表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

タマゴあたまの短編集

独白

※たいあっぷにも掲載しています。現在イラストレーターさん募集中です!

https://tieupnovels.com/creator/user/Tamago_atama

 最近、殺人事件や事故死の報道が多いような気がする。

 正直、すごく羨ましいと思う。

 いや、勘違いしないで欲しい。

 殺人願望なんかこれっぽっちも無い。


 その逆だ。殺して欲しいのだ。死にたいのだ。


 ここでも早とちりして欲しくないのだが、いじめや嫌がらせを受けているわけではない。

 もちろん、借金まみれなわけでもない。

 平凡な毎日だ。むしろ何も無さすぎるのである。

 有るのは未来への漠然とした不安だけだ。

 先ほど、死にたいと言ったのはその不安がとてつもなく怖いからだ。

 裏を返せば、その不安さえ取り除ければ幸せな生活を送れるというわけだ。

 例えば、宝くじで一生遊べるような大金が手に入ったり、誰かが僕のことを一生養ってくれたりすれば、死にたいなんて思わなくなるだろう。


 しかし、現実はそうは上手くいかない。

 宝くじで高額当選した人のその後が破滅に向かうなんて話を聞いたことがあるし、そもそも宝くじが当たる確率なんて相当低い。

 誰かが一生養ってくれるだなんて話はマンガや小説だけの話だろう。

 つまり、今僕が持っている漠然とした不安は消えることは無いということだ。

 それならその不安に押しつぶされる前に消えてしまいたいと思うのである。

 自殺が手っ取り早いと思い、首つり自殺を試みたが、いざその時となると身体が恐怖で震え、足の下にある小さな台を蹴とばすことができなかった。

 やはり僕も生き物だったということだろう。自分の命が惜しかった。

 生命の本能に死への恐怖が深く刻み込まれているのだ。

 自分の喉や手首を掻き切るなんて勇気はもちろん無い。

 練炭自殺も考えたが、火事になったら大変だ。周りへの迷惑は最小限に抑えたい。

 ここで、自殺で死ぬという方法は消えた。


 次に浮かんだのは事故死や殺されること。

 しかし、事故死なんてそうそう起こらない。

 電車に飛び込むのは自殺と変わらない。きっと足が動かないだろうし、多大な迷惑がかかるだろう。

 事故死や殺されることってのは予期せず死ぬから良いんだ。

 まあ、殺人鬼に刺し殺されるなんてことも滅多にないだろう。


 ああ、安楽死ができれば楽なのに。

 他の国のことは知らないが、日本では安楽死は認められていない。

 延命治療をやめる「尊厳死」は認められている。

 どう違うのだろう? 自分で死を選ぶという点では同じだろうに。

 安楽死への道には「倫理観」という壁が立ち塞がっている。

 倫理観って何だ? 自ら死を選ぶというのはそれほど悪いことなのだろうか。

 両者の合意の上ならば、何も問題は無いのではないか。

 その合意がたとえ一時的な悩みや不安によるものであったとしても、その時の苦しみから逃れることはできるわけだし、それは当人にとっての「救い」にはならないのだろうか。

 そんなことを考えながら僕は今日も惰性で生きている。



 ――――――――――








「どうやら日記のようだな。しかし、内容がどうも理解できないな。自分で死を選ぶなんて考えたこともないぞ。言葉が通じても話が通じないとはまさにこのことだな。しかし、僕もこのバッテリーを引き抜いたら死ぬということになるのだろうか」

 無機質な銀色の胸に手を当てながら、不思議そうな表情を浮かべて、かつて「家」と呼ばれていた砂やほこりだらけの空間で、そうつぶやいた。

面白いと感じたら,感想をお願いします。

感想はユーザでなくても書けます。

モチベーションにつながるし,励みになります。

ブックマークや評価も嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 独白の当人は一体どういう生涯を送ったのか、日記を読んだ存在がいつの時代どんな状況に置かれているかなど千字の短編で詳細は語られないからこそ想像が膨らむ余地があり、読者にしてもそれが変わってき…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