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六つの盟約と一人の一般部外者  作者: 仕方舞う
2/16

よそ者と次代の竜王

 当主になって早々倒れた賢士。治療を終えて一か月が過ぎても目を覚まさない。傷の深さ以前にナイフに掛かっていた呪いが人間故に過大に影響し、傷や呪いが解けても覚醒に時間が掛かっている。その間の治療を行っているのは当主の間。大きな介護用ベッドを机の前に置き、メイドが一人ずつ交互に面倒を見ている。王達は、賢士が目覚めるまで各世界に戻って王としての仕事をしている。だが、賢士の事が気になり仕事どころではない。執拗に館を訪れては、賢士の寝顔を眺めに来る。



 今日は、ティアマトが訪れていた。

「賢士よ。人間はここまで脆弱なのか? 出来る事ならそろそろ目を覚まして欲しい。儂も他の王達も、賢士が気になって他が手につかん」

 ベッドの前で腕を組み、首を傾げては顔を覗き込む。

 近くで様子を見守っているメイドは、寂しそうなティアマトの横顔を見て気付かれないように微笑む。

「メイドよ。賢士は大丈夫じゃろうな?」

「はい。傷は完治、解呪も成功しています」

 鱗を一枚剥いで、賢士の胸に傷に乗せる。

「これは特別じゃ。どんな厄介な攻撃も一度だけ防いでくれるぞ」

 孫を見るような目で賢士を眺め、我慢できずに手を伸ばす。

 すると…。

「過保護なところもあるんだな」

 ティアマトの手を賢士が握る。

「起きておったのか!」

「ちょっと前にな…」

 右目だけ開いて、重い体を起こす。

「左目が開かないな…体もかなり重い…」

 賢士の体をティアマトが支えるが、荒い呼吸を繰り返していたので直ぐに寝かせる。

「まだ本調子ではない! 休んでいろ」

「そうはいかない。折角当主になったのに寝てなんか居られない!」

 とは言いつつ、体は全く言う事を聞かない。

 横になったままティアマトの手を引っ張る。

「ティアマト、竜界の情報を纏めてくれ。動けるようになったら竜界に行く」

「本気で言っておるのか? だったら止めておけ。竜族は他種族に対して強い敵意を持っておる。お主が赴けば殺されかねんぞ!」

「だったら守ってくれ。ティアマトなら守れるだろ?」

 賢士の頑なさは既に知っていて、これ以上の反論は意味を成さないのも理解している。だがそれでも、危険な目に合わせられない。

「ダメじゃ!」

「良いのか? お前が断ったら別の世界に行くぞ。ひょっとしたら竜界よりも危険かもしれないな…」

 目の届かない場所で危険に遭遇するより、目の届く場所で危険に遭遇した方が守り易い。脆弱な賢士を守る為には竜界の方が都合が良い。

「…全くお主は…分かった! 動けるようになったら竜界についてくるが良い!」

 賢士に言い包められてしまったティアマト。許して直ぐに後悔が脳裏を奔る。



 一週間後。

 当主の間では賢士が旅支度を進めていた。黒いスーツ姿で、小さなリュックに、痛み止め薬、500mlの水、お重の弁当を入れている。リュックの準備が終わると、ティアマトから受け取った竜界の資料を読む。

 竜界に行く事を知った王達は、心配顔で当主の間に集まっている。

「賢士、本当に行くのかい?」

 ルシファーの質問を聞きつつ資料から目を離さない。

「当り前だろ? 安心しろ、ティアマトがついている」

 ティアマトを信用していない訳では無いが、賢士の脆弱さが不安にさせる。

「ティアマト、頼んだわよ」

「私達は、他の世界に行く事が出来ない…」

 ティターニアとアテナの睨みに近い視線に、ティアマトは溜息。

「当然守って見せる。じゃがな…賢士の動きが想像出来ん」

 ティアマトにとって最も恐ろしいのは、賢士が何の為に竜界に赴くのか。ただの視察だったら良いのだが、もし体制に苦言を呈する事があったらティアマトでも怒りを抑えるのは難しい。如何に王であっても多くの竜族を相手にするのは困難。

