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薄幸転生侍女は陛下に仕えたい  作者: 高槻いつ


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薄幸転生侍女と試験前日のごたごた

くるくるくる、ぱっ、くるくるぱっ。


そんなけんけんぱみたいなリズムで行うのは、明日に控える試験のための訓練。


体内に巡る精霊のチカラと魔力が混ざらないように分割しながら、滞りなくそれぞれを扱えるように一つに集めてはすぐに散らしてそれをどんどんスピード上げつつも精霊のチカラと魔力が混じらないように行う、というのが明日の試験の内容。


これに合格すれば実用的な、人を守ることも傷付けることさえも出来てしまう魔術というものを習えることになっている。


まあ、王都内では訓練場他、緊急時以外に攻撃魔術を使ったら即座に処刑という罰則がある故に私がそれを訓練以外で使うことがあるのかと尋ねられればわからないのだけれど。


とはいえ、攻撃魔術以外の守護魔術や精霊のチカラの欠片が込められた属性鉱石を用いて使用する恒常魔術なんかはこれから使っていなければならないものだから、やはり学んでおいて損はない。


「ふう」


だだっ広い訓練場に一人、午前を潰して訓練に励んでいた私は漸く一息吐いて訓練を止めた。


アーノルド卿は少し前から私のため、お茶の支度をするようメイドに伝えに行き席を外して、騎士団の方達は外で走り込みや模擬線を行うからと日中はいない。


ということで必然的に一人きりな訳だが、精霊さんが先程からちらちらと入口の方を見ては私の周りをぱたぱた飛んでいることから察するにそちらには誰かいる。


声を掛けるべきか否か。いや、そもそも顔を合わせていない段階で私には会いたくないのだろうと察せるのだから、このまま知らないフリをしていようと思考したのは一秒にも満たないことである。


「あれ団長、何をされているのですか?」

「……ノルドか」


しかしそんな私の決断を即座にひっくり返すのは、他ならぬお茶の支度が出来たと呼びに来てくれたアーノルド卿であった。


「サラセリーカ様に御用ですか?」

「いや……」


いくら私のいる場所と出入口付近が離れているとはいえ、訓練の名残でまだ精霊のチカラが体内に巡っている私はこのチカラの恩恵の1つでもある五感が強化されている状態である。


意識的に霧散させればチカラを扱っていない状態まで戻せるとはいえ、かなりのチカラを圧縮して体内で巡らせていたから中々薄まらない。


「本当にどうしたんですか団長?先日もサラセリーカ様に嫌味な態度を見せていたでしょう。いくら表面を取り繕ったとはいえ、サラセリーカ様は大変鋭いお方です。ただでさえあの方を良く思っていない人間達のせいで気苦労が多いのですから、余計な面倒を増やす気でいるのであればお戻りになってください」

「……」


あれやこれやと模索して五感を平常まで戻そうとしているうちに何やらあまり聞いてはいけない気がする話を聞いてしまった気がして、焦る。


「団長が隣国であったあの国を嫌う理由も充分理解しているつもりですが、サラセリーカ様もまたあの国に苦しめられた方の一人です。そして今は、我々が敬意を払う王族の方なのですよ」

「……わかってら」


ああどうしよう、とりあえず早く聞かなかったことにしなきゃと焦れば焦る程に最近悪戯好きな妖精さん達がここぞとばかりに面白がって手を貸してくれる。即ち、一向にチカラが薄まらない。


「とにかく、切り替えが出来ないのであればサラセリーカ様の前に立たないでください。本当に、あの方は努力されて今の場所にお立ちになっていらっしゃるのですから」

「……」


彼女達はそういう存在であるから仕方がない。それを御せない自分の力不足を痛感しながら結局お二人の話を最後まで聞いてしまった私は、アーノルド卿がこちらへ向かってくるのを知りつつ背を向ける。


