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薄幸転生侍女は陛下に仕えたい  作者: 高槻いつ


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薄幸転生侍女とソルの話

『前も言った通り、我は銀狼の最後の生き残りだ。以前はまだ父と母、兄と姉もいたが主の元へ来る前に密猟者に追われ、我を逃がすために皆捕まった』


ごとごと揺れる荷台の中、静かに語られる過去。


出会った際に珍しい白狼として追われることもあった、と言っていたことから想像はしていたけど、遠い眼でそれを話すソルはもう過ぎたことだと言うように頭を一度振って続ける。


『我は、元々主と同じく隣国にいた。そこから逃げ続けてさ迷った結果サウシェツゥラにやって来たのだ』


淡々と明かされるソルと同郷であったという事実と、何かを考える一瞬の間。


『まあ……蛇足かもしれないがその最中、我はナウェルへと向かう騎士の集団を見た。それが後にあの童達であったと知るが、そのときは知る由もなかったから度々食料を奪ってやった』

「えっ、アーノルド卿達から?」

『ああ。腹が減っていたし何より人間共が忌々しかったからな、干し肉を齧り取ったり鍋をひっくり返したりしていた。後で主から謝っておいてくれ、我は特に悪いとは思っていないのでな』

「ソル……」


ふん、と逸らされた眼を追うように名前を呼べば、『主は違うぞ』とだけ返ってきて撫でろと要求するように頭を押し付けてくるから、その通り手を伸ばして考える。


騎士の方達からすればソルの行動は褒められたものではないし、寧ろ悪。


でもソルにはソルの理由が、それも生きるために人の食糧を奪うのは叱るべきことなのだろうかと、眉を寄せて悩む。


そもそも人間達が彼等の住み処を奪ったというのに。


『そんな顔するな主、今は全ての人間が悪い訳ではないとわかっている。ただ、あの頃は家族も亡くしたばかりだったし我等を狩った奴らと同じような姿をしていたからな』

「……同じような?」


私を案じてくれる言葉、温もりに触れつつ過去を分け合っていれば、ふとそんな気掛かりなことを耳にして見下ろす。


『いや、その、あのだな』


しまった、といった表情がありありと浮かぶ顔をじっと眺めてしどろもどろに話を誤魔化そうとするソル。


そんな彼を逃しはしないと見つめ続けていたら、観念したソルは一度諦めたように溜息を吐き、『良い話ではない』と前置きをした上で教えてくれた。


『我の家族を殺したのは恐らく、主をあの地下牢へと閉じ込めた奴等なんだ。王が喜ぶ、そう声高に叫びながら我等の塒を焼き、主の記憶を知った時と同じ鎧を身に付けていたから』


うっかりと溢された、似たような姿をしていたという点。


その一言で、ナウェルにいたことを鑑みれば想像に容易い出来事が起こっていたことに唇を噛み俯く。


『わかっているだろう、主のせいじゃない。ほら血が出ているぞ』


顔を顰めるソルは、私の頬を前脚で横に引いてをその行動を止めさせる。


強制的に少しだけ開かれる唇が痛んで、じんわりと口内に血の味が滲んでもどうでも良くて、ただ心配してくれるソルの大切な存在を奪ったナウェルの人間達を初めて、忌まわしく思う。


『良いんだ、もう。家族はいなくなったが城から火の手が上がるところは見ていたし、その先でもう一度違う密猟者に狙われることはあったがそのおかげで主と出会えたのだから』


そうぶつけられた額からは確かに私に対する親しみが、過ぎたことだと割り切った諦観が伝わって来る。


『主が我をそんな風に思ってくれているように、我も等しく主と同じ思いを抱いている。だから主、主が気に病むことではない』


私への気遣いを最後に、ソルはそうして話を終えた。


「ねえソル、私の記憶を共有しているのは精霊さん達のことが関係しているの?」


暫く無言のまま銀色の毛並みを浚い、均して思考を纏めていた頃、不意に浮かんだ疑問をぶつけてみる。


『ああ。……詳しくは言えないが、契約の際に主と我が精霊界へと導かれたとき、一部原初の力を授かる渦中で起こった副作用だ』

「そうなんだ」


細部を隠しながらではあるが、聞きたいこと知れた私は頷いてこれまでのことを整理する。


「ソルが言う原初の力って、私達人間の魂の色が見えたり私の過去を知れたりするのが一部なんだよね?他にはどんなのがあるの?」


今までの付き合いの中で知り得るのはそれくらいで、その他にはどのような力があるのかを尋ねてみればソルは迷いながらも口を開いてくれる。


『昨日張った結界、あれも恩恵の一部だ。そもそも原初の力とは即ち神の御力と知識で、精霊達に与えられているものを我も預かっている。主に結界を張れると言ったのは、主も精霊の力を身に持っているからだ』

「なる、ほど?だからソルが結界を張ったとき、中庭と似たような空気を感じたのかな」

『そうだな。あそこは精霊の力を持たない者達の入口で、導く場所だから』


ソルの言葉を噛み砕きつつ、自分の思考と噛み合わせる。


「……じゃあ私が精霊さん達に近付きすぎたら、どうなるの?精霊の力を擁している私もいつか、精霊さん達と同じ力を得るの?」


そこで丁度良いと、この力の疑問を提示してみた。


「前に感情が乱れて周囲の妖精さん達と混じり合いそうになったとき、アーノルド卿は私の雰囲気が変わったって言ってた。今は精霊の力をある程度流せるけど、もし傍にいる妖精さん達と近付きすぎたらどうなるの?この力を授かる前、中庭にいた精霊さん達は()()()()()()って言ってたけど……っ、ごめん」


問い掛けに、完全に口を閉ざしてしまったソルを責め立てるようにして言葉を重ねていると気付いたとき、はっと即座に区切って謝罪を述べる。


『……いや、主の疑問は最もだ。何も説明せずにその力を押し付けた我等が悪いのだから、主が謝るようなことではない』


重たく息を吐き、そのまま答えるソルを何も言えぬまま見つめる。


『だが、すまない。我の一存でその話は出来ぬのだ。本当に申し訳ない』

「ううん……私こそ、ごめん。話せないことは聞かないって言ったのに」


ただただ頭を垂れて謝罪するソルの顎に手を掛けて、揺れる赤い眼に私も謝ればその眼は隠されてしまう。


『いつか、必ず』

「うん。……待ってる」


そして重々しく告げられた言葉に、前もこんな返事をした気がすると寂しさに似た感情を片隅に覚えながらも、私はそれを呑み込んだ。


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