「それも安心しろ。今回は旅行のつもりだ」

 旅行と聞いて一同安堵。だが、フェンリルはそれでも不安。

「旅行でも危ない! おいらがティアマトに会いに行ったら…」

 フェンリルは、その時の事を思い出して青ざめる。

 黙っていたタイタンは、賢士の頭を不器用に撫でる。

「俺、賢士、大事。危ないのは、嫌だ」

 資料から目を逸らし、心配顔の王達を見渡す。

「人間は脆弱なだけじゃなくて寿命も短い。お前達が考えている以上に早く老いて死ぬ。のんびりしていたらあっという間に死んで、次に引き継がないといけなくなる。お前達が誰よりも知っているだろ? 不安定な状態で盟約を引き継いだらどうなるか。俺は初代当主のような無念は経験したくない」

 初代以降、当主は盟約をただの厄介事としか思っていなかった。その結果、盟約は衰退し続け、当主が赤の他人に館を譲渡する事態にまで陥った。

「俺の体を心配してくれるのは正直嬉しい。だが、その嬉しさを蹴っ飛ばしても盟約を完璧にしたい。それが形を変えた『見返す』って事なんだ」

 賢士の行動指針は変わっていない。裏切られた時の『見返したい』が盟約を守る事を目標にしている。それこそが賢士の動力源であり、王が惹きつけられた理由。

「…はぁ、本当に仕方ないね…」

 ルシファーの溜息を聞きながら、賢士は苦笑いしつつ資料をティアマトに渡す。

「すまん。情報を纏めて貰って悪いんだが…竜界の言語、読めないや…ははは」

 賢士の申し訳なさそうな顔は、不安な王達を笑わせる。

「カッコつけるもんじゃないな。竜界の事は現地を教えてくれ。で、どうやって竜界に行くんだ?」

 またまた苦笑い。

 ティアマトが扉の前に立って賢士を呼ぶ。

「館の全ての扉は儂らの世界と繋がっておる。その世界の王、もしくは由縁のある存在が一緒なら…」

 ティアマトが扉を開けると、火山が噴火する灼熱の世界が広がっている。

「凄いな! へぇ~、やっぱり常識じゃ図れない」

 賢士はリュックを背負い王達に手を振る。

「じゃあ行ってくる」

 ティアマトを引っ張り竜界に足を踏み入れると、直ぐに扉が閉まる。急に不安になったルシファーが扉を開くと既に竜界ではなく廊下。

「虚しい…」

 王達全員が賛同し頷く。

 盟約を結んでも王達は他界に足を踏み入れる事が出来ない。勿論、その枷を解く事は出来る。だが、盟約に対する嫌悪が広がっている現状で無暗に王が他の世界に訪れるのは盟約破綻の危機。盟約が全ての世界で受け入れられなければ不可能。



 竜界。

 火山から流出したマグマが水の代わりに川を流れている。川に隣接した民家は石柱と石屋根で出来た質素な作りで、ギリシャの神殿のような立ち姿と言えば分かり易い。マグマ川の傍に民家がある理由は、人間の川と同じ。子どもが川で遊んだり、主婦が洗濯をしたり、食べ物?を洗ったり、灼熱のマグマでなければ昔の人間と然程変わりない。

「ここは獄炎領域。炎竜系の一族が住んでいる。炎竜系の一族にとってマグマは人間の水と同じで、定期的に摂取しないと死んでしまう。だから、マグマを街に流しているんじゃ」

「へぇ~、って事は他にも領域があるのか?」

「北の山向こうに雷が降り注ぐ雷鳴領域、西の山脈の地下に氷河に覆われた氷結領域がある。どの領域にも適した竜族が住んでおって、必要な物が違う。雷鳴領域では雷、氷結領域では冷気、もしくは氷。それぞれが竜族にとっての必需品じゃ」

