった。多少偏った品揃えで、穴場的存在だったのに残念無念。合掌。
それよりも本をどこで買おう。
大手の本ならコンビニでも売っているけど、欲しいのは大きな書店や偏った品揃えじゃないと置いてないマイナー本なんだよね。
ここが閉店するのが分かってたならネットで注文したのに。
気分的に、今!今日!読みたい。どうしても今日読みたい。脳が読む気になってるんだから、買わない選択肢などありはしない。
そんなわけで、書店を検索する為にスマホを取り出した。
『おけおけ。今、駅前?すぐ行く。ミスドで待ってて』
書店、アニメグッズ関連ならなんでとござれという最強検索『カナ』は後20分ぐらいで召喚されてくれるという。
買いたい新刊はカナがオススメとして教えてくれた漫画だし、あの書店に連れて行ってくれたのもカナだった。なので、カナに付き合ってもらおう。
電話で書店が閉店したと伝えると驚いていた。2月も3月も忙しかったから知らなかったらしい。
ミスドでミートパイを食べ終えて、コーヒーをのんびり飲んでいるとカナがやってきた。
カフェオレとドーナッツを手に対面に座る。
「お待たせ。あそこ閉店したんだね。客いないから危惧してたけど、やっぱりかぁ」
「半月も知らなかった事にビックリよ」
「私も最近回れなかったからなぁ。で。『みな恋』の新刊だっけ?だったらさ、ちょっと遠いけど行きたいとこあるんだよね」
うひひと笑うカナに一抹の不安を覚えながらも、買わない選択肢のない私は頷くしかなかった。
向かうのは三駅先の書店。
同じ書店が近くにあったのになんでだろう?
「なんと!このお店、今月からからセルフレジが導入されたのでーす!」
ジャジャーンと効果音を口にしてから両手をヒラヒラと振って紹介したのは2階建の書店。
入り口にいた書店のお姉さんが驚いた後ににっこりと笑ってくれた。ご迷惑をおかけします、と心の中で謝っておく。
「へー…」
スーパーとかでは良く見るけど、書店にも適用したんだ。へー。
「マコちゃん!反応が薄いよっ。セルフレジって事は、店員さんに見せる事なく商品が買えるのよ」
「そりゃ、そうだろうね」
「って事はよ!?今まで恥ずかしかったアレやコレやあーんな商品まで羞恥心に駆られることなく買えちゃうのよ!!凄くない?すごいよね!」
……………。羞恥心があったのかと聞いてみたいが、やめておこう。
カナさんや。私は忘れてないよ。
表紙の3分の2が肌色の男の子たちで埋め尽くされたBL漫画や、筋肉兄貴が絡み合う薔薇雑誌を、敢えて男性店員さんのレジに持って行った貴女を。
反応を見ながらニヤニヤしていた貴女を。
ジョークショップで躊躇うような商品を涼しい顔で購入した挙句、弟にプレゼントしていた貴女を。
海外土産でもらったゴムを手にはめて「見てみてグーパーしても破れないっ」と友達に見せて笑っていた貴女を。
どの口が羞恥心と言うのか。
逆に、そんなカナが躊躇う商品というもの気になる。
購入する本と、もう一つの好奇心を満たす為に私はカナと書店へと入ったのだった。
マコ「アレ買うのが恥ずかしかったの?」
カナ「だって。今更あんな清純派少女漫画を買うなんて、恥ずかしいじゃない?」
マコ「カナの基準が分からない…」