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薄幸転生王女は侍女になる

「…………夜中」


翌、未明。変な時間に眠ってしまった私は、すっかり真っ暗な時間に起きてしまった。


騎士さんがベッドへ寝かせてくれたのか、久々にベッドの上で目覚めるという経験をする。


「んん……」


蝋燭も灯らない、カーテンも締め切られた部屋は真っ暗であったが、ずっと光の差さらない場所で育った私は少しだけ夜目が利く。


そして辺りを見回して見つけた騎士さんがベッドではなく、ベッドの側で壁に凭れ掛かるように見て申し訳なく思う。


「まっくら」


前世は、暗いのが大の苦手だった。叱られる時はいつも蔵に折檻されていたから。けれど今世は、暗がりだけが私を癒やしてくれる時間だった。暗い時は、誰もいない時、だから。


「サラセリーカ様?」

「騎士さん?」


ベッドでぼうっとそんなことを思い出していると、横から声が掛ける。私がそちらへ視線を向ければ、先程まで眠っていたはずの騎士さんがはっきり目を開け、私を見ていた。


「お目覚めになってしまいましたか?」

「あ、このままで、大丈夫です」


立ち上がり、蝋燭を灯そうとしてくれる騎士さん。私はそれを制止する。


「見えるのですか?」

「少しだけ、ですけど」


音も立てず行動に移そうとしていた騎士さんが驚いたように振り返る。


「でしたら、お望みの通りに」


少し笑い、騎士さんは私の隣に戻ってきた。


「まだお眠りになられますか?」

「いえ、」

「それなら、散歩でもしますか?」


このまま何もせずに部屋にいるのは退屈だろうと考えた騎士さんが、散歩に出ないかと提案してくれる。私は二つ返事で頷き、騎士さんに着いていくことにした。




「うう」


さて、宿を出てから数分。最初は意気揚々と歩いていた私だったが、そもそも私は隔離されて育ったのだ。そんな人間が自分の足で散歩など出来るはずもなく、私は騎士さんに抱えられて移動していた。


「最初からこのつもりでしたから」


などと騎士さんは気を遣ってくれる。私は申し訳なさで一杯だが、騎士さんは気にせず街を歩く。


「そろそろ空が白んで、市場では朝市が始まりますよ」


現在、空はまだくらい。それでも騎士さん曰く、もう朝市が始まるのだと言う。


「サラセリーカ様は……まだ、連れていかない方が良いかもしれませんね」

「どうしてですか?」

「人が多過ぎて酔います」


成る程。それは確かに耐えられそうにない。大人しく引き下がった私はもう暫く騎士さんに抱えられ、夜が完全に明けてから、宿へと戻った。


「おかえり。散歩かい?」

「はい」


宿の前を掃いていた女将さんに出迎えられる。こくこくと私が頷けば、女将さんは直ぐにご飯を持ってきてくれるという。


「昨日は食べずに寝ちまっただろ?沢山食べな」


部屋のテーブルに並べられる料理の数々。でも一つ一つは少量で、私がそんなに食べられないからと、数を増やしてくれた印象だ。


「ありがとうございます」


にこやかに礼を言って、私はまず野菜のスープに手を伸ばす。


「美味しい」


くったくたになるまで煮込まれた野菜の甘味と、少しだけ入っている肉の旨味。スープは塩で味を整えただけのものだが、それでも十分美味しい。前世の記憶で言うのならブイヨンと胡椒が欲しい所ではあるが、隔離生活時の残飯床ご飯に比べれば文句なんてない。