「因みに、ティアマトはどの種族に属しているんだ?」

「儂か? 儂は古代竜の血族じゃから特段必要な物はない。どの領域にも耐性があり、どの領域でも生活できる。まぁ空が見える場所が良いから、今は獄炎領域に住んでおる」

 賢士はティアマトの話を聞きながら、川で遊ぶ子どもの下に向かう。子ども達は全員竜の姿で、遊んでいる光景には可愛らしさは無い。ただ、笑い声は子どもらしい。

「おいっす! 皆元気だな」

「……」

 子ども達は、賢士の顔を見て動きを止める。竜の姿のため怒っているか判別できないが、明らかに拒絶している。

 子ども達の笑い声が聞こえない事に違和感を感じた親が現れる。子どもと違って人の姿をしている。

「よそ者! うちの子に何かするつもり!」

 嫌悪感どころか殺意を滲ませ、子どもを川から引っ張り出す。

 騒ぎを聞きつけ、どんどん竜族が集まる。人の姿と竜の姿が入り混じっていたが、竜の姿が増えていく。どうやら、人の姿から竜の姿に変化している模様。

「俺はただ話しかけただけで…」

「嘘を吐くな! 他の世界から子を攫いに来たんだ!」

 聞く耳を持たず、一方的に悪意を決めつける。

 だが、賢士はこれ以上反論しない。竜族が排他的なのは想像出来ていて、排他的な様子を見る事は一つの成果。竜族との関係を構築する上で表面上の誤魔化しや繕いは逆に邪魔。

「皆の者、鎮まれ! この者は儂の親友。盟約の館の当主、敷井賢士じゃ!」

 ティアマトの一喝で騒ぎは収まる。だが、賢士に対する態度は軟化しない。あくまでティアマトの言葉に従っただけ。

「ティアマト様、我らは盟約の事を許しても、当主が来訪する事を許した覚えはない。早々に立ち去るよう勧告してください!」

「出来ん話じゃ! 儂は賢士に盟約を委ねた。それは竜界の行く末を委ねた事と同意。それとも、儂に逆らおうと言うのか? じゃったら話は別じゃが…」

 ティアマトの凄味に集まった竜族は引き下がる。如何に嫌悪感が強かろうが、信頼出来る王に逆らう程の事ではない。


「ティアマト老、折角だが俺が反対する」


 空から舞い降りる巨大な竜。纏った漆黒の鱗は鎧のように強固で、地面に突き立てた爪は業物の剣のように鋭い。広げた翼は空を覆い、賢士とティアマトを闇で包む。

「バハムート! 無礼が過ぎるぞ!」

「良いではないか。時期に俺が竜王となるのだから」

 巨大な黒竜は人の姿に変化。筋骨隆々の細身で、背中の竜翼と鋭い爪は竜の姿からあまり変わっていない。

「例えそうだとしても、今は儂が王じゃ。口出し無用!」

 バハムートはティアマトを無視し、賢士を凝視。

「これが人間という物か…」

 鋭い爪で賢士の胸を引っ掻く。破れた服の隙間から塞がったばかりのナイフ傷が露わになる。

「皆の者、これを見ろ。人間は愚かにも同族同士で命を奪い合う。我ら竜族とは明らかに違う。我らは同胞を傷つけない!」

 賢士を蹴り飛ばし、倒れたところを踏みつける。

 何とか脱しようと暴れるが、賢士の力ではどうにもならない。

「見ろこの脆弱さ。簡単に殺せてしまう。この程度の者に竜族の命運を委ねて良いのか? 良い訳がない!」

 足の爪が伸び、胸に食い込んでいく。血が滲み、塞がったナイフ傷が引っ張られる。

「王が決断できるように殺してやろうじゃないか。俺の足で…」

 このままでは賢士が殺される。そう思った次の瞬間、バハムートがピタリと固まる。体が震え、声を出そうとしても出せない。

「その足を退けるのじゃ」

 バハムートの体が宙に浮かび、四肢が四方に引っ張られる。

 竜族達はただ黙って推移を窺う。

 ティアマトの怒りが収まるまで…。

「バハムート、儂が加減すると考えておるのか? だとしたら、それは間違いじゃ。お主が賢士を傷つけるというなら、儂は同族でも殺す!」

 ティアマトの右手の動きに合わせてバハムートの体は上下する。閉じていた左手を開くと、バハムートの声が戻る。

「何故だ! 何故人間の為に、よそ者の為に…?」

「言ったじゃろ? 賢士は親友。儂にとってよそ者ではない! 今度儂の前でよそ者と言ったら…分かるな?」

 右手を開くと、バハムートが解放される。

「………覚えておこう。何をすべきか」

 竜に戻ったバハムートは空に消える。

 


