01 ツナ素麺
【side:マコ】
ツナそうめん。
読んで字の如く、茹でた素麺にツナ缶のツナを混ぜた料理である。そのままだと味がぼやんとしとるので黒胡椒とかレモンをかけたりすると美味しい。
即席で出来た料理を前にして、友人のカナは酷く真面目な顔で口を開いた。
「さて、ここで問題です。ツナと素麺。どっちが攻めでどっちが受けだと思う?」
「……………は?」
金曜の昼下がり。お昼にはちょっと遅い2時。
手伝いに来て昼飯にツナ素麺を作ってやった相手は、素麺を箸でかき混ぜながらそんな事を聞いてきた。
どっちでもいいから食え。
「素麺の上にツナが乗るじゃない?私的に、素麺が受けでツナが攻めなのよ」
カナは混ぜていた手を止めて、素麺を数本取って持ち上げた。
そして、なぜか箸を開き素麺を皿に落とす。
……食べ物で遊んじゃいけません。
「でも、よ?これが逆ならば、ツナは積極的な受けに変わるのよっ」
まるで難解な公式を解いたかのようなドヤ顔だが、内容は腐ったかけ算である。
「懸命に奉仕するツナを優しく包み込む素麺。包容力のあるオカン攻めじゃない?遠慮しながらもぐいぐい食い込んでくるヘタレワンコ攻めでもいい。ああ、でも、こう混ぜると素麺の中にツナが入り込むんだから、やはり素麺は受けかしら」
再びかき混ぜるカナをチラリと見て、私はツナ素麺を口に入れて遠慮なく食べる。材料はカナの物だが調理は私だ。食べる権利は私にもある。なんの遠慮もいらない。
ズズッと食べる私の前でカナはなおもツナ素麺を混ぜている。いやもう、混ぜすぎだ。
食え。
「白い肌の素麺を己の色で染めようとする日焼けしたツナ。……程よいオイル…そうか、ツナは筋肉マッチョ…。筋肉受けも少なからず受け入れられるようになったけど、華奢な素麺はやはり受けになるべきだと思わない?」
ズルズルと食べ進めた私の皿はほぼ空である、対して、ぶつぶつと考察しているカナの皿は少しも減っていない。
いいから食え。
「どっちでもいいけど、ツナ素麺に突っ込む箸が攻めで良くない?」
私の言葉にカナが勢いよく顔を上げる。
その目は大きく見開かれ、驚きに口が半開きになっていた。
大袈裟すぎる反応に、私の方が驚いた。
「そうね!!ツナ素麺の中に遠慮なく突っ込んでくる箸がいたわ。ヤバイ、3P最高萌。攻めのはずのツナが素麺諸共、仲良く箸に食われるんだわ」
いや、食うのは私たちだ。
そうツッコめばまだ長くなりそうなので、黙っておく事にした。
今度はトマトも入れてみようか。きゅうりもいいな。
いや、それって冷やし中華じゃね?
思考が明後日の方角に行きかけた私の前でカナがまだぶつぶつと呟いている。
「色んな料理に手を出す箸はスパダリな遊び人。華奢な素麺を組み敷いていたツナが、乱入してきた箸に初めてを散らされるのよ。そして、素麺×ツナ×箸という奇跡のサンドイッチが完成するんだわ」
「完成してんのはツナ素麺だ。いい加減にして食え。そして寝ろ」
目の下の隈がくっきりハッキリと見えるカナは2徹した後だ。目つきがヤバイ上にたまに頭がふらついている。
締め切りがヤバイと泣き落とされて、原稿の手伝いに来たのが昨日の夕方。そこから怒涛の徹夜明け。
現在、カナのメンタルは色々ヤバそうだ。
「無理。まだ残ってる。後2ページ描き上げてポスト……いや、郵便局……」
「後仕上げだけでしょ。やっとくし、郵便局で発送しとくから。とりあえず、食べたら寝ろ」
ようやくモソモソと食べ始めたカナに安心して、食後の麦茶を飲む。
ほぼ出来上がってるし、残りは私でも出来るのだがカナは首を振った。
「原稿は最後までやる。でも、郵便局はお願いします」
「はい、承りました」
据わった目で黙々と食べ終わったカナは、コップに入ったコーラを一気に飲み干す。
ご飯にコーラを合わせる気持ちは未だに理解できないが、カナはこの炭酸が覚醒させてくれるという。
よく分からん。
刺激のあるコーラはイケメンな不良だろうか。なんて考えて、毒されてるなぁと苦笑した。
そんな私に、カナは指を組ませて手の甲に顎を乗せるという某有名アニメの根暗な司令官のポーズで語りかけてきた。
「ねぇ。ポストと郵便物ってどっちがどっちだと思う?」
知らねーよ。
もういいから、原稿仕上げて寝ろっ!
*終わり*
カナ「ポストが入れられる方だから、やっぱりマッチョ受けだと思うのよ。郵便物は、小柄で小悪魔な…そう!ショタ攻め!」
マコ「投函してきたから、もう寝なさい」