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薄幸転生侍女は陛下に仕えたい  作者: 高槻いつ


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23/42

薄幸転生侍女と訓練と

お兄様達の訪問があった同日の夕暮れ時。


「大分上達したな、サラ」

「陛下のご指導の賜物です」


私は以前陛下に教わった精霊と同化しない方法、及び力の制御の仕方を騎士棟内の訓練場にてご指導いただいていた。


前は少し感情がブレるだけで精霊さんをも巻き込んで更に悪循環を生み出すというポンコツぶりであったが、今は多少気分が荒ぶってもこう、外に漏れ出ないようにぎゅっとこの精霊の力で身体を包むことにより精霊さんと隔離するという手段を得たため、そうそうのことでは同化しないようになった。


そしてこの血と共に巡る精霊の力というのは、一般的な人が指輪や杖などを媒介に精霊さんに魔力を与えてから力を借りて魔術の類を発現させるものとは違って、まんま精霊さんが持つ力だということ。


つまり私にも魔力は流れているけれど、何かを媒介することもなく、精霊さんの手を借りずとも魔術の類が扱える。


それだけでも大分チーティングだと思うのだが、これの何よりの恩恵は魔力の中継が少なくなる分より少ない魔力で強力な力を奮うことが出来るという点。


そして私の周りにはこの力に惹かれた精霊さん達が集まりやすいから、お願いしたら更に何においても底上げが出来てしまう。


しかしその分、力が暴発しやすいという面も持っているからこうして陛下から直接扱いを教わるという事態になっているのだけれど。


「あと少しすれば実践に移しても問題なさそうだな」


くるくる身体の中に巡る力を集めたり分散したりして制御に励む私を陛下は見下ろしてから、何かを確かめるように一点を見つめてそう零された。


「本来ならば十を超えた辺りで学ぶことだが、学んでしまえるならば学びたいだろう?」

「はい、勿論でございます」


実践、という言葉が何を指しているのかはわからないが、物事を学ばせていただけるというのならば文句など言わずに付き従うだけなので首肯で答える。


「一週間後に試験を出そう。それに合格したら次に進む」

「承知しました」


そんなお言葉を残して、陛下はこのだだっ広い訓練場から去って行かれる。


「まだ続けられるのですか?」

「……少し、休んでから」


陛下の背をお見送りし、頭を上げた私の次の行動を悟ったアーノルド卿が少し心配そうに見つめているから、ぶっ通しで制御の練習をしようとしていた予定の中に休息を挟むことにした。


「以前はアーノルド卿もこちらで鍛錬を?」

「そうですね。主に騎士見習いや騎士達が使うことの多い場所ですから、私もそれに紛れておりました。体力を付けるためだの効率的に逃げ回るためだの追い込むためだのなんのと名目を置き、剣を持ったまま良く走らされていましたよ」


訓練着を身に付けているのだから構いやしないのに、しっかりと私の座る場所にマントを敷き、その場に促しつつ卿は懐かしそうに答える。


棟内にあるとはいえ、城に勤める騎士の方達がここで訓練をするのだから中はすごく広い。


前世で例えるのならば学校の体育館どころかグラウンド並みに拓けているから、私達のいる入口の方から奥までははっきりと見渡すことは出来ないくらいに。


「剣を振り回した教官達が見習いを追っ掛け回して、それに殴られたら訓練後の走り込みが十週増えるんです。だから、皆死に物狂いで逃げてました」


しかし、そんな中を数百人擁する騎士見習いの方たちが逃げ惑う姿を想像するとこの広さでは狭く感じてくる。


「面白いですよ。殴られて伸びて蹴られる奴もいれば踏まれる奴もいるしで、中々」


無言で場面を思い浮かべる私に、更なる詳細を教えてくれる卿。決して興味深いから黙って聞いていた訳ではないのだが、アーノルド卿はそんな昔を思い出しているのか愉快そうに口元を緩めている。


私へ向けるような表情とはまた違う、幼さを宿す顔。


「なんだノルド、戻りたいなら待ってるぞ?」

「はは、遠慮しておきます」


そんな顔が物珍しくて見上げていれば、彼の後ろからひょっこりと見慣れない男性が現れる。


「お、お嬢ちゃんが陛下のお姫さんか」

「団長」

「すまんすまん」


乱雑に立つ寝癖がそのままな浅い金色の髪、薄灰の隻眼と豪快な様相。まるで丸太のような高い上背と恰幅は隣に立つ卿が小さく見える程で、そんな方がずいっと私の方へ寄って来る


「お初にお目に掛かります、第二王女殿下。第一騎士団を預かりますハロルドがご挨拶申し上げます。爽やかな晴れの日にお会い出来たこと、光の女神に感謝します……なんて、こんな感じか?」


先程の、砕けた雰囲気はなりを潜めて傅くハロルド騎士団長。王子様然とした挨拶、一瞬で畏まった雰囲気に目を瞬けばそれはすぐに引っ込んで相好が崩される。


「申し訳ありませんサラセリーカ様、後で強く言って聞かせますので」

「あっははは」


私が挨拶を返す間もなくハロルド団長を叱責するアーノルド卿、それに慣れたように意にも返さず笑い飛ばす団長。その間柄には見た目以上の強い繋がりを感じられて、私は二人のただやり取りを眺める。


「ま、お姫様。ご用の際は声掛けてくださいよ」

「……はい。よろしくお願いしますね、ハロルド騎士団長」


一通りアーノルド卿に叱られた後、何事もなかったかのようにハロルド団長は再度私に向き直って頭を下げる。


「ところで団長、何か御用で?」

「ああ、そうだった。この後急遽全体の模擬戦が入ることになってな、場所を借りたいんだ」

「こんな時間からですか?」

「そ、急遽なんだよ急遽」


私の前に立ち、ここへ訪れた本来の予定を聞き出したアーノルド卿は不可解な時間から始まるそれに首を傾げた。


「私達は戻りましょう、アーノルド卿」

「よろしいのですか?」

「はい、大丈夫です」


何にせよ、この場に騎士の方たちか集まるのならば私は邪魔だろうと撤収することを決める。


もう少し制御の練習をしたかったのは本音であるが、邪魔をしてまで行うものでもないと告げて私達は訓練場を後にした。


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