 ティアマトが賢士を誘ったのは自身の家。他の民家同様ギリシャの神殿のようだが、やはり王の邸宅。煌びやかな宝石や金貨、戦利品と思しき剣や盾、鎧が無造作に陳列されている。中でも驚くのは、巨大な竜を模った赤い鉱石の彫像。賢士はティアマトの姿かと思ったが、ティアマトは笑いながら違うと呟いた。

「すまない…儂がついていながら」

「気にするな。ティアマトは民衆の様子を見ていたんだろ? 民衆全てを敵に回さないように気を遣って怒りを噛みしめた。正しい判断だ」

 賢士の心遣いに感謝しながら、黒焦げの布を差し出す。

「何だ…この布?」

「お主が背負っておったリュックじゃ。バハムートに蹴飛ばされた時に川へ…」

「はは、は…って事は痛み止めも、弁当も無い?」

「すまない…」

 賢士は、胸の傷を抑えて苦笑い。

「き、気にするな。俺なら大丈夫だ」

 強がってみたのは良いが、バハムートのせいで胸の傷はかなり痛い。しかも、竜界に居る限り何も食えない。竜族はマグマ、雷、冷気が食料。人間が食す物があるとは思えない。

「なぁ、ティアマト。因みに…人間が食えそうな物は?」

「…頼まれていた料理人が遅れている。それで察してくれんか…」

 分かっていたが、実際に聞いてしまうと落胆はする。痛みと突如訪れる空腹で座り込む。

「賢士、一旦館に帰るんじゃ。その方が良い」

「それは出来ない。バハムートの様子が気になって仕方がない」

 ティアマトの手を掴むと、深い傷が掌に刻まれている。

「…気付いておったのか?」

「次代の王だけあって力は相当だな。今の一件でティアマトに勝てる見込みを感じ、また同じような事を企てる筈だ。最悪…ティアマトの命を狙いかねない」

 ティアマトも感じていた事実らしく、反論も動揺もしない。

「儂のせいでもあるんじゃ。儂が間違った教育を施したせいで…」

「辛いかもしれないが、話してくれ。竜界の問題解決に繋がる大切な情報だ」

 躊躇うティアマトだが、意を決して口を開く。

「儂ら古代竜は遥か昔からある教育を受けて来た。弱者を許してはならない、弱者を認めてはならない、弱者には子孫を残す資格がないと…。儂もその考えを引き継ぎ、当然のように子や孫に教えて来た。間違いに気付いたのは盟約を結んでからじゃ。他の世界の常識を学び比べると、如何に愚かな教えか骨身に染みた。それから慌てて教育をし直した。弱者であっても共に生きる仲間、弱者だからこそ認めるべきと。じゃが、遅すぎた。バハムートは古代竜の思想を強く支持し、儂の考えを真っ向から批判した。最初は儂の意見を聞く者が多かったが、一部の力ある竜族は古代竜の血と精神を継ぐバハムートを王にすべきだと決起した。その勢力は想像していたよりも強く、気が付けば次代の王にバハムートが決定していた」

 話を聞いていた賢士は、胸を押えて考え込む。

「竜族の強さは教えの中に在った。それを身を以って知っているから、バハムートの方が支持された。成程…かなり難しい問題だな」

「儂を支持する者は今もしっかり居る。じゃが、儂を支持するのは弱い者ばかりじゃ。強者集うバハムート側に楯突く事が出来ない」

 ティアマトの不安がヒシヒシ伝わってくる。盟約を維持する為には、古代竜が築いてきた強者の歴史を超えなければならない。その難しさに心が引き裂かれそうになっている。


「お爺様~、帰ってる?」


 可愛らしい声と共に、一人の少女が現れる。

 露出の高いビキニのような服装だが、露出している肌が硬い鱗で覆われている為あまり恥ずかしい格好に見えない。右手と両足の鋭い爪を見ると、バハムートを思い出し背筋が寒くなる。

