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薄幸転生侍女と舞踏会、と……?

「舞踏会、ですか?」

「はい」


本日もお日柄良く、いつも通りふかふかの椅子に座ってお勉強をしていた頃。


最近良くお会いする陛下の側近さんが手紙を携え、私がその内容をさらりと流せば彼は頷いた。


「サラセリーカ様のお披露目を主に、という名目で」

「…………成る程」


恐らく陛下の字であろうそれが書かれたを丁寧に折り畳んで封に戻す。そして机の隅に追いやり、勉強道具も片付ける。


「お披露目、ですか」


行儀悪くならないように遠くを見つめ、重たい頭で思い出す。そういえば本来、王族というものは生まれた後にお披露目を行うという。


自国であったナウェルにいた頃は当然そんなことはなく、寧ろ生まれた瞬間から隔離をされていたからすっかり頭の隅にもなかったが。


ここでは、そう、私は今の所一応第二王女という立場である。


会ったことはないがお姉様の上には既に学園に上がる年頃のお兄様が二人いらっしゃって、故に私は年齢的にも立場的にも王位継承権などには絡みもしない下っ端ではあるが一応王族という括りであった。


将来的には侍女を目指すから今の立場なんて飾りでしかないのだけれど、そろそろ一度顔を出さねばいけない頃なのだろう。


外部の人間が一番、政治を根幹から揺るがすから。


そんな私の考えを見抜いたかのように、側近さんは少し目を細めて口を開く。


「サラセリーカ様に王位を狙うなどの目的はないとは思っておりますが、そう思わぬ老獪な者達もおります。一度顔を出し、ご自身の立場を固めては如何かと」


側近さんのそんな少し哀れむような眼差しに、私は目を伏せた。


他国の人間で、けれども第二王女で、かつ白髪金眼という女神様に愛されるらしいこの容姿は、間違いなく楔だ。


使い手によっては知らぬ間に継承者同士を争わせることが出来て、幼い私を操って影から王位を狙う人間がいないとは言い切れない。


だから私は、今のうちから王位になど興味がないと、立場を逆に固めておかなければならない。


血筋的に言えば私が王位を望むことなど不可能であるが、サウシェツゥラは王位継承権が存在するものの最終的には一番優れた者が王に選ばれる。


そこに男も女も関係なく、ただ優秀であることだけが、継承権だ。


だから、陛下に王女として認められている今は当然私も継承者で、王位を望める立場にある。


それこそむかーしむかしは生まれ順の王位、男児であったことが絶対だったそうだが、一度それで悪知恵だけは働く愚かな人間を王にし、国が傾き掛けて反逆が起こった歴史以降はただ優秀であることだけが条件となった。


陛下も、勿論王位を継いだだけあってとても王らしい方である。


土地を広げ、軍事力を拡大し、様々な交易にも手を出して結果を残す。


陛下は宰相が有能だからだと言うが、決してそれだけではない。


がしかし宰相も宰相といえども今陛下の近くで政治を担っているのは陛下と王位を争った元王子だ。


陛下を支えていることは周知の事実で、陛下が言うように宰相である伯父様はとても頭の良い方である。


最初に陛下の傍に王位を争っていた人間がいるなんて、と下衆な疑いもしたがどうやらそれは()()()()()によって不可能らしい。


詳しいことは教えてもらえなかったけれど、条件は陛下への絶対的忠誠。それを科せられる代わりに、この城に残ることが許される、と聞いてそんな下衆な考えは払拭された。



「サラセリーカ様?」

「はいっ」


虚空を見つめ、考えに耽ってしまった私を呼び戻す側近さんの声に肩を跳ねさせ、逆に謝られるという申し訳ない過程を踏んだ後私は漸く本題である返事を陛下に出すことにした。


私としては恙なく過ごせるのであればお兄様、もしくはお姉様に忠誠を誓うつもりである。陛下達には既に告げてある王女ではなく侍女として生きていくという目標がある限り、私が王位を望むことはないから。



「それでは、陛下に問題ないとお伝え……いえ、手紙を書きますので、待ってもらってても良いですか?」

「勿論です」


と頭の中で今一度整理したことを側近さんに伝えようとして、折角ならばと今仕方置いた羽ペンを再び手に取り、大分上達した文字で手紙に返事を認めることにする。


書き終え、綺麗な便箋に紙を入れて机の引き出しからこういう時に押すらしい第二王女のシーリングスタンプ用の判子と蜜蝋を取り出してスタンプをぽん。


毎回蜜蝋を溶かすのが難し過ぎて未だに四苦八苦するが、でもなんかこういう漫画とかで見てたようなことを自分で出来るようになるのは少し楽しいし違う世界に来たって感じがして毎回嬉しい。


「はい、お願いします」


蝋が固まったことを確認してスタンプを剥がし、側近の方に渡す。


渋い顔をしながらも手紙を受け取る側近さん。そんな顔が不思議で眺めていれば、側近の方は視線に気が付いて口を開いた。


「サラセリーカ様。そういうことは、我々の仕事です」


蝋を溶かすために用意した火を手早く処理してくれた彼の言いたいことを理解した。


王女自らこんな雑用をしてはならないと、彼は言いたいのだ。


私が余りにも自然に流れるようにそんな雑用をするから、側近の彼は止める間もなく私は作業を終えてしまった。


「すみません、つい」


将来的にはこれが自分の仕事になるだからと思わなくもないが、今は仮にも王女である。それらしいことを求められ、しなければならない立場だ。


「いえ、私の方こそ申し訳ありません。サラセリーカ様が作業をなさる前に言い出せれば良かったのですが」


静かに反省した私を気遣うようにそう言葉を重ねてくれて側近さんを見送り、私は以前そのようにお世話になった騎士さんを思い出す。


このお城に来て以降、騎士団の方に行くこともないし騎士さんが普段何をしているのかもわからない私は、ずっと会えていなくてお世話になったお礼を言えていない。


最後の方は体調を崩して寝込んでいて私を抱えてここまで来てくれた。素直にお礼を言いたい。


陛下に尋ねれば機会を用意してくださるであろうが、そんな私用で陛下の手を煩わせるのは申し訳なくて未だに申し出ることが出来ないし、これからも出来ないであろう。


だから、そろそろ勉強も一段落したし自らの足で騎士団の方に訪ねてみるのがいいと思う。


西の方の建物に騎士団の屯所及び練習場があるということはサーチ済みである。


思い立ったが吉日と良く言うし、今日は空も晴れているから今日にしよう。



「男性へのお礼にはハンカチを渡すとマナー本に書いてあったから、この間練習した刺繍入りのハンカチを持って行こう」


手ぶらで行くのもなんだから、と手土産になるものを考えた結果、手拭きくらいにはなるであろう些細な刺繍の入ったハンカチを用意することに。


可愛らしくお菓子でも用意出来れば良かったけど、そんなスキルは生憎持ち合わせていない。


「行ってきます」


誰かに聞かれる訳でもないその言葉を置いて、私は一人西棟へと向かうことにした。


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