「美味しかった、です」


ご馳走さま、と言いたくなるのは刻み込まれた性か。なんとか堪え、食器を下げに来てくれた女将さんにそう伝えれば、女将さんは何故かいいこいいこしてくれた。


「馬車の手配は済んでるよ。準備が出来たら下に来な」


と騎士さんに告げ、女将さんは部屋から出ていった。


私は特に準備するものなどない為なんとなく騎士さんを見上げる。


「…………行きましょうか」


どうやら騎士さんも、支度するものはないらしい。私を抱え、一階へと移動する。


「ありゃ、もういいのかい?」

「はい。ありがとうございました」

「ありがとうございました!」


下にいた女将さんに礼を告げ、騎士さんがチップらしきものを女将さんに渡していた。


「こ、こんなにもらえないよ」

「受け取ってください。サラセリーカ様の気持ちです」


ん?私?名前を呼ばれたから騎士さんの方を向けば、意味深に騎士さんが微笑んだ。


「ありがとうございました」


よくわからないので女将さんにもう一度感謝を伝えれば、諦めたようにチップを受け取った。なんか、ぴかぴかした金のコインだったけど、見ないことにしたよ。


「じゃあね、お嬢ちゃん」

「あい!」


見送りに来てくれた女将さんに頭を下げて、騎士さんに馬車へ乗せてもらう。


箱形のシンプルな馬車。何故私だけ中に乗せたのか疑問に思えば、騎士さんは御者台の方にいた。


「それでは」


女将さんに最後の挨拶を告げ、騎士さんは馬車を走らせた。


「あ、昨日のお馬さん」


覗き窓から御者台の方を覗いてみると、昨日ここまで連れてきてくれたお馬さんが馬車を引いていた。


「サラセリーカ様。ここから王都まで、飛ばしても一週間は掛かります。途中宿を経由しますが、しんどくなればお申し付けください」

「はい」


覗き窓を開け、気を遣ってくれる騎士さんに頷く。


一週間、馬車の上。半日馬に乗った程度で死にかけていた私が耐えられるのかどうかは謎だけど、とりあえず王都は楽しみである。




そして一週間後。大きな出来事もないまま、無事に王都に辿り着いた。


「サラセリーカ様」

「あい」

「サラセリーカ様、お気を確かに」

「あい」


私は、半分死んでいたけど。


二日目くらいまでは良かった。しかし三日目以降、体調を崩した。きっと道中水浴びとかして遊んでたからだと思う。


途中の街で休息を取ろうという騎士さんに大丈夫だと言い張って無理矢理連れてきてもらったが、もうダメである。


「サラセリーカ様。お部屋にお連れしますよ」

「あい」


騎士さんが何かを言っているのはわかる。けれど、何言ってるのかよくわからない。けどとりあえず返事する。


なんか視界がやけにぴかぴかきらきらしてるなあなんて思いつつ、私は騎士さんに抱えられていた。


「とりあえず身体を清めて薬を飲ませて休ませてください」

「道中飲ませなかったのですか?」

「勿論街で購入して飲ませていたのですが、この通りなんです」


なんか騎士さんと誰かが話している。その人に私を預けた騎士さんが、何処かに行った。


「全く、姫様にこのような無茶を強いるだなんて」


意識半ばのまま、なんだか心地よい温度に身を委ねる。起きてるのか眠っているのかわからない意識のまま、私は揺蕩う。


「この子がサラ?」

「みたいね、貴女の妹になるのよ」

「早く元気にならないかな」


途中、可愛い女の子と麗しい女性が様子を見に来たから話し掛けようと思ったけど、身体が動かなくて諦めた。


けれど誰かに世話をされる温もりがとても懐かしくて、私は泣いた。




「しらないてんじょうだ」


パチリと目が覚めた。真っ白な天井……天蓋が視界に広がる。


「お目覚めですか、姫様?」


何処だここと戸惑っていると、カーテンを避けて一人の女性が私を伺う。


「…………ひめさま?」


それよりも、その女性が放った呼び名に首を傾げる。確かに弱小国の姫ではあったが、そんな呼び方をされたことはない。


私がそんな風に悩んでいると、女性が口を開く。


「はい、サラセリーカ。貴女はここサウシェツゥラの、姫君ですよ」


聞いても、やはり理解が出来ない。サウシェツゥラの姫、とは、一体どういうことだ。


「陛下がお決めになったそうです。ですから貴女は、第二王女です」


説明されても理解できなかった。隣国の弱小国の死にかけ王女を大国の王女にするメリット一体なんだ。


「その辺りは陛下が説明されますわ」


金髪の麗人が、カーテンを下ろす。


何か少し怒っていた様子だけど、その怒りはどちらかというと王様に向けられている気がする。


「サラセリーカ。こっちへ来て、支度を整えなさい」

「はい」


よくわからないので、先程会った女性の言う通りにしてみることにした。




それが間違いだと気付いたのは、着飾られた後であった。




「陛下、サラセリーカが目覚めました」

「そうか」


やたらと着せ変えられるなとは思っていた。なんかやけに張り切ってるなとも思っていた。まさか、それが王様と謁見する為だとは思わなかったけど。


「こっちに来い、サラセリーカ」


()()()の後ろから王様の前に立つ。何度見てもこの射抜くような眼差しに惹かれてしまう。


「そういう訳で、お前は今日からサウシェツゥラの王女だ」


きっとどういう訳なんだというのは、聞いてはいけないんだ。


私はひざまづいて、神妙に答える。


「いえ、陛下。わたくしは貴方様に仕えたいのです。王女ではなく、貴方様に仕えさせてください」


はて、こんなことを言う予定ではなかったのだが、口から出てきた言葉はそれであった。


「ほう?」


自分の言葉に戸惑い、どう取り繕うかと焦っていると、興味深げな陛下の声がする。もう開き直るっきゃないと決意した私は、続きを言う。


「貴方様のその瞳に一目惚れしました。雇ってください」


見た目五歳時の幼女が何を言っているんだろうと思う。というか、精神年齢三十路の女がなんてボキャブラリーだとも思った。仕方ない、浮かんだ言葉がそれだったんだ。


「良いのか?王女としての世活を失っても」

「全く問題ありません。命を救って頂いた貴方様に、使って頂きたいのです」


最早一世一代の告白。何故この人に仕えたいのかも、何故この人に使われたいと思うのかもよくわからない。


けれど、選べるのなら私は王女としての生活ではない、この人に使われる生活を選びたいと思ったのだから仕方ない。


「それなら、お前の姉になるはずだったカトリーナの侍女として勉強しろ。私が雇ってやってもいいと思ったら、雇ってやる」


それでもいいのかと、確認する陛下。私は二つ返事で頷き、何故か、侍女になることが決まった。






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