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薄幸転生侍女は陛下に仕えたい  作者: 高槻いつ


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薄幸転生侍女と旅路5

「あ」

「どうされました?」


先程までのこと、これから先のことを悶々と考えていたらソルが過去にアーノルド卿達へ迷惑を掛けていたことに辿り着いた。


「あの、卿。つかぬことを聞きますが、以前サウシェツゥラからナウェルヘ向かう道中、時折燻製肉がなくなっていたり焚き火に掲げられていたスープが引っくり返ったりしたことは?」

「ああ、良くご存知ですね。陛下からお聞きになったのですか?」


もしかしたら卿達ではない騎士の方達、例えばナウェルの騎士達とかだったらソルは悪くないと思えたのだが、首肯する卿によって事実は裏付けされた。


「その……実はそれ、ソルがナウェルの密猟者に家族と塒を奪われてさ迷っていた際に起こしたことだと先程発覚しまして……」

「おや」


自分がやった訳ではないのに何故か後ろめたい気持ちになりつつも告白をすれば、私の態度とは対照的に何てことないように首を傾げた卿。


「成る程、別にソルが謝るようなことではありませんし、ましてや関係のないサラセリーカ様が謝るようなことではありませんよ。この辺りでは出ませんが、辺境の地に行けば人の血肉を喰らう魔獣という存在にキャンプ地を急襲されることもありますから、皆慣れていますし」

「……魔獣、人の手が入らぬ場所で繁殖するという獣ですよね。意思疏通は一切出来ず人や家畜を襲うため、殺すことでしか対処が出来ないと読んだことがあります」

「はい。彼等は通常の動物達と違い狂暴で、力も比べ物になりません。人の暮らさぬ森などで生きている分には無益に殺めることはありませんが、村や里に降りてきて人を襲うようなことがあればわれわれが出ることもあるので、ソルのしたことは全然可愛いものです」


文献では知りつつも、実際に目にしたことはない未知の存在に心惹かれて逸れていた話題。


最後の一言で本来の筋を思い出した私は、卿のソルのやったこととは関係ないという言葉に首を振り、話す。


「……そうでしたか、ソルの家族を奪ったのはナウェルの騎士だと。成る程、そのことを口滑らせてああいう距離感だったのですね」

「はい。悪いのはソルじゃないし、聞き出したのも私なのだから彼が気にすることじゃないのに」

「この先で仲直り出来ますよ、お二人なら」


荷台で交わされていた話を共有すれば相変わらず察しの良い卿はそれだけで物事を理解してくれて、最後に励ましの言葉まで掛けてくれた。本当に良い人である。


そうして時折会話を織り混ぜながら移動を続け、昼前には目的地である川の近くへと来ていた。


「流石にこの先までは進めないので、ここからは歩いて行きましょうか」

「馬車は大丈夫なんですか?」


踏み固められた地面にごつごつこした石が混ざり始めて少し揺れが大きくなった頃、適当な地に馬車を停めた卿。


馬車で進めないというのは理解出来るが、このまま置いて去っても大丈夫なのかと尋ねれば無言で微笑み荷台の方へ歩いていった。


「ソル。力を借りられませんか?」

『……子童か、どうした?』


後ろの方で聞こえてくる会話、卿の意図に気付いた私は御者台から飛び降りて近くへと寄って荷台の中を覗き込む。


「昨日張ってくれた結界、お願い出来る?」

『……主が望むなら』

「うん、お願い」


手を掛けて顔を出し、ソルの視線がこちらを向いたことを確認してからこの馬車を隠すための結界をお願いする。


先程と変わらずまだぎこちないものの、お願いを受け入れてくれたソルの傍へと立って撫でればその手は受け入れられたから、少しだけほっとした。


「ありがとう」

「これくらい構わぬ」


キンとした耳鳴りから一瞬、転じる空気で結界が張られたことを認識した私は再度ソルの頭をわしわしする。


「ソル、おいで。川に行こう」

「……ああ」


垂れ下がっていた耳、巻かれていた尻尾が上がる姿に安堵しながら腕を伸ばせば、小さいソルは胸元に飛び込んで定位置へと収まった。


「良かったですね」


どう話のきっかけを作ろうかと悩んでいた私を察し、こうしてその取っ掛かりを作ってくれたアーノルド卿を見上げる。


その視線に気付く彼が優しく笑うから、私もだらしない顔で頷いた。


「良いですかソル、サラセリーカ様は未だ虚弱なので川に入らないよう見張っていてください。この気温であれば足首くらいなら許可出来ますが、膝下まで浸かっていたらすぐに引き上げてくださいね」

『わかったわかった、わかったから早く昼飯の用意をしてこい』

「サラセリーカ様も。お気を付けくださいね」

「ハイ」


たまに険しい道を抱えてもらい辿り着いた川。


はしゃぐ私を横目にソルは見張りを頼む卿は、鬱陶しそうに子守りを引き受けた小さな狼を見つめてから最後に忠告を残して昼食の用意をするために傍を離れた。


『こら主、あの童に足首だけだと言われたばかりだろう』

「だってソルばっかりずるい、私も暑いから涼みたい」

『仕方ないだろう主は身体が弱いのだから。ほら、戻る』


ざぶざぶと川の中へ入っていく姿を追い掛けても、意外にも小言を言ってくるソルから即座に川を追い出される。


アーノルド卿がいなければ川遊びが出来ると思っていたのに、まさかソルまで許容してくれないと思っていなかった私は口を尖らせつつも大人しく足首を浸けるだけに止めることにした。


『主、こっちに来てくれ』

「うん?アーノルド卿に怒られる……よ……」


しかしいくら文句を言っても川遊びは許されそうにないので、暫くちゃぷちゃぷと足でソルに水を掛けて遊んでいたら急に険しい顔をして私を呼ぶ声。


さっき来るなと言ったのは自分だしそもそも、流石にもう戻ってくるであろう卿に怒られてしまうと答えれば、傍を揺蕩う妖精さん達の様子がおかしいことに気が付いて言葉が掠れる。


『主、早く』

「うん」


鋭いソルの声に、妖精さん達の怯えにただ事ではないと察した私は川の中へと入ってソルを抱き抱えた。


『寒いだろうが我慢してくれ。水の精霊や妖精は陸地よりも水の中を好むから、こうする方が良いんだ』


膝下を越え、腹の半ばまで浸かる身体に身震いすれば腕の中の温もりがそっと告げられ、再び変わる空気と景色。


ああ、また結界を張ったのかと理解すると同時に、何故そうするのだろうという疑問が当然浮かび上がる。


でも緊迫した様子のソルへそんなことを尋ねている場合ではないとも察せたから、私もその視線の先を追った。

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