グイド、頭を捻って名付ける
メルが「リィゼ」に決まるときのひとコマ。
「あ、お嬢ちゃん、外に出る前に決めておきたいことがあるんだ」
一度執務室に戻った私達は、ソフィの給仕でお昼の食事を食べ、お茶を飲んでいた時だった。私は思いがけないグイドさんの真面目な様子に思わず身構えた。
先程、魔力ってちょっとこわい、と感じてから自分でも口数が少ないかな、と思っていた。
そのことだろうか、とそろりとグイドさんを見つめた。
すると、グイドさんは表情を和らげて「そんなに緊張しないでー」と目元も緩めた。
「あのさ、君の異名、つまり偽名を決めておかなきゃね。これからこの森の中を自由に歩き回ることになる訳だから。エイダ様も俺たちで考えていいって」
「あ、偽名……そうだった」
「何か思いついたのある?」
「うーん」と私は唸った。全然思い浮かばなくて困った私は、降参とばかりにグイドさんを見た。グイドさんは「だよねー」と言うと、私の周りをぐるぐる回り始めた。
「黒髪、紫の瞳、ちっこい、うーん、湖、白い魔力、光……」
ぶつぶつ言いながら回る。考えてくれてるのは分かるけれど、もうこっちの目が回りそうだった。「グイドさん、もう……」と声をかけようとすると、「よし!」と叫んで私の肩に両手を乗せてこう言った。
「黒くて紫だから、ディナとかリィとかヴィオとかどうよ?」
「ディナとかリィとかヴィオ……?」
私は、突然3つも候補を挙げられて頭が混乱しそうになった時、執務室の扉が開いてエイダが入って来た。エイダはグイドさんと私の様子を見るや「グイド、あなた何か余計な事をメルに吹き込んで……」とお説教の前の笑顔で詰め寄った。グイドさんは私からバッと離れて、「ません!」と叫んだ。
エイダはまだ胡乱な目でグイドさんを見ていたけれど、私が「名前を考えていたの」と言うと、「あぁ」と納得しようだった。
「それで、メルはどんな名前がいいの?」
「……どんなって言っても……分からないわ。私、何でもいい訳じゃないけれど、全然思いつかない」
エイダも先程のグイドさんと同じで、「まぁそうよね」と頷いた。グイドさんがまた「ディナとかリィとかヴィオってどうかなー?」と言っている。エイダはその言葉を口の中で転がしてから、「いまいちだわ」と言った。
「メリルってとても可憐な響きなのに、メルと呼ぶと可愛らしい響きに変わるわよね。わたくし、そんな名前がいいです」
「えー! ハードル高! 何それー!」
「そうねぇ、でも、メルのその透き通るような紫を表現しようとしたのは評価します」
「でも不合格かよー!」
久しぶりにグイドさんの絶好調な掛け合いを聞いて、私はおかしくて笑ってしまった。「ふふふ」と笑う私を見た二人はどちらも優しい顔になって微笑んだ。
「そうねぇ、リィゼはどう? 先程のグイドの候補にもあったけれど」
「やったぁ! まさかの採用!……お、お嬢ちゃんどう?」
私はさっきのエイダのように、「りぃ、リィゼ」と何度も言ってみた。
「『ミカディア』は信仰する者という意味よ。リィゼも神に誓う者という意味だし、近いわ。そう……リィゼ=コレッテにしましょう。小さな信仰者。ついでにわたくしも街の者にはエイダ=コレッテと名乗りましょう。皆、妹だと思っているようですから」
「うん、しっくりきてるー! 可愛い響きのノルマ達成してるよー!」
「……リィゼ=コレッテ。リィゼ……」
「どう? リィゼ?」
私は「リィゼ」と呼ばれて頬が赤くなったのを感じた。何だか恥ずかしい。違和感はあるけれど、嫌な気持ちにはならなかった。
「エイダと同じ名前なのが、嬉しい。グイドさんも考えてくれて嬉しい……私、リィゼ=コレッテになる」




