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薄幸転生侍女は陛下に仕えたい  作者: 高槻いつ


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薄幸転生侍女と旅路4

荷台の中が無言で満たされても馬車は駆ける。


ソファに座る私、傍で姿勢を崩しているのに離れているという微妙な距離感のソル。


今日は一日中移動して明日街に着く予定だが、この調子でただ二人共にいるのは辛い。


そう早めの判断した私はソファを下り、道中アーノルド卿に用件を伝えるために鳴らすベルとこの辺りの地形が描かれている地図を箱の中から出して、ひとまずりんりん鳴らした。


「サラセリーカ様?どうかなされましたか?」

「あ、アーノルド卿。少々寄り道してもらえませんか?」


軽やかな音を数回、次第に減速してほぼ馬車が止まり掛けた頃に御者台に座る卿から返事が返ってくるから、私は地図を片手に尋ねてみる。


「かしこまりました。どちらへ?」

「この街道の外れに川が流れていますよね?そこに行きたいのです」

「……水遊びは許可出来ませんよ?」


思考の沈黙から了承を得、片手に持った地図を眺めつつ行き先を告げればからかいの言葉が戻ってきたから、過去のことを思い出しつつ適当な理由を作る。


「気分転換をしたいだけです」

「承知しました。ではそのように」


水遊びは禁止されたものの、一見至極全うに聞こえる要望は許可された。


釘を刺された前者に関しては残念だが、もう夏なのだから足を浸けるくらいは許されるだろうと勝手に判断し、それを呑み込んで後に持ち込もうと画策した私。


それに何よりも、外に出て一休憩取れればこの微妙な空気も払拭出来るだろうから。


「用件は以上でしょうか?」


そうして得た寄り道、改善が期待出来るであろうできごとに安堵の息を吐けば、何かを察したらしい卿から最後の確認をされた。


「……外の空気を吸いたいです」

「承知しました。この先で少し停まりますね」


ソルの方をちらりと見て、目が合ってもそっと外されたその様子から少しだけでもこの場を離れた方が良いだろうと、そう卿に要望を告げる。


「喧嘩でもなさったのですか?」


街道の端に寄せられた馬車から降り、私が一人であること、ソルが荷台の微妙なところで尻尾巻いているのを視界に入れた卿が首を傾げた。


「いえ……そういう訳では」

「なるほど」


しかしその割りにそこまで険悪な空気ではなく、私が首肯する訳でもない様子から再び聡く状況を把握したアーノルド卿。


一度、二度。


私と荷台にいるソルを見比べ、それを不可思議に眺めていれば唐突に動き出して荷台に乗り込み、びくりと顔を上げた銀狼を見やるも声は掛けず、ソファにあるクッションを抱えて戻ってきた。


「よろしければ御者台の方へ座りますか?これだけあればお身体も痛くならないかと」


どうやらこの複雑な空気の発端はソルだと察した卿は、私と彼を別けることを思い立ったらしい。


確かに川辺に辿り着くまで沈黙の中にいるよりは卿の傍でがたごと揺れていた方が過ぎる時間も早いかと、私はその提案を呑んだ。


「お待ちくださいサラセリーカ様」

「……一人で乗れますよ?」

「そうではなく」


御者台へクッションが置かれたことを確認してから上へよじ登ろうとしたのだが、制止が掛かる。


この小さな身体では少々大変ではあるものの一人で登れるのだが、と後ろを振り向けばあっさりと抱えられて下ろされ、お待ちくださいと卿は再び荷台へと戻って行った。


「……過剰では?」

「そのようなことは」


荷台にある全てのクッションを手にし、背中と脇にそれを据えてから私を抱え上げて座らせ、最後に持たされたクッションを見下ろしつつ少々やりすぎではないだろうかと首を傾げても卿は迷うことなく否定する。


クッション達がバラバラになって席から落ちないよう、フリンジ部分を互いに括り結ぶという手間を掛けているのに。


更には私が横から落ちないように外からぐるりとロープを回し、手綱と共に持っているというのに。


「サラセリーカ様が幼子のように私の膝の上にいてくださると仰るのであればここまではしないのですが」

「行きましょうか」

「はい」


ここまでしなくても大丈夫である、と抗議しようとしたその瞬間に発せられた代替案に言葉を諦め、満足そうに微笑む卿と移動を再開する。


「お楽しみいただけていますか?」

「とても」


揺れる身体で移ろう視界をきょろきょろと見渡していたからか、横から掛けられた声に弾む声で返す。


「以前卿とサウシェツゥラへ移動した際は楽しむ余裕なんてありませんでしたし、そもそも後半はもう記憶もなかったので」


自業自得ではあるのだが、以前の道中はあの優しい女将さんがいた宿屋で休憩を取って以来の記憶が朧気である。確か一日か二日はこうして卿と移動していた気がするけれど。


「サラセリーカ様が通常よりもお身体が弱い方であると認知していたつもりなのですが、まさか少し水浴びをしただけでお風邪を召されるとは思いもよらなくて……あのときは本当に肝が冷えました」

「ごめんなさい」


霞のような私の記憶とは対照的に、全てを覚えているアーノルド卿は遠い眼をしてぽつりとそう零していた。


あのときは本当に申し訳ないことをしたと思っているから反射的に謝れば、依然見たことがあるような何処か幼い顔で私の方を向く卿に身構える。


「ですので、今日は足を付けるくらいにしてくださいね」

「ハイ」


そうしてにこやかに告げられた言葉に、思わず背筋が伸びた。


もう既に私の目論見なんて最初から見透かした上で話をしているのだから、これから先今以上に長くなった付き合いの頃には何も言えなくなる自分がいるのではないかと少し怖くなったのは秘密である。


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