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薄幸転生侍女は陛下に仕えたい  作者: 高槻いつ


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薄幸転生侍女と出立

アーノルド卿へお墓参りをしたいと駄々を捏ねた三日後。


今日は、出立の日である。


というのもあの後後陛下のお時間をいただきご相談したところ、()()()()()()()()()、と外出の許可をいただいたのだ。


「サラ、気を付けて」

「はい、陛下。行って参ります」


そして朝。


本日もお忙しいはずの陛下がふらりと早朝に自室へと訪れて、ぽんぽんと頭を撫でてからお見送りのお言葉を掛けてくださった。


今日発つことは予めご報告していて、かつ本日陛下の予定がかなり詰まっていることは側近のパウロさんから前日聞いていたから直接挨拶をすることは諦めていたけれど、やはりこうして陛下のご尊顔を拝せるのは幸甚である。


深々と陛下のお姿を見送った後は少し時間を空け、お母様とお姉様がお揃いになっている時間帯に合わせてから挨拶をするためにお二人のところへ向かう。


「お母様、お姉様。それでは行って参ります」

「ええ、気を付けて行くのよ。アーノルド、サラをよろしくね」

「……」


世間話もそこそこに切り上げ、軽い抱擁でお見送りをしてくださるお母様と違いずっと沈黙を携えるお姉様に視線を移せば、少しだけ不満そうな色をする若葉が私を見つめていた。


「……サラ、お出掛けなのよね」

「はいお姉様。隣国のナウェルへ少々出掛けて参ります。お姉様のパーティまでには必ず、お戻りしますから」

「……うん、待ってる」


お姉様と視線を交わし、口を開き掛けたところで桜色の唇がそれを阻止する。


そして事情を説明する私を何処か羨ましそうに見てから、けれどもそれは口にすることなく、お姉様も私を見送ってくださった。



「サラセリーカ様がお気になさることではございませんよ」

「そう、なんですけれど」


最後の準備をするために自室へと戻り、のそのそと支度をしている私を気遣ってくれる卿が後ろ背でそう声を掛けてくれる。


「ただ、お姉様にもっと配慮すべきだったなと。……好奇心の強いお姉様にとって、城を出て隣国へ行くという出来事が、どれ程興味を惹くことか想像出来たはずだったから」


普段着ているものよりも更に簡素なワンピース、最早白い布と言っても過言ではないものに着替え、バッグを肩に下げ、薄手の羽織り物を身に付けながら鬱々と反省。


お姉様は普段の振る舞いから見て取れる通り、『王女』として求められる淑やかな性格というよりも遠くに見える市井で生きる子供達のように爛漫な方である。


部屋に閉じ込められてマナーレッスンをするよりもイルやエミリーを巻き込んで中庭を駆け回るのがお好きだし、庭師に無理を言っては共に害虫を捕まえていたりされるし、良く木登りをしてお母様に叱られているお姿も拝見する。


そんな王女らしからぬお姉様にとって、自分の世界の全てである城から出るということはとても、魅力的だろう。


「今回のように、正当な理由があればカトリーナ様の外出もいずれ認められるでしょう。他国との交流を目的とした訪問、自国の僻地や孤児院、教会などをを周る巡礼。……望まれる形ではないかもしれませんが」

「……そうですね。お姉様は多分、気儘に市井を巡りたいと仰るでしょうから」


今回、私はアーノルド卿が付いていることから、私自身がある程度自分で身を守ることが出来るから、私個人の要件であることから陛下はこの二人旅を許可してくださった。


しかしいずれお姉様にも訪れるであろう外出の際は当然公式の行事であるから護衛は勿論のこと、侍女や使用人達を連れて歩くこととなる。


そうなってはこの城で生活をしているのと何ら差異がないから、折角の外出も楽しめなくなってしまうだろう。


「となればやることは一つ。精進しましょう、一人でお姉様を守り切れる程強くなりましょう」


ただ、今回のアーノルド卿のように一人強者が付いていればある程度の自由を許可してくださるということであれば、今後お姉様の侍女として仕える私が陛下に認められるくらい強くなれば良いということでもあるから、ひとまずはそれを目標にしようと決意を胸に卿と自室を出た。



ナウェルからサウシェツゥラまでの移動、前回は馬車で一週間と半ば以上掛かったが、あれは途中私が水浴びをして風邪を引き無駄に街を回ることとなったから。


更に衰弱状態の私を案じて速度を調整してくれていたからであり、本来馬ならば四日、馬車でも一週間掛からない道程だという。


卿と相乗りをして馬で駆けるのが一番速いが、流石にそれはなりませんと首を横に振られたため、普通に馬車での移動となっていた。


「……サラセリーカ様、本当にお荷物これだけでよろしいのですか?」

「はい」


以前迷いソルを見つけた場所、お城の裏口にて私の荷物を積み込んだ卿がとても不可思議そうにたった一つのカバンに詰められた私物を見て尋ねて来たから、私は頷く。


幾らかの食料や水、ソファとクッション、ソルとの傍ら、場違いに小さいその荷物には着替えしか入っていない。言ってしまえばそれ以外は私にとって必要ではないから、私物はそのカバン一つ。


「女性の荷物は多いと良く同僚の護衛騎士が言っていましたが……うん、これはサラセリーカ様が特殊なのでしょうね」

「本当は勉強道具も持って行きたいのですが、前回の様子を考慮するのに生憎向いていないかと思いまして」

「そうですね。比較的道は整備されているとはいえ、多少は揺れますから」

「はい。ですので、これまで陛下に教わったことを訓練するようにします」

「無理はなさらないように」

「ハイ」


私が体調不良にならないように自重している、と卿が安堵するのも束の間、何もしないで過ごすなどという選択肢のない私を理解した卿はきっちりと釘を刺してから荷台に納まる私ごと幌を掛けて御者台の方へ移動していった。



因みに、今回使う馬車は箱馬車ではなく幌馬車である。


というのも、下手に豪奢な馬車に乗って目立つより、まるである程度荷物を捌いた後の商人に偽装した方が面倒が少ないという考えの元。


なので私は基本荷台にいるとはいえ表に出ても良いように簡素な格好をしているし、アーノルド卿も普段の騎士服ではなくもっとラフな格好をしている。



何事もなく着くと良いなあと考えつつ動き始める馬車に身を任せて、私達はサウシェツゥラを発った。



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