「ねぇ、それは何?」

 指差しているのは明らかに賢士。他の竜族のように嫌悪感を見せるのかと思いきや、好奇心全開で近づいてくる。

「私と同じくらいの背、私と同じくらいの細さ…これ、本当に男? 男っぽい女じゃないの?」

 竜族の男と比較されても困る。竜族の男は筋骨隆々で見るからに強そう、対する賢士は中肉中背で至って普通の体。竜族基準では細身で女のようだが、人間基準ならそこまで否定される程ではない。

「ティアマト、こいつは何者だ?」

「儂の孫、リームじゃ。これリーム! 賢士に失礼じゃろ!」

 賢士の名を聞いたリームは、好奇心を一転。賢士の前で膝をつく。

「盟約の館の当主でしょ? だったらお願い! 私の婚約を壊して!」

 急な願いに激しく困惑。何の事か分からず、ティアマトの顔を仰ぐ。だが、ティアマトは落胆していて賢士の疑問に答える余裕がない。

「リーム、無茶な事を言うな。もう決まった事じゃ」

「そんなのおかしい! どうしてあんな奴と(つがい)にならないといけないの! ぜーーーーーたい、嫌!」

「儂には拒否する事が出来んのじゃ。今の力関係では…」

「だから、盟約の当主にお願いしているんでしょ!」

 ティアマトとリームの話から察する。紐解くキーワードは力関係。ティアマトの立場から考えればバハムートの勢力。ティアマトの孫なら古代竜の血が流れていて、それを欲するとするなら古代竜の思想を受け継ぐバハムート本人。

「リーム、その婚約を破棄する方法あるぞ」

「本当!」

 満面の笑みで賢士に顔を寄せる。

 可愛らしい女の子に賢士もドキドキ…とはならない。賢士の趣味に合わないのか、好みではないのか、リームが眼前に迫っても平常心。

「簡単な話だ。お前がバハムートに勝てばいい。力を重視する奴らには最大の威力があるぞ」

 賢士の提案に、リームは落胆。溜息を漏らしながら賢士から離れる。

「そんな事出来る訳無い。相手はバハムートよ! お爺様と渡り合える実力の持ち主よ!」

「そうかもしれんが、俺は勝てると思うぞ」

 賢士の根拠のない話に呆れ、リームは頬を膨らませて帰っていく。

「いい案じゃが、リームの言う通り勝ち目は無い」

「ティアマト、あの像は古代竜だろ?」

 部屋の中央に鎮座する巨大な竜の彫像を指差す。

「そうじゃが、何か関係あるのか?」

「金貨とか剣とは無造作に置いているのに、これだけはしっかり磨き上げて丁寧に扱っている。ティアマトが幼い時から大切にしてあるんだろ? だとするなら、古代竜の思想上重要な存在。古代竜の中でも強大な力を持っていた」

 賢士の推理が当たっているのか、ティアマトは驚いた顔で頷く。

「その竜の特長がリームにもあるんだよ」

 竜の像の首元に触れる。

「この部分の竜燐の形が同じなんだ。逆鱗で言うんだろ?」

 ティアマトも竜の像の首を調べる。

「本当じゃ…こんな所に在ったとは、気にした事が無かった」

「ここからは単なる想像だが、逆鱗ってのは竜族の力の肝。力の奔流の支点で、同じ場所に在るって事は同じ力の流れをしているって事にならないか?」

「そんな理論聞いた事が無い。じゃが、もしそうなら可能性があるのか?」

「さぁな、だが試す価値はあるだろ? もしリームが勝ったらバハムートの勢力は衰退。次代の王もリームに変更。リームが王になったらティアマトの考えは受け入れられる。盟約にとっても万々歳だ!」

 賢士の中ではリームを次代の王に据える作戦が動き始めていた。傷の痛みも飢えも忘れる程盛り上がっている。だが、ティアマトはかなり不安。リームに王が務まるのか、バハムートに勝てるのか、未知の状況に言葉が出ない。

「ティアマト、早速作戦を開始する。リームを呼び戻せ!」

 賢士の策が竜族を翻弄する。

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