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3話

 修理をしていただいてから三日が経ちました。


 マヒロ様は古い家屋に一人で暮らされているようです。

 ひとり暮らしの期間が長いのか、基本的にマヒロ様はすべてをご自分でなさろうとなさいます。ですが、それではわたくしは本当に話すことしかできない木偶人形となってしまいます。そう説得して、ようやくマヒロ様から仕事をいただけることとなりました。


 触ってはいけないものや、やって欲しいことなどを教えて頂く手間を取らせてしまうことになりましたが、それでも、はじめにマヒロ様が仰っていた、話し相手としてのみ過ごすことはわたくしには出来ませんでした。


 私を修理して頂いた部屋は外に面したガレージに設えられておりました。マヒロ様はどうやら機械を修理することをお仕事にされているようです。わたくしを修理して頂いた手腕にも納得でした。

 わたくしにマヒロ様のお仕事をお手伝いすることはご許可頂けませんでしたが、それでも毎日床と施術台の掃除を行うことは許してくださいました。


 もうひとつ、マヒロ様のお宅には特徴的なものがありました。

 普通のお宅ではちょっと見ないくらい、室内に色々な種類の観葉植物が置かれているのです。

 それらの手入れはわたくしが一部引き受けることになりました。

 水やりはマヒロ様がされるとのことですが、大型の植木鉢に入った植物を一時的に外に出して日光に当てたり、葉に降り積もったほこりを拭ったり、そのような仕事をさせて頂くことになっています。


 観葉植物はほとんどの部屋に置かれており、それはキッチンも同様でした。

 キッチンテーブルの上には水栽培のポトス、板張りの床の上には邪魔にならない場所に陶器の飾り鉢に植えられたモンステラの大鉢が置かれています。


 今はマヒロ様と二人キッチンにいました。


「今日はコーヒーの淹れ方を教えようか」


「よろしくお願いいたします」


 コーヒーの淹れ方自体は組み込まれていますが、豆のひき方、粉の量、蒸らし方などマヒロ様のお好みはわかりません。

 徐々に調整していく必要があるのですが、一度教えて頂ければ大方のお好みに沿ったものをお淹れすることができるでしょう。


「そんな大層なこだわりなんてないんだけど。

 飲めればいいよ」


 マヒロ様は気軽におっしゃいます。

 実際、使いかけのインスタントコーヒーの瓶も置かれていました。

 しかし一緒にネルドリップ用の道具も置かれており、こだわりも見えます。

 おそらくですが、インスタントコーヒーは時間がない時用のものなのでしょう。


 マヒロ様の指示のもと、コーヒーを淹れてみます。

 キッチンテーブルと共に椅子が二脚置かれており、そのうちの一脚にマヒロ様には座って頂きました。

 砂糖とミルクはご不要ということで、淹れたてのコーヒーをマグに注ぎ、短い距離ですが盆の載せてマヒロ様のもとへとお運びします。

「そうしていると本物の執事みたいだね」


 マヒロ様がほんのりと笑みをその唇に乗せられます。


「執事型の自動人形でございますから」


「そうだったね」


 そして一口の後。


「うん、おいしいよ」


 何よりも得難いお言葉をいただきました。


「ありがとうございます。

 これからお好みにより近づけるよう精進してまいります」


「十分おいしいってば」


 少しの間の後、マヒロ様は続けられます。


「それに、きっと、この味はどんなにおいしいコーヒーを飲んでも忘れないんじゃないかな」


「何故でしょうか?」


「ワタリさんが私のために淹れてくれた初めてのコーヒーだからだよ」


 そうしてマヒロ様は得意気に笑われました。

 わたくしはといえば、マヒロ様のお言葉になんと答えて良いかわからず、ただ黙って頭を下げることしかできませんでした。


「ワタリさん」


「はい」


「また、コーヒーを頼むね」


「もちろんでございます」


 そしてマヒロ様は再びマグを口元に運ばれました。

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