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1話

 意識がクリアになると同時に聞こえた金属を削る高い音に、わたくしは本懐を遂げることができなかったことを知りました。


 あの優しげな声のお方は、わたくしの最期の望みをかなえてはくださらなかった。


 しかしそれも仕方ありません。

 あのお方にわたくしの願いを聞き届けるだけの、義理も縁もなかったのですから。


 期待するのが愚かというものです。

 壊れかけの自動人形でも手に入れたいという奇特な方に、わたくしは拾われてしまったのでしょう。


 まずは、両手が動くかを確認します。

 拳を作り、再び広げます。

 それだけの動きですが、壊れた部品が入れ替えられ、きしみを上げていた節々にはオイルがさされているのがわかりました。

 視覚機能はまだ修復が終わっていないようで、視界は濁り、一部にひび割れが残っています。

 それでも、どこからか差し込んでいる黄昏色の光から、もう日が暮れかけているのだというのはわかりました。


 ふいに音が止み、光が遮られました。


「あなたが、わたくしの新しいマスターですか?」


 思いのほか明瞭な声が出ました

 そして、意外なことにもとのままの声でした。

 古い自動人形を手に入れたお方は、己の好みにすべてをカスタマイズされると聞いたことがあります。

 わたくしも当然そうなっているのだろうと思っていました。

 そういえば、記憶も、まだ、あります。

 記憶装置の初期化さえされていないようです。

 これはどういうことでしょう。


「マスターではないけど、君を拾った者だよ。

 もう少しで修理が終わる。

 そしたら、あなたには悪いのだけれど、私と一緒に暮らしてほしいんだ」


「それがご命令ですか?」


「命令じゃない。

 あなたがそうしてくれたら嬉しいってだけ。

 もし嫌なら、そのまま廃棄物処理場にでもいきなよ。

 それだけの修理はしてあげるから」


「どうして、ここまで手をかけて修理をしていただけているのに、そのようにおっしゃってくださるのでしょうか」


「どうして……」


 声の主は考え込むように黙りました。


「うまく言えないかもしれないけれど、あなたのような人が側にいる生活はどういうものだろうと思ったんだ。

 それだけの話だよ。

 あなたには迷惑な話だったね」


 この人はなぜか自動人形のわたくしのことをどうしてか人と同じ権利を持つものとして話しています。


「わたくしは自動人形です

 そう命じられればそういたします」


「命じてはいないよ」


 きっぱりと強い口調でした。


「どうしたいかはあなたが決めるべきことだ。

 これは私の勝手なのだから」


 どうしたらよいか、よくわかりませんでした。


「あなたのもとで暮らす場合はわたくしの仕事はありますか」


「私の話し相手になってくれれば、あとは何をしていてもいいよ」


「それは、仕事、なのでしょうか」


「私がそれに価値があると思ったのだから、仕事だよ。

 あなたは仕事の対価に何を望む?」


「ならば、時々体の整備をお願いいたします」


「それだけでいいの?」


 言ってもいいものか迷いましたが、声の主は私の発言を待ってくださっているようでした。


「――――執事服を、用意していただければとおもいます」


「わかった。

 次にあなたが目覚める時までには準備しておくよ」


 そうして再びわたくしの意識は無に消えます。

 次に起きた時、わたくしはこの方のもとでしばらく暮らしていくことを決めていました。

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