「サラセリーカ様、お待たせ致しました。別室の方でご休憩を……サラセリーカ様?」

「あ、はい、ありがとうございます」


恐らく訓練に励んでいるように見えるだろう背後から声を掛けられ、まるであたかも今気付いたかのような素振りで振り返る。


「アーノルド卿?どうかされましたか?」


大丈夫、恐らく取り繕えているであろう体面で見上げれば、彼は何故だかこちらをじっと見下ろして沈黙を貫いている。


「……申し訳ありません、聞いておられましたか?」


何か汚れでも付いているのかと自分を見下ろせば至極申し訳なさそうな声が振ってきて、今度は私がアーノルド卿を見つめる形になった。


「前に言った、チカラの痕跡が強く残っているので。その状態だと獣人やそれ以上に五感が鋭くなると以前陛下にお伺いしておりました」


否定するべきか肯定するべきか。


ここはやはり大人の対応を、と口を開き掛けたところで、それを制するようにもう絶対に聞いていなかったことになんて出来ない発言をアーノルド卿からいただく。


「すみません……聞く耳を立てるつもりはなかったのですが」

「いえ、私の方こそ申し訳ありませんでした。サラセリーカ様のお力のことを考え、もっと配慮するべきでしたね」


否定することを諦め、大人しく首肯した私を逆に気遣ってくれる卿。


「サラセリーカ様、一度休憩室の方へ参りましょう。そろそろお昼時ですし、ね?」

「はい」


そして咳払いを一つしてから話題を変え、人の気配の消えた出入口を通って本城と騎士棟を繋ぐ通路を進む。


その道中、騎士の方達が訓練着に着替えたり汗を流したり休憩を取ったりすることの出来る休憩室がいくつも並んでおり、訓練場から一番近いやたらと豪奢な装飾のされる扉が王族のための休憩室である。


「本日はサラセリーカ様が好まれる具を詰めたサンドイッチと、こちらの茶葉をお持ち致しました」

「ありがとうございます」


休憩室のテーブルに並ぶ最早見慣れたもの達。


アーノルド卿から説明を受け、騎士なのに何故か物凄くお茶を淹れるのが上手い卿に手ずから紅茶を注いでもらい、その間に薄くスライスした塩漬け肉(ハム)葉野菜(レタス)とぴりりとした酸味がたまらないマスタードソース的なものが挟まれるサンドイッチを齧る。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


紅茶が注ぎ終わるまでに食べ終わるはずもなく、一度お皿にサンドイッチを置いてからカップを受け取り、水色をじっと見つめて香りを堪能し、一口。


「……トルーク産の、春摘み?」

「はい、正解です。流石でいらっしゃいますね」


美味しい。ただその一言に納得しそうになる前に、目下練習中である茶葉当てを行う。


薄く透き通った黄金の水色、鼻孔を擽る華やかな香りとすっきりとした後味をしつつも舌に残る渋みはお母様が良く好まれる茶葉の特徴である。


始めた当初こそもうどうしようもなく外れてばかりであったが、最近漸く味を覚えてきたところでありこうして正解を導き出せる回数も多くなってきていた。


「アーノルド卿の淹れてくださるお茶は本当に美味しいです」

「光栄です、サラセリーカ様」


無事正解し、ただ味を楽しめる環境を得た私はもう一度紅茶を口に含んでは感嘆の溜息を溢す。


正直、ときたま王城勤めのメイドさんが淹れてくださる紅茶よりもアーノルド卿が淹れてくれる紅茶の方が美味しいときがある。


因みに、私が知る中で一番美味しい紅茶を淹れてくださるのはお母様だ。


最近ご多忙にされているから以前のように中庭を共に散歩してお茶会を開く、という時間を中々取れていないから暫く口にしていないけれど、お母様の紅茶は本当に美味しい。


「そういえばサラセリーカ様、カトリーナ様主催のパーティに参加される準備は進んでいらっしゃるのですか?」


うまうま、と紅茶もサンドイッチも腹に詰めた私を微笑ましそうに見ていた卿が、ふと思い出したようにそう問い掛ける。


「来月、八つを迎えるカトリーナ様を祝うパーティがあるではありませんか。サラセリーカ様のことでいらっしゃるから、私にも内密に準備を進めているのではないかと思っていたのですが……」


固まり、沈黙を貫く私に何かを察したらしいアーノルド卿の声が段々小さくなっていく。


お姉様が今年で八つになられるとは知っていたが、パーティがそんなに間近にあるとは知らなかった私は焦る。


今から何かを準備すれば間に合うであろうが、そんな取り急ぎみたいなプレゼントで喜んでいただけるだろうか。


「戻ります」

「かしこまりました」


とりあえず、今すぐ考えて最大限送れるものを送ろうと席を立ち上がる。


一般的に何を送ったら喜ばれるのかがわからない私は足早に自室へと戻り、資料集めのためにメイドさん達への聞き込みを始めるのだった。


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